ーはじまり2ー
店内は賑わっている。ざわざわと声が聞こえる中イリは話し始めた。
「世界のコードを書き換えさせたのは…自由が欲しかったから」
少しの間無言になった。そして、ぽつりぽつりとイリは目を伏せながら話す。
「私、物心ついた時から研究所にいたの」
「それで色々な実験をされてたわ」
俺は静かに聞いていた。
「それでね…記憶がないの。そして感情も。」
聞いている限り実験の副作用のようだった。
「それでも、人並みに自由が欲しいと思ったの…巻き込んでごめんなさい」
正直、素直に謝られ面食らった。
「そうだったんだ…」
一言答えるとその場には一瞬の沈黙がながれたが、俺は飲み物を飲み質問をした。
「疑問なんだけどさ、なんで俺たち自己を保っていられるんだ?」
当然世界が変わったのだからそこに存在する人、物が変わるのは当たり前だ。
なのに、俺たちは前世界のままここにいる。
「知っている事は話すわ。たぶんそれは私たちがコードを改変された異物だから」
「異物?」
「そうよ」
どうやら、コードを操作された人間は世界から異物として認識。
世界改変の影響を受けなかったらしい。
「それでこの世界の事はわかるのか?」
「ええ、ある程度ならわかる」
イリはすまし顔で続けていく。
「起きた時にこの世界のコードを読んだわ」
「………と言うくらいがこの世界かしら」
一通り説明をし終えたイリは、店員を呼び飲み物を頼んでいた。
その間に頭を整理する。
「えーと、まずこの世界には魔法の概念はあるがコードの概念はないこと。
これが一番大きな違いか…後は文明が発展途上ってとこくらいか」
「正しくは別の文明として発展しているってことよ」
「…あーなるほどね」
どうやら俺は声に出して整理していたらしい。
「しかし、魔法かー…興味あるな」
「そう?コードを読んで改変するのも魔法に近いきもするけど?」
興味なさげに言われた。ちくしょう。
「っと、そろそろ出よう」
気づいたら客も俺たちとわずかに数人なっていた。
店員を呼び、帰ろうと立ち上がったところで気づいた。金を持っていないことに!
しばし固まり、再び席に座りイリに聞く。
「…イリお金持ってる?というかここの通貨ってなに??」
「持ってない。あと、通貨なんて細かい情報までは読んでない」
「だよなあ…」
呼んだ店員がニコニコしながら俺たちの前にきた。
「お勘定ですか?」
「ええ…まあ…」
考えた末、正直に言えばきっと見逃してくれると思いお金がないことを伝えた。
それを聞いた店員は奥の厨房へ入っていき、店主らしき人を連れてきた。
…見た目は、それはそれはものすごーく屈強そうで怖い顔したおっさんだった。
「お客さんお金が払えないって?」
今にも噛み付かれそうに低い声で言われた。
「……はい」
そう答えると、店主は外へ行き、俺たちは店内で待たされた。
すると、この世界の警察的な人たちに引き渡された…人情ってないんだと思った。
イリは落胆した顔で俺にバカねと言って一緒に連れて行かれた。