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ともだち  作者: 猫野 朔
18/19

そして




 厚い雲が空を覆っているため昼間なのに少し薄暗いのですが、それでもクマはまぶしそうに目を細めています。


 黒いカラスは一瞬ひるみました。冬ごもりしていればクマは出てこないと考え、それでも用心して嵐の前に決行したというのに、今、クマがあらわれているのです。


 けれど、その手にある白い羽根が黒いカラス踏みとどませます。


 クマは実に器用に白い羽根を傷つけないように持ち、


「体に残ってる羽根は、もう全部傷ついてて使えないのは本当だ。取れたのはこの一枚だけさ」


「そんな……」


 黒いカラスの顔に絶望の色が浮かびます。全身から力が抜けていくのが手に取るようにわかり、カラスは小さなネズミのそばに駆けよります。

 なんだか申し訳なさそうに首をすくめる小さなネズミに、カラスは小声で、逢えてよかった、と言いました。


 クマの話は続きます。


「おれは、この羽根になにも願っていない。長いことここを監視したお前の気力に敬意を表して、こいつはくれてやる。まぁ、主が死の淵に立ったんだ、羽根が願い事を叶える力を持ち続けているかはわからないがな」


 そう言って、雪の上に白い羽根を置き、数歩離れていきます。


 黒いカラスはクマと羽根を交互に見ながら、ゆっくりと起き上がります。クマから視線をはずさず、いつでも飛べるように構えながら、白い羽根を取りました。

 クマは襲ってくる素振りもありません。


 羽根をくわえ、黒いカラスは近くの枝にとまると、


「……なぜ、願わなかったのですか?」 


 そうたずねました。

 そばに垂涎のものをおきながら、使わずにいることがどうしても信じないられないのです。


「簡単な話だ。願いが羽根で叶えてはいけないものだった。それだけだ」


「そんなものがあるとは思えません」


「お前は羽根しか見てないからだ」


「――他に価値などありません」


 黒いカラスはそう吐き捨て、飛び去っていきました。その影はみるみる遠くなり、ほどなくして、曇天の彼方で見えなくなりました。


 氷のような突風が粉雪を連れてきました。


「さっ、さ、寒い!」


 ぶるりと震えた小さなネズミが、風から逃げるようにカラスにくっついたと思うと、夢中で羽毛に潜り込みます。カラスはびっくりしてふらつくとクマに抱えられました。

 カラスが顔をあげると、クマと目が合いました。

 

「またご迷惑おかけして申し訳ありません」


「いいんだ。……とにかく早く中に入ろう。あー! 寒い!」


 そう叫んだクマも震えています。

 そして、温かいカラスをぎゅっと抱えながら、穴ぐらに駆け込みます。


 羽毛から顔を出した小さなネズミがくすくすと笑っていました。



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