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ともだち  作者: 猫野 朔
15/19

意図せず




 穴を飛び出した小さなネズミは、クマの手にぶつかって笹の上をころころ転がり、目をまわしていました。


 なにはともあれ、まずはこの小さな居候をどうにかしなければいけません。


 カラスをここで介抱するようになってから、小さなネズミは穴ぐらの近くに巣を移しました。あまりに看病のため入り浸っていたので、疲れたら休めるようにと小さな穴を作ったところ、あれやこれやと自分の好きなモノを穴に持ち込み、そのまま冬ごもりまでするようになったのです。


 視界が落ち着くと、小さなネズミは抗議の声をあげます。


「もうっ! 急になにするんですか!」


「こうでもしないと出てこないだろ。なぁ、お前はいつまでカラスから逃げてるつもりだ?」


 クマに指摘されると、小さなネズミの小さな耳と尻尾がしゅんと元気をなくします。


 逃げると言われると少し不服ではありました。実際は隠れているのです。気をつけていても、何度か見つかりそうになりました。いいか悪いかわかりませんが、まさかネズミが穴ぐらにいるとは夢にも思っていないカラスの目にはとまらず、今にいたるわけです。

 別に嫌いになったわけではないので、ちゃんと会いたいのは山々ですが、黒くなった羽根を見ると心が痛みます。小さなネズミが黒くさせてしまったのですから余計にです。

 

 ことの次第はこうでした。


 小さなネズミは、熱にうなされていたカラスに水を飲ませたり、傷ついて抜けた羽根をせっせと片付けたりしていました。その中でたった一枚だけ、奇跡的に傷もなく綺麗なまま抜けた白い羽根があったのです。あまりに美しく、うっとりと羽根を眺めていましたが、元はと言えば、この羽根が原因でカラスは襲われ、ひどい目にあったことに気がついたのです。

 本当に何気なく、小さなネズミはこぼしたのです。


「黒い羽根がはえてくればいいのに……」


 願っていなくても、成就したのです。


 翌日から、種が芽をふくように黒い羽根がはえてきました。


 クマはそのことを一度も責めていません。

 このままずっと狙われずにすむなら、黒くていいとさえ思っています。


 けれど、カラスはどう思っているのでしょう?

 

 責任を感じてしょんぼりしている小さなネズミの姿には、あの時の勇ましさはどこにも見あたりません。友達を助けたい。その一心で動いていたはずです。なのに、そばにいるのに隠れているなんて、本当にもったいないことです。


「カラスは大事な友達なんだろう? このままお別れでいいのか?」


 ふるふるとネズミが首を横に振ります。


「なら、動くべきだ」


 あとは勇気だけです。クマの前でも臆せず飛びだしたくらいのものがあれば、きっと大丈夫です。


 くあぁ、とクマが大きなあくびをしました。

 小さなネズミもつられて小さくあくびをします。

 お互い、冬ごもりの真っ最中です。あまり長く起きてはいられません。


 クマの温かそうな毛並みを見ながら、ネズミが言いました。


「わたしもくっついて寝てもいいですか?」


「いいが、気づかずつぶすかもしれない」


「……穴に戻ります」


「ああ、おやすみ」


 穴にもぐっていく小さなネズミを見届け、クマは眠気に倒されて寝転がりました。意識が夢に食われるのを感じながら、カラスと友達だと言える小さなネズミをうらやましく思いました。


 

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