思い出
たまごは三個だったそうです。
ひとつはヘビに食べられて、もうひとつは途中で死んでしまい、無事に殻を破ったのはわたしだけ。そう聞いています。
白い羽根が生え始めたわたしを見て、おかあさんはとても驚いていました。わたしも、おかあさんの羽根が黒くて、びっくりしたのをよく覚えています。
白い羽根が願い事を叶えるとわかったのは、本当にたまたまでした。その日は、とても風が強く、抜けた羽根をおかあさんが拾って、
「風がやめばいいのにね」
と言うと、ぱたりとやんだのです。
何度か試して、偶然ではないとわかりました。綺麗な羽根の一枚につき、願いは一つです。
こんな変なわたしでしたが、おかあさんは見捨てたりせずに大事に育ててくれました。
巣立ち間近に、おかあさんはいいました。
「願い事はあなたが友達を助ける時だけに使いなさい」
最初で、最後の約束でした。
わたしが巣立ちをした日、おかあさんはテッポウで撃たれたのです。
わたしは、おかあさんのそばで、何度も何度も羽根を抜いて願いました。
けれど、おかあさんが起きることはありませんでした。
おかあさんの命と引き換えに、叶わない願いがあることを知ったのです。