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2 敵対、開戦

 6人が行動を開始したのと同時に、まだ自分たちの状況がよく分かっていない4人が理解したことは『このままだと凌牙が殺される』、それだけだった。


「先輩を助けなきゃ!」


 花恋が慌てていると、総司が


「本当に助けるのか?」


 と冷静に言った。


「だって、そうしないと先輩が!」

「助けようとすると、確実に彼らと敵対すると思うんだけどね。それに彼らは僕たちを確保し、凌牙を排除すると言っていた。凌牙は元々短気だったけど、ここまで酷くはなかった。今の彼はなにか、理性を失ってるとでも言うのかな。とにかく危険だ」

「でも!」


 総司と花恋が言い争っていると紫音が花恋を諭そうとした。


「花恋ちゃん、助けたいって気持ちは分かるけど、私は貴田くんより花恋ちゃんの方が大事なの。だから、貴田くんを助けようとして、あの人たちと戦うことになるのは反対かな」


 すると今まで沈黙を守っていた賢斗が、


「姉ちゃん、俺は花恋に賛成だぜ。殺されそうになっている凌牙先輩を助けてなにが悪い。それに総司先輩も言ってたろ?あいつらの目標は俺たちの確保だって。だから俺たちはやられないよ!」


 と、自分の意志を示し立ち上がった。すると総司が慌てたように口を開こうとするが、


「誰を」「助けるの?」


 その声と同時に賢斗の両側から2本の短剣が突きつけられ、4人は凍りついた。その短剣は、4人の確保に向かったロイズとセルノに握られており、2人からは殺気が放たれていた。


「僕とセルノはキミたちの確保が目的だけど」

「隊長たちの邪魔をするなら」

「「斬るよ」」

 

 ロイズとセルノが交互に言葉を発し、少しずつ賢斗に短剣を近づけていくと総司が顔を白くして、


「ま、まってくれ。彼の説得は僕たちに任せてくれないか」


 と震えた声で頼んだ。すると2人は放っていた殺気を消し、賢斗に突きつけていた短剣を引いた。それからロイズは興味無さそうに呟いた。


「あっそ、なら任せるよ。だけど、少しでも変な動きしたら次は斬るから。いいね?」

「わかった、それでいい」


 2人の殺気と短剣から解放された賢斗は途端に足から力が抜け地面に座り込み、近くまできた総司にそのままの状態で引きずられていった。

 総司は2人に声が聞こえなくなる距離まで離れると、花恋と紫音を呼び、集まった4人は小声で話だした。


「あ……ありがとう、総司先輩」

「気にしなくてもいい。あそこで止めなかったら、そのまま刺されていたかもしれないからね。」

「ほんとだよ。すっごく心配したんだからね」

「ごめん、私が先輩を助けるなんて言い出さなければ……」

「そのことなんだけど、あの2人を見て気が変わったよ。凌牙より彼らの方がよっぽど危険だ。あんなに簡単に人を殺そうとするなんて」


 総司の言葉を聞いた瞬間、花恋は下を向いていた顔を勢いよく上げた。


「それじゃあ先輩を助けるんですか!?」

「いや、助けたいけどあの状況だと厳しいかな……」

「ならどうすれば」

「そうだね……僕があの2人をどうにかして抑えよう。その間に君と賢斗は凌牙のところに行って、あの2人を倒してほしい」

「倒すって言ったってどうすれば……」

「そうだよ総司先輩。俺たち、あいつらみたいに武器なんか持ってないよ」

「そこは多分大丈夫だろう。彼の言葉からすると僕たちは勇者か英雄のどちらからしい。一緒にいた凌牙が炎を操っているなら僕たちも何かできるようになってるはずだ」

「なるほど。 ――でもあいつら、強そうだよ? それになにが出来るのか分からないのに戦うのはちょっと……」


賢斗が戦うことを決めきれず迷っていると


「くっ、うぜぇんだよ!」


 凌牙の追い詰められたような叫びが聞こえた。4人が声につられ、凌牙の方を見ると、そこにはレイルとガモルの傍から見ても高度な連携を前にじわじわと押され始めている凌牙がいた。

 しかも凌牙の相手は2人だけではなく、足には水がまとわりつき、2人が下がり凌牙が攻勢に出ようとした瞬間を狙ったように銃弾が飛んでくる。4人を確保に来た2人以外の4人が、お互いの隙を消すような動きに、銃弾が頬をかすめ剣が浅く腕を切り裂き、着実に凌牙を追い詰めていった。


「凌牙先輩!」

「迷っている時間はないよ。それに、君は一度凌牙を助けるって言ったじゃないか。あれは嘘だったのかい?」

「……わかった、やってみる」

「よし、ならすぐに動こう。作戦はこうだ。僕と紫音があの2人を抑える。その間に花恋ちゃんと賢斗君は凌牙のところに行ってあの2人を倒す。2人を倒したらすぐに彼らから逃げよう」

「逃げた後はどうするんだ?」

「彼らがいるってことは多分、この森を抜ければ近くに街があるはずだ。そこに行こう」


 総司が今後の動きを説明すると花恋が急かす。


「わかりました。そうと決まれば早速動きましょう」

「そうだね、花恋ちゃんは大丈夫だろうけど、賢斗も気をつけるのよ?」

「分かってるよ。大丈夫、すぐに倒すから」

「それじゃ、行動開始だ。」


 そう言って総司と紫音が確保に少し離れた場所にいるロイズとセルノに、花恋と賢斗が戦いを続けている3人に向かった。


「兄さん、あの人たちが」

「ん? あっ! そうだろうと思ったよ。セルノ、行くよ」

「うん」


 ロイズとセルノは2人が戦闘が行われている場所に向かうのに気づき追いかけようとすると、丸腰の総司が立ちふさがった。


「行かせないよ、あの2人のところには」

「武器も持ってないのに止められると――」

『刃よ、現れよ』

「――なにっ!?」

「武器ならあるよ、ここにね」


 総司の言葉とともに手の中に現れたのは、鞘に収められた1本の黒い刀。装飾は付いておらず、ただただ実用性が求められた無骨な刀だった。

 その刀を目に入れた瞬間、ロイズとセルノは驚いたように目を見開いた。


「これは予想外だ。まさかこんなにも早く能力を使えるようになるとは」

「兄さん、あの人も強い」

「そうみたいだ。これはまずいかも?」

「ん、頑張ろ」


 2人が短剣を構えると、総司は居合いの構えをとった。

 3人の中に緊張が走り、辺りの空気が重く感じるようになった中、紫音は戸惑っていた。


(このままだと本当に戦いになっちゃうよ……出来れば戦いたくなかったんだけどなぁ。でも戦わないと色々と危なそうだし……うーん、頑張るかぁ)


 紫音がそんなことを考えていると総司が紫音に後ろに下がるように促した。


「紫音は危ないから後ろに下がってて」

「うん、わかった。それと、『力よ、この者に宿れ』 怪我しないでね」

「あぁ、これならできそうだ」


 総司が2人の方に顔を向けると、そこには


「おいおい、2人とも使えるとか反則だろ……それじゃあ、あっちの2人もなのか」

「……」


 引きつった顔のロイズと、驚いたように目を見開くセルノがいた。


「何に驚いているのか知らないけど、そっちが来ないならこっちから行かせてもらうよ!」

「っ!まともに受けるなよ!」

「わかってる」


 3人の攻防戦が始まった。











 一方そのころ、花恋と賢斗の2人が向かった先ではまだ戦闘が行われていた。剣撃の応酬は次第に激しさを増し、ついにはレイルの攻撃で凌牙が握っていた剣がその手から離れ、弾かれた剣は空中でただの炎となって消えていった。


「これで終わりだ」

「くっ……」


 顔を苦渋に歪めた凌牙は、ふと何かに気づくと口角を吊り上げた。


「なにを笑って――」

「はぁぁぁあ!!」

「――なにっ!?」


 手に剣を持った賢斗が背後からレイルに切りかかってきた。レイルは驚きつつも賢斗の剣をかわし、距離をとった。


「能力を使えるようになるのが早い……」

「おいレイル、どうなってやがる。普通はこんなんじゃねぇだろ」

「あぁ、普通ならもっと時間がかかるはず……今回の転移者は何かが違う、注意しろ」

「言われなくてもそうするさ」


 レイルとガモルが何やら話していると、後から来た花恋が凌牙たちと合流した。


「先輩! 大丈夫ですか?」

「へっ、遅せぇよ。それじゃ、あいつらは任せた」

「えっ……ちょっと先輩!? 待ってください!」


凌牙は2人を置いて後ろの木々に走り去っていった。花恋は驚き、少し遅れて凌牙のあとを追って走りだした。


「レイル! ヤツが逃げたぞ! ロイズとセルノは何をやってやがる!」

「ここに2人しか来ないということは……あぁ、やっぱりか。あっちで残りの2人と戦ってる」

「なんだと!」

「ガモルは2人のところに向かって彼らを確保してくれ。俺は彼を倒したら、逃げた相手の排除とそれを追った彼女の確保に向かう」

「了解だ、やられるんじゃねぇぞ!」

「ふっ、お前こそ間違って対象を殺すなよ?」


 ガモルが2人の元に向かいレイルが賢斗の方に向き直ると、賢斗は剣を構えたままこちらを睨んでいた。


「準備はいいか? こっちはあんたらを倒して早く花恋を追わなきゃいけないんだ」

「これは奇遇だな、俺もアイツを追わないといけない。どうだ、ここは共同戦線といかないか?」

「ふざけんな! 簡単に人を殺すようなヤツらとなんか一緒に行くわけないだろ!」

「そうか、残念だ。なら、君には少しの間眠っていてもらおう」


 レイルはそう言って持っていた剣を消して絶大な覇気を放ち、右手を前に出した。


『我求むは第三の剣、雷鳴を呼び数多の雷を従えし雷霆の剣。慟哭するは魂、激励せしは雷精の長、祝福するは精霊の王。我が声によって現れ、そこに存在を示せ。雷帝ゼウス


 レイルがそう唱え、右手に現れたのは一本の剣だった。刀身には眩い程の雷がはしり、大きな存在感を放っていた。


「なんだ……それは、剣?」

「少々手荒になるが……死ぬなよ?」


 そう言うとレイルの姿が消えた。


「なっ……消えたっ!? どこに……がっ!」

「悪いな」


 それがこの森で賢斗が最後に聞いた言葉だった。









 






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