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星を掴むゆっくり  作者: enforcer
3/15

銅バッジ


 基本的な授業が始まってから暫く。

 れいむは最初の頃から比べると段違いの向上を見せた。


 元々はコンポストというゴミ箱の中を這い回っていたゆっくりである。


 それが、今では死に物狂いの努力を見せた

 二度とあんな地獄に落ちて成るものかと、それ故に知能の向上は目覚ましい。


 ただ、全て個体がそうも行かない。


 どうしても理解が追い付かず、テストで低い点を取ってしまうゆっくりも居た。

 そしてソレは、れいむの妹も変わらない。


「三十九番。 ギリギリだったな。 次はもっと良い結果を期待する」


 そんな冷たい声に、れいむは歯噛みをした。

 妹はそれなりに頑張っては居るのだが、何せ授業の進行は速い。

 ムチャクチャとも言える速度で授業が進められる以上、着いて行けない個体が出るのは当たり前であった。

 

「おねーちゃ……」

「だいじょうぶ、ね? だいじょうぶだから」


 妹を慰めようとしたれいむだが、唐突な悲鳴に固まる。


「うそ! うそよ! このとかいはなありすが!?」

「二番。 もう一度言うが君はテストに置いて不合格だった。 残念だよ」


 ゆっくり達の見ている前で、二番と呼ばれたありすが持ち上げられる。


「や! いやよ!? とかいはなのよ!? はなしていなかもの! かえる!! おうちかえる!!」


 猛然と暴れる二番ありすだったが、意味は無かった。

 必死に尻をもるんもるんと振ろうとも逃げられない。

 

 そうして、また教室からゆっくりが一ゆん消えていく。


 そんな姿に、れいむは妹が震えるのに気づいた。

 非ゆっくり症の発症前にも似たれいむの妹。


「だいじょうぶだから!」


 必死に妹を慰めんとするれいむに、冷笑が聞こえた。

 目を向ければ、ゆっくり達が姉妹を見ている。


「いもうとさん、むりならおろしてやるのもなさけだぜ?」


 そう言うのは、お飾りである帽子に銅バッジと【三十五番】の札を付けたまりさだった。


「ちょっと……おなじまりさなのに」


 声を掛けてきたゆっくりへと反論するれいむに、三十五番は笑う。


「おなじ? いまさらなにいってるのぜ? ここじゃだれがえいえんにゆっくりするのかわからないのぜ? れいむも、いもうとにこだわるとだめなんだぜ?」


 冷たい声ではある。だが、その意味もれいむは分かっては居た。

 下手に妹に関わりを持ちすぎると、何時かは自分も落ちかねない。

 此処では虐待こそ無いが、皆何処かへ連れて行かれてしまう。


 何処かも分からない場所へ。


 本来ならば、姉妹など見捨てて当然であった。

  

 如何に肉親だろうとも、それは何の助けにも成ってくれない。

 それどころか、寧ろ足手纏いに成りかねない。

 だが、れいむは妹へ身体を押し付けた。


「がんばろ? ね? ぎんばっじさんとれば……すっごくゆっくりできるから」


 そんな四十番れいむの声に、三十五番は笑う。


「……は……とんだあまちゃんなのぜ」


 そう言うと、声を掛けて来たまりさは振り向いてしまい、その表情はれいむには見えなかった。


   *


 テストの結果発表の後、ようやく食事の時間が来る。

 ただ、その日の食事は変わっていた。


 今までなら食べただけで【幸せ】と思えるモノだったが、その日に出されたモノは比べ物にならない程に不味い。


 頂きますの後、ソレを口にしたれいむですらムッとするほどに。


 生ゴミを主食していた際はどうという事は思わなかったが、此処数日の内に餌はれいむの舌を肥えさせていた。


「ねぎぃ……おねーちゃ……これ、美味しくないよ」


 何の因果でこんなモノをとも思うれいむではあるが、臭い生ゴミでないだけマシだと思い込む。

 無理に思い込めば、それなりには食べられなくもなかった。


「がまんして……ごはんさんあるだけかんしゃしてね?」

「………うん、わかったよ。 おねーちゃ」


 味に文句を言わず、黙々と食べる姉妹。


 そんな様を見ながら、作業員の一人は手持ちのクリップボードに何やら書き込んでいた。


  *


 その日の授業はまた変わっていた。


 運動を兼ねた野外の授業である。

 とは言っても、柵で囲ってある畑にて、ゆっくり達はよだれを垂らし掛けていた。

 

 そんなゆっくり達の前に居るのは胴付きのゆっくりで在る。

 頭のお飾りである麦わら帽子には金のバッジの他に【作】と掛かれた札が付いていた。


「ようこそ。 今日の授業を担当する野外専門教官、のうかりんです」


 そう言うと、麦わら帽子被ったのうかりんは横へと一歩へずれる。


「今日は皆に草むしりをして貰いまーす。 草はまぁ食べても良いけど、お野菜さんは駄目。 分かった?」


 端的な説明は実に分かり易い。

 だが、同時にゆっくり達には辛い事であった。


 ゆっくりの中には【全てのモノはゆっくりの為に生えてくる】という認識が在る。


 それ故に勝手に畑を荒らして回る野良も少なくない。

 最も、そうやって糧を得たとしても大抵は駆除されてしまうのがだいたいのゆっくりであった。 


「さ、早速授業に入りましょ」 


 草むしり自体はそう辛い事ではない。

 だが、何よりもゆっくり達を悩ませるのは野菜類だった。

 先程の食事が不味かったせいで、目の前にある野菜は実に美味そうに見える。

 目の前に餌をぶら下げられながらも、れいむは耐えた。


─こんなあから様な罠に引っ掛かる馬鹿じゃない─ 


 そう思い込むれいむではあるが、他のゆっくり達はそうでもない。

 不味い食事が喉を通らず、空腹故に目の前の餌に目がいってしまう。

 

「ゆっがぁぁぁあ! がまんなんてしないよ!! おやさいさん! いっただきまぁーっす!!」


 唐突な声と共に、野菜を食べ出すゆっくり。


「うまうま……し、しあわせしぇぇえええ!? うまままま……」


 食事がまずかったからこそ、野菜は美味かった。

 其処までは良いとしても、コッソリしていない以上バレない筈もない。


「……おい、其処の何してんだ?」 

  

 ガツガツと美味そうに野菜を貪るゆっくりへ向かう教官のうかりん。

 先程の暖かい印象は何処へやら、実に冷たい空気を纏っている。


 だが、食べ始めてしまった以上止められない。 


 グチャグチャと野菜を貪っていたゆっくりは、口からボロボロと食べたモノをこぼしながらカッと目を見開く。


「はぁぁぁあああ!? うるっさいんだよ! だいたいこんなになってるだよ? なんでそれなのにでいぶはたべちゃいけないわけ!? ああ! そうだ! げすなどうつきはひとりじめにするきなんだね! とんだげすだね!? げすはさっさとどっかいってしんでね! すぐでいいよ!」


 日頃の鬱憤が溜まり、それが爆発したらしいゆっくり。

 それに対して、教官のうかりんはフゥと息を吐いた。


「……十番、失格」

 

 溜め息混じりの声に、野菜を貪っていた十番が我に帰る。

 今までの努力が全てが無へと消え、自ゆんは何処かへ。

 

 そんな恐怖が、十番に正気を戻させた。


 慌てて教官の前へ行くと、人間の土下座にも似た動きを見せる。


「ご、ごべんなざぃいいい! でいぶがわるかったんですぅぅぅうううう!」


 必死にビタンビタンと額を地面に擦り付け許しを請う。

 そんな姿に、教官は腕を組み、目を窄めた。


「悪かった? 何故? 何が? どうして謝る?」


 のうかりんの冷たい声に、十番は固まる。


「ど、どぼじで?」

「もう一度聞くけど、何故謝るんだ? 説明して?」


 そんな十番と教官の姿に、四十番れいむは思う。


 ゆっくりは因果関係が理解出来ないのだと、授業では教わった。

 つまり【何をどうして、何がこうなる】という物事の原因と結果を考えられないのだと。


 無論、ある程度は教育を受けていれば分かる者も居れば、こうして何故謝っているのかを理解出来て居ないゆっくりも居た。


 四十番のれいむからすれば、問われた事は実に簡単に思える。


 食べるな、と指定された野菜を無断で食べてしまった。

 それは【泥棒】という禁忌な行為であると教わる

 だからこそ、その仕出かした失対に付いて詫びる必要が出て来る。

 

 しかしながら問題も在る。


 例え謝罪しようがしまいが、既に事は起こってしまった。 

 もう、食べられた野菜は戻っては来ない。

 無くなったモノを元通りに戻す事は、人間さんですら不可能だとも聞いている。

 

 結局は弁明など無く、貴重な十秒が過ぎていた。


 答える事が出来ない十番を、背後から近寄ってきた作業員の人間がひょいと抱え上げる。


「教官、後は任せても?」


 そんな声に、教官であるのうかりんは頭を縦に揺すった。


「はい、大丈夫です。 ソレよりもソッチをお願いします」

 

 教官の言うソッチとは、作業員の持つ十番であった。

 必死に身を捩り、自ゆんを抑える手から逃げ出そうと試みる。


「やじゃいやじゃ! でいぶはあやばっだでじょう!? ゆるしてね!?」

「あー、うるせぇなぁ。 もうちょいってとこなのによ? この馬鹿が。 野良って奴は駄目だな。 ま、体で払って貰うから覚悟しろよ?」


 バタバタ暴れる十番の声に、ソレを抱える作業員の冷たい声が混じる。


 ふと、四十番れいむは、同種の十番と目が合った。


「た、たすけてね!? おんなじゆっくりでいぶだよね!? おでがいだがら!!」


 必死な命乞い。

 だが、四十番れいむはソレを冷ややかに見ていた。


 こんな簡単な事すら出来ないからこそ、此奴は落ちたのだと。

 三十五番まりさが語った様に、誰が何時居なくなるのか分からない。

 だからこそ、その日その日を必死に生きるしかない。

  

 それすら出来ない奴は消えていく。

 

 それでも、四十番れいむの目には僅かな憐れみが在った。

 

──あぁ、此奴はあの狭い世界へ行くのだろう── 


 十番がそうなるのかは決定されては居ない。

 だが、十番は確かに畑から消えていく。


「やじゃぁあああああ! だでがでいぶをだずげでぇねええ!!」


 そんな悲鳴に、耳を傾ける者は居なかった。


   *


「さ、休憩にしましょう!」


 畑から雑草がほぼ消えた頃、教官であるのうかりんはそう言った。

 ゆっくり達には、水とおやつとして畑にある野菜が振る舞われる。


 無理に食べさえしなければ、十番は消えずに済んだのだ。


 めいめいが休む中、四十番れいむは教官へと近付く。

 皆が怖がって近寄らないのにも関わらずだ。


 それ故にか、教官もれいむを見る。


「ゆん? 休まないの?」

「きょーかん。 きいてもいいですか?」

 

 舌っ足らずではあるが、それなりにマトモに喋るれいむに、教官は目を少し見開いた。


「どうぞ?」

「きょーかんは、きんばっじさんのほかにつけてますけど……」

「あぁ、皆と同じ様に拾い上げて貰ったくちだよ。 プラチナはまだ受けてないけどね、此処で雇って貰えたから。 十分かな」


 教官の声には、若干の寂しさが窺えた。

 

 何かを見ているらしい教官の視線を追い、れいむも見てみる。

 すると、その先にはあの胴付きえーきが居た。


 お飾りにプラチナのバッジを付けて、優雅に歩く姿。

 何よりもれいむを驚かせたのは、周りの人間の反応である。


 誰もがえーきに対してぺこりと頭を下げ、それに対するえーきはと言えば片手上げて微笑みを返す。

 どう見ても、人よりゆっくりの方が上に見えていた。


「すごい……」


 ぼそりとそう漏らすれいむに、のうかりんは微笑む。


「そうでもないよ。 えーきはえーきで大変なんだって」

「そんなはずないです! あんなに……ゆっくりしてるのに」


 れいむの声に、教官は向き直る。


「四十番。 こんな話を知ってる? 空に掛かる虹……分かる?」


 教官の声に頷くれいむだが、時折授業にて空に掛かる虹に付いても教わっていた。


「なら話すけど、かつてはこう言われていたんだ。 虹は七色の橋で、それを渡りきった者は凄い財宝を得たり、凄くゆっくり出来る場所へいけるんだって」


 御伽噺に過ぎないが、れいむは聞き入る。


「じゃあ、あのゆっくりはにじをわたったんですか?」


 れいむにはあのプラチナを掲げるえーきがそう見えて成らない。

 そんな声を聞いた教官は、クスッと笑った。


「橋は所詮、橋。 渡りきったからといって、何処へたどり着くのか? 答えはこうだよ。 行った先には同じ様な世界が在るだけだって」


 教官の口振りからすれば、意味が無いと言われているとれいむには聞こえた。

 だが、そんな風には思えない。

 以前の惨めな自分達に比べれば、あのえーきは輝く星に見えてくる。


 夢見るれいむへ、のうかりんは苦く笑った。


「今は番号だろうけど、金に成ればソレも変わるよ。 そうすれば、れいむにも何時か分かると思う」


 そんな言葉を聞きつつも、れいむはあのえーきを探す。

 だが、既に歩き去ってしまったのか、星は見えなかった。

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