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ともだち  作者: 猫野 朔
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ともだち




 外はこの冬一番の嵐に見舞われ、荒れ狂う風の轟音が穴ぐらの奥まで届いてきます。

 幸い、風も雪も中には入ってきません。

 温かい穴ぐらで寒さがほぐれていくと、小さなネズミが、ぽつりぽつりとためらいながら話しはじめました。


 羽根が黒くなった原因をカラスは納得した様子で聞いていましたが、実は小さなネズミがずっと穴ぐらにいてひっそり生活していたことには、とても驚き、少しだけ怒った素振りをみせて小さなネズミをハラハラさせました。


「冗談ですよ。ずっと探していました。やっと逢えて嬉しいです」


 カラスの優しさは小さなネズミを喜ばせると同時に安堵させました。

 

 そんな微笑ましい一羽と一匹のやり取りをクマは寝転びながら眺めていましたが、急に小さなネズミが食ってかかってきたので目を丸くしました。


「なっ、なんだよ」


「わたしの巣から勝手に白い羽根を持っていって! ひどいです!」


「あぁ、それは悪かった。お前が大事に持っててくれたおかげで、あいつを納得させることができた。お手柄だ」


「むぅー」


 大きな手が小さなネズミの頭をぐいぐいと撫でまわします。褒められて悪い気はしませんが、腑に落ちません。小さなネズミは口をへの字にしています。


 横からカラスが不安そうに言います。


「どんな願い事をするんでしょうね」


「それは心配ありませんよ。なにを願っても叶いませんから。だって、あの羽根であなたを黒くしたんですよ」


「えっ!」


 カラスは驚き、クマを見ます。小さなネズミの告白にうんうんとうなづいており、


「願ったのはネズミだからな、嘘はついてない。恐ろしいくらいの執念だったから、ちょっと可哀想だがな。叶わなくても、お前が死にかけたから羽根の力がなくなったと納得するだろ」


『主が死の淵に立ったんだ、羽根が願い事を叶える力を持ち続けているかはわからないがな』


 羽根を差し出した時にクマが言ったことはデタラメです。それをあえて伝えたのは、使えないと知った時、諦めるための一つの材料として提示したものでした。羽根の力には不確定要素がまだ残っているので、力がなくなるきっかけがカラスが生死をさまよったこと言っても、そう不自然ではありません。

 

 けれど、黒いカラスは真偽を確かめに遅かれ早かれ様子を伺いにくるでしょう。それをやり過ごすためには、カラスの協力が重要です。


 クマはおもむろに居直り、カラスに向かいあいました。


「その黒い羽根に願いを叶える力があるか試したか?」


 問いかけに、カラスの表情が曇ります。

 力がなくなってしまってがっかりしているのか、それとも、力が失われずにいるから不安なのか、その口は語りません。

 本当は、カラスに話してほしかったのですが、クマは問い詰めることはしませんでした。


「もし力があっても、二度と使わず、誰にも使わせないでくれ。万が一、あいつに知れたら次は絶対に引き下がらない。あいつか、お前か、どちらか死ぬことになる」


「……どうして、そこまで気にかけてくれるんですか?」


 ずっと秘めていた疑問をカラスは口にします。どんぐりを実らせた。それくらいしか、してあげたことがないのです。

 クマは少し考え、言葉を選びます。


「……一つは、どんぐりの礼だ。あとは、お節介とおれ自身のためだ。あんなとんでもないものをほいほい使われてみろ。山がめちゃくちゃになって、誰も生きていけなくなる。もう一つ本音を言えば……」


 言いかけて、クマの言葉が詰まります。

 

 眉間をよせ、伝えるか伝えまいか苦悩した様子で、うーん、うーん、と何度かうなったのち、意を決して口を開き、


「友達になりたいやつを見捨てられなかった」


 そう言って、クマははずかしさにたえきれず、両手で頭を抱え、寝床のすみに伏せてしまいました。だから、カラスがどんな表情をしていたかは、そばでにやにやしながら見守っていた小さなネズミにしかわかりません。


 小さなネズミはちょっとだけクマをうらやましく思いました。なぜなら、カラスの、花が咲いたような満面の笑みを引き出したのですから。






◇おわり◇


ここまで読んでくださり、誠にありがとうございます。

数字でしかわからず、直接お礼を申し上げられないのが大変心苦しいのですが、この拙い話に大切な時間を使っていただき、本当に感謝しています。

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