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ともだち  作者: 猫野 朔
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我慢の限界



 黒いカラスの言葉に心をかき乱されます。

 

「どうしました? もしかして図星でしょうか?」


 カラスは顔をあげられずにいましたが、黒いカラスの嬉しそうな顔が目に浮かぶようでした。


「可哀想に。搾取されるためだけに囲われているなんて……」


 同情するような声色。

 黒いカラスの言葉を聞いて、カラスはゆっくりと顔をあげます。


「いいえ、彼はなにも奪ってはいません」


 おどされたのは事実です。けれど、本当に穏やかでした。ねぐらの森で孤独といつ虐げられるかおびえていた日々なんかとは比べものにならない、ずっと胸の中に大事にしまっておきたい宝物のような日々でした。


 言い返され、黒いカラスは表情がみるみる歪んでいきます。


 彼は、ずっと遠くから見ていたのです。穴ぐらの中にお目当てがいるのに、昼間、これ見よがしに穴ぐらの入り口で寝ているクマを。ずっと待っていたのです。クマが冬ごもりでぐっすりと眠るのを。羽根がぼろぼろになろうと、やつれようと構わず、願いを叶えるためにたえてきたのです。


 もう我慢の限界でした。

 

 黒いカラスの顔は、鳥のそれとは思えないほど歪んでいました。願いを叶えるためにカラスを殺し、羽根を手に入れることだけが頭を駆けめぐります。懐柔して遠くに連れ出してからと思っていましたが、


「もういい。ここでお前を殺して羽根をもらう」


 カラスは後ずさります。身の危険を感じてはいましたが、眠っているはずのクマを起こすのは気が引けて少しずつ穴ぐらから離れていきます。

 

 黒いカラスが翼を広げ、カラスに飛びかかろうとした瞬間、その歪んだ顔に小さなものがぶつかってきました。

 面食らった黒いカラスは、雪の中に落ちたそれに目を落とします。

 驚くことに、そこにいたのは小さなネズミでした。姿勢を低く構え、鋭い声で威嚇してきます。


「わたしの友達に手を出すなら、ただじゃおきません!」


「はっ、勇ましい。なら、友達と一緒に死な、くっ!」


 黒いカラスの言葉は途中までしか出なかったのは、カラスに体当たりされて雪の中に倒されたからでした。


 カラスは小さなネズミの盾となり、必死に黒いカラスに訴えます。


「もう願いを叶えられる白い羽根は残っていません。お願いですから、お引取りください!」


「嘘を……嘘をつくな! あるかないかはこの目で確かめなければ信じない! お前を殺して、一枚一枚みてやる!」


「いや、一枚だけあるぞ」


 そう言ったのは、ゆっくりと暗がりから出てきたクマでした。



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