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第三節 棒の勇者、旅立つ

「何でこうなった……」


 カヨは鏡の前で一人呟いた。

 家に帰ったらまず母にしこたまハンバーグを食わされた。それはまだ良かったのだが、次に父に三時間に渡る長話を聞かされた。

 それから気を付けるべき魔物について、食べられる雑草、おいしいブイヤベースの作り方、皮の服と布の服の防御力の違いなどを延々と聞かされた。

 その結果結局一睡もせずに朝を迎えてしまったのである。


「眠っ……」


 身仕度を済ませるとフラフラとした足取りで居間に向かう。そこにはにこやかに喋る両親がいた。


「あらカヨ! もう見送りにみんな来てるわよ」


「あのさ、せめて旅立つの明日にしない? 何かすごく眠たいからさ」


 カヨの言葉に母は本当に分からないといった表情で、


「どうしたの、よく眠れなかったの? 昨日の残りのハンバーグ食べる?」


 と言ってのけた。


「まあ育ち盛りだから眠いのはしょうがないな!」


 「昨日一睡もさせてくれなかったのは誰だよ……」


 父の能天気過ぎる言葉にカヨは呆れてしまった。これから旅立つというのにモチベーションは右肩下がりの一方である。


「もうお祝い金とか貰っちゃったから明日に出来ないの……カヨ、ごめんね」


「カヨ! 父さんと母さんはこのお金で旅行に行くんだからあんまり困らせないでくれ」


「いやおかしいでしょ!

 自分達の体裁と娘の身体とどっちが大事なのさ!?」


 両親が旅を急かす理由はこれだったようだ。


「もう! ああ言えばこう言う……つべこべ言わずに行ってきなさい」


 そう言われてカヨは吹き飛ばされた。そのまま玄関の扉にぶち当たって一気に外に飛び出る。


「何だっ!?」


「これはカヨちゃんじゃないか!」


「あれ? 頭から血が出てない?」


「おい動かないぞ!?」


 カヨは扉に当たったショックで流血していた。更に昨晩から一睡もしてなかったのでそのまま眠りについてしまった。


「カヨちゃん! 大丈夫!?」


「流血しているカヨちゃんも中々……」


「風情がありますなあ」


「死体をこのまま持って帰りたいですなあ」


 歓迎に来ていた村の女子供が心配する一方で、男衆はこの様子を悦んでいた。勿論いやらしい方の意味で。


「う、ううん……」


 そしてカヨは何とか目を覚ました。


「あのえぇと……おはようございます、はい」


 何とも歯切れの悪い挨拶である。頭から流れた血は出来れば気にしないで頂きたい。


「カヨちゃん、目覚めましたか。では我々から餞別を送りたいと思います」


 村長がにこにこしながら代表してそう言うと、周りの村人達がそれぞれ何かを取り出した。


「餞別ですか……そんなお気遣いなく」


 カヨはふらふらしながらも一応謙遜した。しかし折角の村人の気持ちを無下に断るわけにもいかないので村長に尋ねる。


「餞別ってどんな物を?」


 カヨは村長に向かって尋ねた。村人達は待ってましたと言わんばかりにカヨに詰め寄る。


「カヨちゃん、村の男達全員で作った下着だよ! 魔王との決戦の時に履いてね」


「僕カヨちゃんのために絵描いたの。あと貯めてたお小遣いあげる(二十ゴルドー)」


「カヨさん、この爺さんいらないんで持ってって下さい(カワタくん)」


「僕も旅に連れてって下さいよ(少年D)」


「ていうかもうみんなで行っちゃいます? 魔王退治(村長)」


「それは良いですな! カヨちゃんが魔物にやられて臓物撒き散らす姿が見れますなぁ(男衆)」


 村人達の濃すぎる餞別にカヨは、


「そんな餞別いらねぇぇぇえ!!」


 そう叫ぶとその場でひっくり返りそのまま失神してしまった。

 村人達のニヤケ顔を薄れゆく景色に捉えながら……。





「ううん……」


「大丈夫ですか?」


 何とかカヨは目を覚ました。ここはベッドの上──ではなく玄関前の地面だった。周囲に誰かが鼻をかんだ後の絵とか土がかぶさってドロドロになったブラジャーとかが置いてあった。


「みんなカヨさんが倒れた後に二次会行こうぜみたいなノリでカヨさんほったらかしで教会行っちゃいまして……あのお爺さんも……」


 カヨは村人の冷たさに言葉を失った。しかも下着とか捨ててってるし。子供の絵とか明らか鼻噛まれてるし。ジジイもなんか村に溶け込んでるし。


「僕はショウです。よろしく」


「……よろしく」


「約束通り僕も旅に連れてってもらいますからね」


 教会の辺りからカヨの母が歌ってるのが聞こえる。両親も二次会に参加しているようだ。


「んじゃま、行くとするか……」


 カヨは村人ショウと共に何ともあっさり旅立つのだった……。

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