夢の中の私
二回目のさっちゃん
「はーい、2組は点呼とるよー!」
周りにはブルーの体操着を着た小学生が沢山いて、目の前では担任の長谷川先生が、みんなに向かって話しかけていた。
また 来てしまった…。
夢の世界に。
2回目の夢からどれくらいたっただろうか。
まさか3回目もあるとは思わなかった。
2度あることは3度ある…か。
今回は5年生で課外授業と宿泊研修のため、山奥の施設に2クラスの生徒と先生達と来た時だ。
私は上下ブルーの長袖の体操着を着ていて、小柄なためブカブカだった。
点呼が終わり辺りを見渡すと すぐに 佐田 秀=さっちゃんをみつけた。
いつも通り 色んな子と仲良くしているようだった。この頃から女の子に囲まれてもなんだか余裕があるように見える。
すると 視線に気付いたさっちゃんが、こちらに振り向いて ニッコリ笑った。
周りにいた女子たちもこちらに視線を向けた。
私は女子たちの視線にどうしていいか分からず、思わず目を逸らしてしまった。
私は、小学生じゃない。
中身は30歳なのに 小学生に混ざって何かをすることは なんだか悪い気がする。
さっちゃんの周りにいたあの子達は、きっと彼を好きなんだろうな。大人の女性と変わらない 敵意に満ちた視線には驚いたな。
まぁ、つまらない事は考えても仕方ないのだけど。
邪魔はしないようにしよう。
他の先生が何回も午後のスケジュールの説明をしているのを、ぼーっと聞きながら 流れの早い雲をずっと眺めていた。
こんなに雲って近かったっけ。
現実は東京にいるから地元の田舎が懐かしく、子供の時は分からなかった良さも今は分かる。
空気も澄んでいて、気候も丁度いい。
なんか、平和な時間だなー。
今回の夢も何もなく終わってほしいなぁ。
前回の夢で直人と居た時は、襲ってくるような怖い化け物は出て来なかった。
毎回出てくることはないのだろうか?
それに、あの直人はなんだったんだろう。
そんな事をボーッと考えていたら、目の前に来た長谷川先生が 各グループで 下山しながら スタンプラリーをしてくるようにと言っていた。
すると
「るいちゃん、うちのグループだよ!」
遠くの列から 数人の女子が呼んでいた。
顔を見て気づいたが、そのグループには当時苦手だった彩香がいた。
そして私の親友 ミヤコ、おっとりしたカナの姿が目に入った。
慌てて 彼女達の元にかけより、一旦行動を共にしようと思った。
平和に夢から覚めますように…。
◇◇◇◇◇
しばらく舗装されていない獣道をグループで下山していると、急に記憶が蘇ってきた。
あ、このシーン覚えてる!
苦手な彩香が 下山中ずっと親友ミヤコの悪口を言っていたのだ。近くに本人がいるのに。
私はどうすることも出来ず、ただ聞いていたのだ。
1番嫌な奴は私だ。
後でそれを聞いていたミヤコに『皆で協力しなきゃいけないときに 悪口言ってるなんて 最低だね。』と言われたのだ。
違う! 私は言ってないよ!
と思っても何も言えず 自分の胸に突きささったミヤコの言葉を、頭の中で何度もリピートしながら うつむいていただけの自分に、ずっと後悔をしていた。
今、その記憶の下山中で
案の定、彩香はミヤコの悪口ばかり言い出した。
小学生相手に大人気ないけど、この時ずっと悪口を止めたかった気持ちを伝えよう。
すると 前のグループから少し距離があき、後ろを振り返ると ミヤコとカナからも少し距離があいていた。
今なら 他の人を巻き込まずに話せるチャンスだ。
私は彩香の横を歩きながら話かけた。
「ねぇ、さっきのミヤコの悪口は聞きたくなかったよ。 ミヤコは親友だから もう言わないでほしいな。」
「は?何言ってるの? るいちゃんは私の味方かと思ったのに!」
「私はミヤコの味方をする。悪口はもう言わないで。」
「べ、別にそんな悪口ってつもりじゃないけど…。」
「じゃぁ一緒に謝って仲直りしようよ。」
「はぁ?やだよ 私は関係ないし。悪口を言ったつもりないし。」
まぁ 所詮 小学生。
素直に謝るか 逃げるか そんなもんだろう。
「もう 私 別の子と下山するから るいちゃんは ミヤコ達と行ってね!」
彩香はプンプン怒りながら 少し前を歩いていたグループを早足で追いかけて行った。
「るいちゃんのくせに。」
と一言私に吐き捨てて…。
別に私がどう思われようが良いけど、ムカつく奴だな。小学生ってこんなに生意気だったのか。
立ち止まっていたら 後ろからミヤコ達が来た。
ミヤコは私と目を合わせてくれなかった。
「ミヤコ さっきはごめん。 ミヤコの悪口を聞いて 否定できなくて。」
「…」
「今 もう悪口を言わないでってお願いしたよ。 私はミヤコの味方でいたい。すぐ言えなくてごめんなさい。」
「…」
一緒にいたカナが、オロオロしてなにか言おうとしていたが、先にミヤコが口を開いた。
「るい ありがとう。」
ミヤコが照れくさそうに笑ってくれた。
あぁ、良かった!
「じゃぁ、3人で下山するか!」
カナが気を利かせて そう言ってくれたので 仲良く歩き始めた。
この事を思い出すたびに後悔していたから 今すごく嬉しい。
ミヤコも 一緒にいたカナも ほんといい子だ。
小学生の時の会話ってこんなんだったかなと 懐かしく思いながら ミヤコ達と下山していると もう少しでアスレチックが沢山ある場所があり、そこで お弁当を食べることになっていた。
その時___。
ブーーーーン…キィィィーーーン…。
例の耳鳴りがして、すぐに 悲鳴のような声が聞こえてきた。
「きゃーー‼︎」
「や、やめて‼︎来ないで‼︎」
どうしよう。
嫌な予感しかしない。
ミヤコ達も 少し不安そうな顔をしていた。
「え?何?何? 蛇とか蜂かな?」
絶対そんなんじゃないと思う。
ジワッと嫌な汗がでてきた。
歩きながら どうしよう…としか考えれなくて でも ミヤコ達は守らなきゃと思っていた。
そしてアスレチックの広場に到着すると 信じられない光景が広がっていた。
広場のあちこちでおなじクラスの子や隣のクラスの子が 血だらけで倒れていた。
その周りには血を吸うように群がる 顔色の悪い子供が複数いた。
私達と同じ歳くらいに見えるが、着物のような変わった服装から 学校の子ではないと思った。
何これ…!
「う うぇ… おぇ…」
ミヤコがこの光景を見て 嘔吐し、一緒にいたカナもガタガタ震えて涙を浮かべている。
どうしよう…
すると 血を吸っていた 1人がこちらに気づいて ニヤリと笑った。
やばい!
顔色の悪い子供の化け物がすごい速さでこちらに向かって走ってきた。
どうしよう!
3人肩をだきあってしゃがみ、ギュッと目を瞑った 。
次の瞬間_________
ドン‼︎
変な音がして、目をそっとあけたら 私とミヤコ達とのまわりに 透明のガラスのようなバリアの壁ができていた。
化け物は何度もバリアにぶつかって、私達に近づけず諦めてさっと 退いた。
「何?どうなったの? 急に逃げた!」
肩を抱き合いながら恐怖に怯えて座り込んでいた私達は 逃げて行った化け物を呆然と見ていた。
もしかしてミヤコ達にはこの壁が見えていないのかも?
さっちゃんときにも現れたガラスのようなバリアの壁。
これがあればミヤコ達は守れるかも。
あと、さっちゃんがここにいれば…!
「ミヤコ、さっちゃん見かけたらおしえて!」
「さっちゃん?佐田くん?」
「そう!佐田くん!」
すると、この広場で休憩場所として指定されていたコテージの入り口から さっちゃんが 手を上げて叫んでいた。
「るいちゃん‼︎こっちだ! 来て‼︎」
それを見た カナが、
「さっちゃんだ! 今行くー!」
と返事をして急いで立ち上がった。
「あっ…カナ!」
一瞬私の気が逸れたせいで、周りにあったバリアが消えてしまい恐怖のあまり私達を置いて飛び出して行ったカナを、この時もっと強く止めるべきだった。
「ま、待って!カナ!」
さっちゃんのいるコテージに向かって走り出したカナは、途中倒れていた生徒の身体に足が引っかかり、勢いよく転倒してしまった。
「カナ‼︎」
そして 一瞬だった。
子供の化け物達が飛びかかり カナの首や身体に噛み付いた。
「いやぁぁぁ 痛いーー‼︎イヤァァァ‼︎」
どうしよう、どうしよう…!
た、助けなきゃ‼︎
吐き気と恐怖に襲われて 動けない。
カナを助けなきゃ…。
その時______
バリバリバリッ‼︎
ドォォォーン‼︎
突然すごい音とともに、雷が化け物達目がけて突き刺さるように次々に落ちた。
この雷… さっちゃんだ!
化け物達は、その場に倒れて動かなくなったが、その中にはカナもいた。
「るいちゃん 早く!ミヤちゃん連れて早く来い!」
…先にミヤコだけでも守らなきゃ!
「ミヤコ行くよ!」
「う、うん。」
ミヤコの手を掴んで走り出した。
自分の足に自信なんてない。
でも 全力で、死にものぐるいで走るとそれなりに速く感じた。
「カナ、待っててね!」
倒れているカナを通り過ぎて、コテージに向かって全力で走り 室内に入ると急いで さっちゃんがドアに鍵をかけた。
「ミヤちゃんは奥に行ってて 何人か助けた子いるから。大丈夫安全だから!」
「う、うん!」
「るいちゃんは話があるから待って。」
ミヤコが奥の部屋に入るのを見てから さっちゃんに言った。
「まだカナが生きてるかもしれない!あたし 助けに行く!」
「ダメだ。もう助からないよ。」
「見殺しにするの…?」
「今はここで生きてる子を助けることを考えなきゃ。おそらく 能力があるのは 俺とるいちゃんだろ? 」
「そうだけど…!」
「るいちゃん 今はこのコテージの中の皆んなを守るんだよ。るいちゃんのバリアを使って。 攻撃は俺がやるから 今は力を合わせて 戦わなきゃダメなんだよ。」
「でも!」
ドンドンドン!!
突然ドアを強く叩く音がした。
化け物…⁈
さっちゃんも私も息をひそめた。
「みんないるか!先生だ!無事か!
何があったんだ!?」
担任の長谷川先生だ!
さっちゃんはドアを開けようとしたあたしの手を制して、ドア越しに先生に言った。
「先生!佐田です! 10人ほど中に居ます!外にいる人は… 早く助けなきゃマズイ状況です。」
冷静なさっちゃんをよそに置いてきたカナが心配になった。
「先生、外にまだカナが…カナが居ます!まだ助かるかもしれないです!」
「わかった! 探してここに連れてくる! それまで ここに居なさい! 絶対ドアを開けないように!」
長谷川先生は柔道部だったといつも自慢していた。
先生なら大丈夫だろう。
そう思っていた。
5分… 10分…
先生がなかなか帰ってこない。
それに異様に静かだ。
コテージが二重窓の頑丈な作りでももっと外の音は聞こえるはず。
まさか 先生も…。
不安な気持ちが募る一方だ。
「さっちゃん…。先生来ないよ?大丈夫かな?」
「そうだね…。」
「ねぇ さっちゃん…。」
「ん?」
「さっちゃんは何を知ってるの?」
私は何も分かっていない。
この夢はなんなんだ。
鍵のかかったドアを見つめ 沈黙が続いた。
静かすぎて、私の心臓の鼓動がうるさく感じた。
「ここが片付いたら 話すよ。」
ドアを見つめたまま、そう呟いた彼の瞳はなんだか 悲しそうに見えた。
そして、すぐに話題を変えるように言った。
「やっぱり 僕たちが外に行くしか無いかな。るいちゃん、バリアをコテージの入り口前に作れる?」
「私、やり方は分からないの。」
「気を集中して。ここにいる人を助けるために バリアを張るんだと強く願ってみて。るいちゃんなら出来るよ。」
「…うん。やってみるけど出来るか分からないよ。」
さっちゃんはにっこり笑って 私の頭をポンと撫でた。
こんなこと小学生がするはずない。
もしかしたら彼も中身は大人なのか?
ミヤコのいる部屋に行き 私達が帰ってくるまで絶対ドアを開けないでと伝えた。
ミヤコの他に 10人くらい居て みんな泣きそうな顔をしていた。
名前までは思い出せないけど見たことある顔ぶれだ。
この子達を守らなきゃ…。
「るい… 気をつけてね。」
ミヤコが抱きついてきた。
「うん。」
さっちゃんは 行くよ!と目で合図をした。
先に歩くさっちゃんがドアを開け足音を立てないように ゆっくり歩き 私も真似をするように忍び足でついて行った。
彼はコテージの入り口を出た所で急に止まり「うっ…!」っと唸った。
急に立ち止まるから、彼の背中に顔をぶつけてしまった。
「さっちゃん、ごめ…」
「見るな!」
え?
見るなと言われたのが遅かった。
化け物達が何かに群がっている。
地面の血の海が見えた瞬間
それがバラバラになった長谷川先生だと分かった。
さっちゃんが自分の胸に私をぎゅっと抱きしめ、視界を遮った。
「見るな! 長谷川先生が… 死んでる!」
血の海。
映画で見ても怖くないのに、今恐怖で身体から変な汗と震えが止まらない。
「るいちゃん バリアを作って!」
「!」
さっちゃんの腕に力が入る。
私は さっきのカナが襲われる瞬間が頭によぎった。
怖い… 怖いよ…!
なんでこんな目に遭わなければならないのだろう。
これは夢の中なのに…!
「怖いよ…できないよ!」
「僕らしか皆を守れないんだよ。るいちゃんが頑張らなきゃ 僕たちも死ぬんだよ!」
そうだ。落ち着くんだ私。
落ち着いて。
今出来ることは さっちゃんやミヤコ達をバリアで守ること。
さっちゃんもミヤコもカナも助けたいよ。
さっちゃんの腕の中で 先ほど言われた事を頭の中で繰り返し、集中力を高めた。
皆を守れるはずの私の力…
お願いします、皆を助けてください!
心の中で何度も強く願うと身体がどんどん熱くなってきた。
「あぁ…あぁぁー!」
身体中が燃えるように熱くて 我慢できずさっちゃんの腕の中で叫んだ。
「るいちゃん!すごい! バリアできてるよ!」
さっちゃんの驚くような声が頭に降ってきた。腕の中で顔を上げてみると私たちの前に、巨大な透明の壁がたちはだかっていた。
これが さっちゃんの言うバリアなのか。
初めてバリアを出せた時もさっきミヤコ達を守る時に出せた時もこんなに大きくなかった。
「攻撃は僕ががんばるから コテージから少し離れた場所にこのまま行こう!」
初めて見た夢の時みたいに、私の手を引いてコテージを後に走り出した。
身体から バチバチッと火花のような音が鳴り始めた彼も、体が熱いのか 叫ぶような声をあげた。
「ぐっ… あぁぁぁぁ!」
苦しそうな声に、なんて声をかけたらいいかわからず、彼の手を黙って強く握った。
綺麗な顔が辛そうに歪んでいる。
こんなさっちゃんを見たのは初めてだ。
次の瞬間。
バリバリバリ‼︎‼︎
ドォォォォン‼︎‼︎
今まで聞いたことない轟音とともに
いくつもの雷が私達周りに落ちたのだ。
化け物達に直撃し、ほんの一瞬で燃え上がり 灰になった。
そして辺り一面、黄金の眩しすぎるひかりに飲み込まれて さっきまで燃えるように熱かった身体はポカポカと気持ちよくなった。
化け物達の灰も光に包まれると、そのまま飲み込まれるように消滅していくのが見えた。
カナを助けれる。
早く皆のとこに行かなくちゃ。
◇◇◇
気がつくと、私達を包んでいた眩しかった光はスーッと消えて、いつのまにか元の風景に戻っていた。
「さっちゃん、私達助かったの?」
「…。」
さっちゃんは返事も出来ない状態で、力なくズルッと地面に崩れ落ちた。
「さっちゃん⁉︎」
支えるようにしゃがみ込み 彼の腕を自分の肩に回した。
「大丈夫⁉︎」
「う…。」
肩に腕を回しているから、近くで見えるさっちゃんの顔が土で汚れ 苦しそうでどうにかしなきゃ助けなきゃと思った。
早くコテージに戻ろう。
私の小さな身体と体力で自分より大きなさっちゃんを運ぶのはなかなか大変だった。 ほぼ自力で歩けていない彼を引きずるように 精一杯の力で コテージへ急いだ。
するとミヤコが様子を伺いながらコテージの脇から出てきた。
「ミヤコ!さっちゃん運ぶの手伝っ…」
「来ないで!」
言い終わる前に遮るように言われた言葉と、棒を握りしめてこちらを睨みつけている姿に意味がわからなかった。
「え?」
「あんた達、るいとさっちゃんの姿した化け物なんでしょ!」
「え!何で?ちがうよ!何でそうなるの⁉︎」
「長谷川先生が言ってたよ!あれは偽物だって。」
え?
長谷川先生…?
「重症のカナを連れてきた長谷川先生が 言ってたの!」
「待って、長谷川先生はさっき…⁉︎」
「カナをあんな酷い目に合わせて… この化け物‼︎」
ブンブンと長い棒を振りましてくるミヤコを さっちゃんを連れて避けることが子供の体の私にはきつかった。
棒が当たる!と思ったとき
咄嗟にバリアでさっちゃんと自分の身を守った。
「何⁉︎棒が当たらない⁉︎」
「ミヤコ!信じて!長谷川先生が偽物だよ‼︎ さっき血まみれなのを私は見たよ!」
「嘘だ‼︎ 今日のるい変なんだもん。いつも大人しくて こんな積極的じゃないよ!」
昔の自分は大人しかった。確かに変に思うのも分かるけど、今はどうしたら信じてもらえるか分からなかった。
さっちゃんもミヤコも助けなきゃいけないのに。
「何をしているんだ!化け物から離れて早く中に入りなさい!」
コテージから長谷川先生が出てきた。
私は意味がわからなかった。
だって、さっき血まみれで倒れていた先生をこの目で見たのだから。しかし目の前の長谷川先生はいつもと変わらない姿をしていた。
不信感から睨みつけるように長谷川先生を見ていると、ミヤコを室内に入るように促し肩に手を置いてこちらを見た。
その時あきらかにニヤッと笑った。
まさか…これは全部長谷川先生の仕業?
「ミヤコそっちに行ったらダメ!」
このままだと、ミヤコが殺されてしまう。
「行ったらダメ!どうすれば信じてくれるのよー‼︎」
さっちゃんを支えたまま どうにもできない自分にイラついた。
ミヤコが背を向けたと同時に
長谷川先生が ミヤコの首を掴んで 勢いよく噛み付いた。
「ミヤコ‼︎」
見る見るうちに 血まみれになり ぐったりとした姿に 恐怖と怒りで震えた。
「ミヤコ‼︎」
ミヤコが目の前で殺された。
せっかく ずっと後悔していた事を謝って 仲直りできたのに。
もっと話しして 楽しかった思い出に記憶を塗り替えたかったのに。
何も悪くない子達をなんで殺すの?
沸々と湧き上がる怒りが身体を熱くしていた。
「怖いか? お前たちもすぐに楽にしてやるよ。」
ぐったりしたミヤコを片手に抱えたまま 長谷川先生は言った。
「まさかうちの生徒に能力者がいるとは思わなかったよ。 」
「なんで皆をこんなことに‼︎」
さっちゃんも動けない今 攻撃は出来ないし、私はバリアを張るくらいしかできない。
じりじり近寄ってくる先生にどう対抗するか必死で考えたが全く閃かなかった。
私、いい歳こいてなんもできないじゃん。
どうしよう、バリアだけでは…。
「るい、先生も 死にたくないから こうするしかないんだよ。」
突如、後ろから聞き覚えのある声がして 振り返った。
「え… ⁉︎」
そこに居たのは
さっき殺されたはずのミヤコだった。
何?どうなってるの?
訳が分からずいる私の横に来て
「さっきはごめんね。やっぱ るいだよ。変わらないね。」
と言うとニッと笑った。
この笑い方ミヤコだ。
「イライラしたら 右手ぎゅうぎゅう握る癖、懐かしいよ。」
それを見ていた長谷川先生は唸り声をあげ、もはや人間の姿ではなく、赤色の肌になり鬼のような形相に変化していった。
「お前も能力者か。3人とも殺してやる!」
唸り声をあげながらこちらに向かって来た。
「るい!バリアを‼︎」
「うん!」
私、ミヤコ、さっちゃんの周りにはドーム型のバリアが出来ていた。
なんとなく能力も使いこなせて来ている気がする。
気持ち次第でこんなことが出来るなんて…。
ミヤコと目を合わせると 何か策があるらしく、「さっちゃんの耳塞いで」と言われた。
言われるまま 抱えていたさっちゃんを地面に降ろし後ろから彼の耳を塞いでミヤコを見上げた。
「ねぇ、先生!先生の持ってる私のニセモノ何だと思う?」
「ゔゔぁぁぁー…。」
長谷川先生は何かに乗っ取られてしまったようで、低い唸り声しか出ていなかった。
もう先生じゃない。ただの化け物だ。
ミヤコはそんな先生の姿も気にせず冷静だった。私の後ろに回り私の耳を塞いだ。
「ミヤコ?何?」
長谷川先生が私達の目の前に来て、片手に抱えたままだったニセモノのミヤコを地面に捨てた時
ドゴォォォォン‼︎
なんとニセモノのミヤコが爆破した。
アクション映画でよくある爆破シーンのような光景に唖然とした。
私達はバリアのおかげで何ともないが まともに食らったら死んでいたレベルの爆発だった。
「るいの能力すごいね!」
「ミヤコこそ… なんかすごいな。」
少しそのまま様子を見たが、長谷川先生の姿はなかった。
ミヤコはさっちゃんの腕を肩に回して 一緒に抱えるのを手伝ってくれた。
「佐田くん、回復するといいね。」
「うん…。」
もう誰かが死ぬのは見たーーくない。
ミヤコやさっちゃんが目の前で死ぬのは絶対に嫌だ。
早く、とにかく早く夢から覚めてほしい。
さっきの爆発で 壊れた入り口の木の破片を避けながらコテージに入ると リビングにさっちゃんを寝かした。
汚れた顔を拭いてあげようと思ったが ハンカチやタオルが手元になかった。
「ミヤコ ハンカチかタオル持ってる?」
「あ、うん あるよ。」
リビングにまとめて荷物が置いてあり その中からガサガサとミヤコがカバンを開けてる音を背中で感じていた。
「るい、これでいいかな?」
「ん、ありがと。」
パッとミヤコの方に振り返ったとき
キラッと何か光った。
それはミヤコの背後にナイフを振りかざしている人が居た。
「ミヤコ‼︎」
ミヤコの手を勢いよく引っ張って 後ろに倒れたと同時にさっちゃんと私とミヤコの周りにバリヤを張った。
「誰‼︎」
「なんで先生を殺したの?」
え… その声。
包帯で顔や身体もグルグル巻きのその人が すぐに誰か分かった。
「カナだよね?」
包帯や手当てのあとがひどい怪我を物語っている。
「あたしを見捨てて、先生まで殺したの?」
右手のナイフを握りしめたまま、こちらをじっと見ている。
「カナ、先生は化け物だったんだよ!」
「だから何?」
なんでそんなこと言うのか、意味がわからなかった。
「やっと大好きな先生に会えたのに!」
「え…。」
「あんた達は能力があって、ヒーローかもしれないけど。あたしからしたら あんた達の方が化け物だよ‼︎」
カナの言葉にわけがわからなくなった。
「待って、どういうこと⁈」
「…なんであたしには能力がないんだろう。」
悲しそうにつぶやくと、カナは自分の首にナイフを当てた。
「カナ‼︎待って‼︎なんで⁈」
「この世界からあたしは去るよ。」
待って、待って‼︎
私はカナに向かって手を伸ばした。
一瞬の動きがスローモーションに見える。
待って、なんで…!
スローモーションの中、まぶしい光に包まれて 誰も見えないくらい真っ白になった。
カナ!
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バッと起き上がると そこはベッドの上だった。
全身汗びっしょりだ。
え、これは現実?
横にはスヤスヤ寝ている赤ちゃんと旦那の姿があった。
______現実だ。
帰ってきたんだ、私。
いまいち現実と夢の切り替えがうまくできないでいた。
落ち着け私。
少しカーテンを開けるともう外は明るかった。
今回みたいな夢をまた見るのだろうか。
ただの夢なんだろうけど…。
ただの夢じゃない気がする。
誰かがリアルに死ぬ夢なんて 見たくない。