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ともだち  作者: 猫野 朔
12/19


 

 カラスの翼は飛ぶためにあります。

 ずっとたたんだままでいると体がむずむずしてきてきます。翼が、飛べと衝動を起こしているのです。

 なので、時々、穴ぐらの中で翼を大きく羽ばたかせました。クマのいない真夜中は、翼を広げて夜風をあてたりもしました。


 衝動が落ち着くと、ネズミのことを考えました。あの襲撃の最中にいなくなったのは確かです。今もつつがなく元気でいるでしょうか。それが一番の気がかりでした。


 お日さまが高くなっても、風がひやりと冷たくなりました。

 霜が降りると木々を彩った葉はすっかり落ちました。冬ごもりをする動物達がその上をせわしなく駆けまわり、準備に追われています。


 クマも例外ではなく、カラスの餌と一緒に大量のクマ笹を穴ぐらに持ち込むようになりました。大きな手と鼻先を器用に使い、クマ笹を敷きつめてねぐらを作るのです。冬ごもりをしないカラスにとって、とても興味深いものでした。

 

 クマが忙しそうなので、カラスがお手伝いを申し出ると、少し考えてからぼそぼそと言いました。


「寒くなったらたまに隣で寝てくれればいい」


「いいですけど、寝ぼけて食べたりしませんよね?」


 カラスの問いに、クマは顔をしかめます。冗談で言ったようにも聞こえましたが、真面目に答えます。


「ねぐらで殺生はしない」


 そう言って、クマは背を向け、穴ぐらのすみにもクマ笹をしきつめていきました。

 カラスは小さく笑います。

 穴ぐらは笹のいい香りでいっぱいになりました。

 

 やがて、初雪がちらつきました。

 二度目の雪は次の日にはとけてしまい、三度目の雪は一日中激しくふぶき、すべてを真っ白く包んでしまいました。その日、ねぐらで丸くなっていたクマが静かに言いました。


「もうおれは寝てしまう。出ていっても、きっと気づかないだろう。……それでも、ここにいてくれないか」


 このふぶきで根雪になるのでしょう。そうすると冬ごもりの始まりのようで、クマの声はもう眠そうです。

 カラスは何も言いません。ただじっとクマを見ています。しばらくすると穏やかな寝息が聞こえていました。

 

 ふぶきがやむと、カラスは穴ぐらの外に出てみました。


 降り積もった新しい雪は綿毛のように柔らかく、お日さまの光をきらきらと照り返します。

 冷えきった風がひりりと黒と白の羽根を撫でていきました。


 飛べ!


 翼が叫びました。

 カラスは大きく羽ばたきます。雪の粒が舞い、星のように輝いています。ひさかたぶりの飛翔は難なく体を枝の上へと運んでいきました。自分は空を飛ぶ生き物なんだと、改めて噛みしめました。

 翼がささやきます。


 どこへだって行ける。

 どこにでも行くことができる。


 同感でした。けれど、心は動かされません。カラスは今しがた出てきた穴ぐらを見、そこで眠っているクマの寝顔を思い出していました。

 

 

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