黒の、小さな使い
大きな葉が茂る木に潜み、白い羽根をめいいっぱい小さくさせて、カラスは震えていました。
友達になりましょう。
とても素敵な言葉でした。
はい。
その一言で友達になれたかもしれません。
けれど、言えません。カラスは、カラスがとても恐ろしいのです。
突然、葉が枝が揺れました。
カラスは息を殺し、身構えます。
枝から枝へ跳び、小さなカラスが近づいてきます。どんな角度の枝に掴まっても、視線はこちらを向いています。
カラスは、外へ飛び出しました。
すぐさま小さなカラスも飛んできます。葉も枝ももろともしない、風のような速さで高く舞い上がり、
「ちょうだい。ちょうだい。お前の汚ぁい白い羽根」
頭の上で、小さなカラスが無邪気に笑いながら歌います。
カラスは木々の間に逃げ込もうとします。けれど、小さなカラスに翼を蹴られ、地面へ落ちました。
衝撃が追いかけてきました。
小さな足の、小さな爪が、猛獣の牙のように、白い翼を捕らえます。カラスは縫いつけられたように動けませんでした。
「いちまーい」
小さなカラスは歌います。
ぶちっ と 嘴が羽根を一枚、引き抜いて、
「足りない、足りなーい。あと、いちまーい」
次は数枚の羽根と皮膚を引き千切って、小さなカラスはまたたく間に飛び去っていきました。
赤い血が尾を引くように、降ってきます。
カラスは、しばらく動けませんでした。羽根を千切られた翼が痛みます。それに、頭の中が嵐のようにひどく混乱していました。
嵐が静まってくると、次は恐怖と、それよりも大きな焦りが波となって襲ってきました。
カラスは、飛ばずに歩き出します。
悪口も暴力も、数え切れないほどありました。でも、白い羽根だけを狙われたのは初めてでした。
ヒミツがばれてしまったのかもしれない。
ネズミの願いを、クマの願いを、叶えました。
いつもひとりだったので、他の目を気にしていませんでした。誰も見ていなかったとは言い切れないことに、やっと気がついたのです。
じぶんの迂闊さを呪いますが、もう手遅れです。
もう逃げなければなりません。
ネズミがくるかもしれない。そんなことが頭をよぎりましたが、いつか、ここではないどこかで逢えることを願うしかありませんでした。