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ともだち  作者: 猫野 朔
16/19

再び



 

 しばらく雪が降りませんでした。

 

 穴ぐらを中心にして、木についたままの実をつっついたり、うろや木の皮の隙間などで眠っている虫を探したりしながら、お日さまが出ている間は限られた餌を探して飛びまわります。


 群れをつくるのは主に若いカラス達です。経験の少なさを数で補いながら、あらゆる経験を積んでいきます。すっかりまだらがなじんだカラスも本来はまだ群れにいる歳ですが、元々一羽でいたようなものだったので、あまり苦ではありませんでした。


 

 カラスは空を仰ぎました。


 急に冷え込んできたと思ったら、黒い雲が空を覆い始め、飛んでもたどり着けないずっと高い場所で風がごーごーと低い唸り声をあげています。

 それに、いつの間にかまわりから鳥の声がしなくなりました。


 じきに大荒れになりそうです。

 

 動けなくなる前に、急いで穴ぐらへ向かいました。

 そう離れてない距離なのに、二度、三度と突風にあおられ、カラスはふらつきながら穴ぐらの近くに降りました。

 まだ雪深く、春の気配は爪の先も感じられません。

 春が待ち遠しいから今年の冬は特に長く感じます。雪がとけて冬ごもりの終わりがきたら、すぐにでも小さなネズミを探しにいこう。そんなことを考えていました。

 

「ずいぶんとひどい姿になりましたね」


 不意に後ろから話しかけられ、カラスは振り返りました。


 そこには黒いカラスがいました。


 なにも言わずにそこにいただけなら、違うカラスとしか思わなかったでしょう。なぜなら、夜のように深く美しかった羽根がすっかりつやを失って毛羽立ち、目はうつろにくぼんでしまっていたのです。声だけが、かつてのまま変わらずにいました。

 

 少しだけ思い出の恐怖にとらわれそうになりましたが、カラスはぐっとのみこみ、黒いカラスに言います。


「ひどくはありません。黒白も案外いいものですよ」


「言うようになりましたね。あんなに強い友達に守られていれば、気が大きくなるのもわかりますよ」


 ふふっ、と黒いカラスは笑います。

 カラスは強い友達と言われて、クマを思い浮かべますが、以前友達じゃないと言われたことが引っかかり、表情を曇らせました。


 その変化を黒いカラスは見逃しません。


「おやおや、友達ではありませんでしたか? わたし、見ていたんですよ。友達になったから、あいつの願いを叶えてあげたのでしょう?」


 黒いカラスはカラスのまわりをゆっくりと歩きます。歩きながら、カラスを観察しています。

表情だけでなく、姿勢の変化、目の動き、そして、黒の中に残る白い羽根の状態を。


「もしかして、あいつは、あなたの羽根がほしいから一緒にいるのですか?」


『白い羽根が欲しくて邪魔ものを殺しただけだ』


 黒いカラスの言葉が、記憶に残る恐ろしいクマの姿を言葉を呼び起こします。どくんと心臓が大きく鳴りました。殺意。押しつけられた爪の重さ。首につきつけられた牙の生暖かさ。胸が苦しくて、カラスはうつむいてしまいました。




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