ーはじまりー
目を開けると俺は全く知らない場所にいた。
横を見ると隣には先ほどの少女がいて、スースーと寝息を立てて寝ていた。
「寝顔も可愛いな」
そんなことをつぶやくと、少女がぶるると体をよじり静かに目をあけた。
俺はしまった!といった顔で話しかける。
「聞いてた?」
少女はちいさく伸びをして周りをキョロキョロ見渡し
無表情で俺に聞いてきた。
「ここどこ?」
俺も周りを見渡す。周りにはヨーロッパにありそうなレンガで
覆われた建物が右に左にそびえ立っていて、下はコンクリートではなく
石のブロックでできた道のようだった。
俺はため息をつきながら少女に向いて答えた。
「わからん。むしろ俺が聞きたいんだが?」
少女にはあっそ。っといった感じでスルーされる。
他にも聞きたいことがあった俺は負けじと質問を続ける。
アサギリ ユウ
「ところでさ、俺の名前は朝霧夕って言うんだけど、君の名前は?」
意外にもその質問には反応したようであっさり答えてくれる。
「イリ」
「苗字は?」
「そんなの知らない」
苗字がない?変な女の子だなと思いつつ別段気にせず話を続ける。
「んで、一体ここはどこなんだ?」
起き上がり、少し路地を歩いて大通りへ顔を出すが、わかった事は
ここは全く知らない土地だということだけだった。
イリを放っときぱなしだったので、また路地へ戻る。
まだ、座って何もない空間を見つめている。
やれやれといった感じで再び俺も座り込む。
さて、どうしたものかと思案にくれていると、突然イリが立ち上がった。
「お、おい急にどうしたんだよ?」
イリは、空を見ながらぼそりと言った。
「…改変…できた」
俺は改変の言葉でやっと気づいた。
そして、息を飲み自分に言い聞かせるように言った。
「まさか、実験で俺が改変したのは世界のコードだったのか…」
確かに思い返せば、あのコードの量。
尋常じゃない英数字の羅列だったと思い出す。
いや、そもそも世界のコードを解読することなんて…
それはもはや神の領域なんじゃないかとイリを見て少し身震いした。
俺はイリの横顔を見ながらこいつの目には世界がどんな風に見えているんだろうか?
そんなことを考えていたら、ぐーっとお腹が鳴った。
そして、それにつられたのか、ぐーっとイリのお腹も鳴ったので
俺はつい笑ってしまった。やっぱり普通の女の子であり人間なんだと安心した。
「俺はお腹へったけど、イリもかな?」
イリはこちらを見もせずに答えた。
「そんなの知らない」と。
俺は立ち上がり顔を見ながら笑顔で言った。
「ご飯食べにいこうか!」
イリはコクリと頷くと、ひよこみたいに俺の後をついてくる。
大通りにでる。すでに日が落ちてきているせいか人はまばらだ。
やはり、大通りだけあって見渡すとすぐに飲食のマークの書かれた看板を見つけた。
小走りで近づく。離れないようにといつの間にか俺からイリの手を引いていた。
そのまま、店の扉を開けると店員さんらしき人が声をかけてきた。
「いらっしゃい!お二人ですか?」
俺がはい。と答えていると店員さんが妙にニヤニヤしている。
なにをニヤニヤしているのかと視線を追うと…手をつなぎながら入っていることに
気づき、急に恥ずかしくなり手を離した。
イリは不思議そうに手を見ていたがあまり興味なさそうだ。
顔を赤くしながら俺は案内された席へ座った。
メニューを渡され中を見る。言語は一応前の世界と共通しているようで安心した。
まぁ、さっき普通に話せてたしな。
ある程度腹も膨れたので店の中で、イリに現状の説明を求めた。
「それで、なんでりんごの改変じゃなくて、世界なんて大それたものを改変させたんだ?」
イリは少し考えたような顔をして、静かに話し始めた。