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星を掴むゆっくり  作者: enforcer
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地上に輝く星


 親を無くしたという割にはれいむの雰囲気は変わらない。

 それどころか、まるで荷物を下ろして気楽に成った様ですら在る。

 

 そんなれいむは、ふと監督官が言った事を思い出していた。


「あの、監督さん。 そう言えば……会わせたいって言ってましたけど。 誰なんですか?」


 れいむの声に、監督官は少し目を窄める。

 胸の内に収めて置くべきか迷うが、今言わなければ不味いという事も分かっていた。


「私は………」

「回りくどいのは苦手なんですよね? 大丈夫ですよ。 ちょっとした事じゃ動じませんから」

  

 れいむの声に、監督官は僅かに鼻を唸らせる。


「……君は以前、私に枝を折れと頼んだ。 憶えているか?」


 監督官が言ったのは、れいむにとっては最も苦々しい記憶でもあった。

 望んで出来た訳ではないのだが、我が子である事に代わりはない。


「憶えてますよ……忘れられる訳なんて……」


 そう言うれいむは、足を止めていた。

 親には冷たい言葉を掛けたが、実は全く同じ事をして居る。

 それは、れいむにとっては辛い事実だ。

 

「話は其処で終わりじゃないんだ」


 監督官の声に、れいむは顔を上げた。

 今でも身長差は在るが、以前程は無い。

 

 そんな人間とゆっくりは、互いに目を見合う。


「君は、私に枝を折れとだけ言った。 其処でだ、私は子ゆを引き取って育てている」


 全く想像していなかった監督官の声に、れいむは目を丸くしていた。

 何を言われているのか、思考が追い付かない。

 まるで呆けた様なれいむに、監督官話を続けた。


「子育てという経験は無いが……難しいモノだね。 しかしながら、頑張ってくれている」


 ようやく、れいむは自ゆんが何を言われているのかが分かった。

 確かに、枝を折れとは頼んだのは間違い無い。

 しかしながら、子を殺せとはれいむは言わなかった。


「……生きて……るんですか?」


 声を震わせるれいむに、監督官は静かに頷く。


「わんぱくとでも言うべきかな……まぁ、頑張り屋な所は君に似ているよ」


 我が子が生きているという事実に、れいむは膝が震えた。

 しっかりとして居なければ、その場で崩れそうな程に。


「い、今は……どうしてるんです?」


 子を案じるれいむの声に、監督官は苦く笑った。


「うむ、ソレなんだが、金バッジさえ取れれば母親に会いにも行けるだろうと言ったら……まぁ、頑張りだしたよ。 ゆっくりが変わった様にね。 銅バッジはとっくに、今なら子ゆをながらも銀バッジ位なら狙えるかも知れない」


 監督官は楽しげにそう言うが、れいむには聞こえていない。

 ただ、俯かせた顔を手で抑えて口を必死に閉じていた。


「おチビちゃん達……生きてたんだぁ」


 感極まった様に、れいむの手から雫が落ちる。

 抑えて居たのに涙が止まってくれない。


「どうする? 会いたいなら、直ぐに会えるが」


 そう言われたれいむの肩が、少し震える。

 会いたいかと問われれば、会いたい。 だが、同時に怖い。

 自ゆんが捨てた子に、同じ様に責められるのではないかとれいむは想う。


「れいむは……おチビちゃんに会っても良いんでしょうか?」 


 顔を覆う手を離すれいむだが、その顔には恐怖が在った。


「自ゆんの勝手で、捨てたのに……」


 子供に会うという事は、下手すれば自ゆんが親に行った事をそのままされる可能性は捨てきれない。

 そう恐れるれいむを、監督官は鼻で笑う。 


「それならそれて良い。 嫌なら会わなければ良いんだ。 親御さんは死んだと言おう」


 キョトンとしたれいむに、監督官は言葉を続ける。


「別に無理にとは言っていない。 私は慈善事業家でもないんだ。 何時までも子ゆの世話も出来ない。 君が嫌だと言うなら、此処で候補生として引き取ろう」


 男が提示したのは、ゆっくりにとっては過酷な道である。

 ほんの一握りしか道を歩き通せるゆっくりは居ない。

 その辛さ、難しさはれいむが一番よく知っていた。


 キュッと唇を噛むれいむは、悩んだ。

 候補生ともなれば、バッジ習得の機会は確かに在るだろう。

 同時に、子供達はゆ獄へ落ちていく事も可能性も在る。


「会わせてください! おチビ達に」


 必死な顔で覚悟を覗かせるれいむに、監督官は静かに頷いた。


   *


 月日は流れて、季節が変わる頃。


 場所はとある神社の境内。

 其処に竹箒で掃除する胴付きゆっくりの姿が在った


 そのお飾りにはプラチナバッジを掲げるゆっくりが纏う衣服は、巫女に似ていた為違和感は無い。


 そして、その神社は野良や野生のゆっくりから、駆け込み神社と呼ばれても居た。

 時折ボロボロのゆっくりが助けを求め訪れる事も在るが、掃除をして居るゆっくりの側へポヨンポヨンと子ゆが近付く。


「おかーしゃ! また来たみたいです!」

「見る限り明らかに野良ね、都会派じゃないわ!」


 そんな子ゆの声に、プラチナバッジのゆっくりは振り返ると溜め息を漏らした。


「また? 仕方ないかなぁ」


 ぼそりとそう言うと、れいむは衣服に収めている携帯電話を取り出すと、何処かへと掛け始める。

 些か古い型では在るが、電話をする事は出来た。


「……あ、どうも。 れいむです。 えぇ、またなんですよ」


 人間からすればどうという事もない光景だが、子ゆっくり達からすれば自ゆん達の母親は正に星であった。


「はい、此方で相手をしておきますから……はい、お願いします」


 淡々と電話を掛け終えると、れいむはスッと携帯電話を衣服へとしまう。

 そんな姿に憧れたのか、黒髪の子ゆがポンポンと跳ねた。


「おかーしゃ! 電話さん見せて見せて!」


 自ゆんにも出来る筈だと意気込む子ゆに、れいむは人差し指を立てて横へ振る。


「駄目。 まだ早い」


 母親であるれいむの声に、子ゆは頬を膨らましたく成るが、それはしなかった。

 金バッジを目指すに当たり、ゆっくりの怒りを示す【ぷくー】など論外の蛮行だと押し込まれていた。

 ゆぐぐと悔しがる黒髪に代わり、金髪にカチューシャのお飾りをつける子ゆが母親を見上げる。


「お母様! どうやったらありすも電話さん貰えるんですか!」


 今すぐにでも母親に追い付きたい子ゆの声に、れいむは笑う。


「うーんとね……このバッジさん貰えたらかな」


 そう言うと、れいむは自ゆんのリボンに付けられたら白金のバッジを子ゆへと見せ付ける。


 銀バッジ程度のゆっくりでは、ほぼ貰えない特級鑑札の証。

 そんなバッジを、子ゆは眩しいモノを見る様に見ていた。


 和やかな親子ではあるが、そうもして居られない。

 

「ずびばぜん……だずげでぐだだい」


 何故なら、ボロボロのゆっくりがれいむの方へと来ていたからだ。


 どう見ても野良である。

 汚れた身体に乱れた髪、ボロボロのお飾り。

 家族連れではあるが、ピクニックとは程遠いゆっくりの姿。

 

「ま、直ぐ迎えが来ますから……」


 そう言うれいむは、加工所から野良、もしくは野生のゆっくり確保を頼まれている。

 見込みが在るなら候補生として、無いならば最低限の訓練を施して街ゆっくりとして。


 箸の棒にも引っ掛からない様な個体はそのまま加工へ。


 神社の仕事の傍ら、それがれいむの仕事であった。


 暫くすると、加工所から来た白いバンが神社の近くへ止まるが、中からは背広姿の男の姿。

 

 男もれいむもよく知った間柄ながらも、頭を下げたのは男だった。


「この度は御連絡ありがとうございます」

「……いえ、仕事ですし」


 以前、男はプラチナバッジのえーきに頭を下げた。

 その理由は、別にえーきが偉いからではない。

 単純にあの時のえーきはお客様だった。


 だからこそ、男は客への礼として頭を下げた。

 今もそれら変わらない。


 今のれいむは加工所勤務ではなく、あくまでも後見人として加工所に携わって居るだけで所属こそして居ない。 

 

 つまり、男にとってはプラチナバッジのれいむは【お客様】であった。


「して、野良の方は?」

「うーんと、まぁ、掃除くらいなら出来ると想うんですが……」

「候補生としては?」

「おチビちゃんなら、もしかすると……ですかね」


 れいむの吟味役としての眼力はそれなりの信用がある。

 見込みが無い者はどう足掻いても無いのだ。


 そんな声に、男は今一度頭をぺこりと下げた。


「分かりました。 御連絡ありがとうございました。 また、在りましたら」

「はい、その時はお願いします」


 以前の間とは違い、れいむと男の会話はすぐ終わってしまう。


 作業員と共に野良を確保しにいく男の背中を、れいむは少し寂しげに見ていた。

 だが、足元に当たる感触に、れいむは下を見る。

 其処には、目を輝かせる子ゆ達。


「お、おかーしゃ……凄い」

「人間さんが礼をするなんて……」


 口々に子ゆ母は誉めるが、れいむからすると複雑でもあった。

 もっと色々出来たのではないかとも想うが、今の生活にも慣れ、それなりに幸せでもある。


 ふと思い付いたれいむは、腕時計見た。

 ソレは加工所卒業生だけが受け取れる特注品である。


「お母様! ありすもその時計が欲しいです!」


 何かにつけて母親のモノを強請る子ゆではあるが、その度にれいむは在ることを言い聞かせていた。


「ふぅん? でもね、欲しいモノが在るなら、自ゆんで勝ち取りなさいな。 お母さんはそうしたんだからね?」 


 そう言うと、れいむは器用にウインクをして見せた。


   *


 神社の庵の一つを自宅として預けられるれいむは、夜に星を見るのが日課であり趣味でもある。

 星を眺めていると、他の仲間を思い出せる。


 皆が元気でと願うのだ。


 神社の仕事はれいむにとっては有り難いモノだった。


 片親にて子を育てながらという仕事という厳しい状況ながらも、なんとか生活出来ている事かられいむに不満は無い。

 

 そんなれいむは縁台に座り、その膝に子ゆを乗せていた。


「おかーしゃ! プラチナバッジさんってどうやったら貰えるの!」 

「そうね、妹もありすも欲しいの」


 欲しがり屋な子供に、れいむ苦く笑った。


「そうね、いーっぱい頑張って、倒れそうでも立ち上がって頑張って、そうすれば……貰えるかもね」


 れいむはそう言うと、星を見上げた。

 

「おかーしゃ! 頑張るよ!」

「ありすも頑張ります!」


 子供の高らかな声に、れいむは母親らしく柔らかく微笑む。


 ゆっくり達に取って、プラチナバッジは正に星である。

 手を伸ばしても届かない。 

 だからこそ、死に物狂いでそれを掴みに行く以外に方法は無い。


 そして、れいむは確かに星を手にしていた。


お読み頂きありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] プラチナゆっくりたちに幸あれ
[良い点] ゆ獄から這い上がってくるれいむに感動しました [気になる点] 無し [一言] 次回作を楽しみにしています
[良い点] おちびが生きていてしかも銀バッチなんて!! [気になる点] ゆっくりの価値とは?とリンクしていますか? (例)ゆうかりんが言っていたオセロの弱い後輩ってこのれいむ?最後に出てきたのもこのれ…
2021/08/21 20:41 ミアと言う名の吸血鬼
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