決意
幼い頃から、ずっと疑問に思ってきた。
生まれた世界は、生きていくにはとても生き辛い世界。両親がいない子供なんて大半で、レオもそんな境遇で育ってきた。
人間よりも遥かに優位な位置に存在する生物。彼らを自分の目で見たことは一度もない。なざならば、見えないからである。そんな生物を人々はこう呼んだ。"見えない怪獣(悪魔)"だと。
まさしくそうだと思う。悪魔に怯えながら生活する日々。外出するには、剣を振り回しながら歩かないといけない。そんな状況下なのに、政府の人間は動こうとしない…否、動くことができないのだろう。
レオが生まれた国、スノーランドと呼ばれる王国は、雪の都と呼ばれる反面、悪魔たち生殖率第一位に位置する生きずらい国である。
「レオ、朝ごはん出来たわよ。」
凛とした美しい声が背後に聞こえたレオは振り返った。
「姉ちゃん!今、行く!」
二カッと笑ったレオは慌ててテーブルへ向かう。
木製で作られたテーブルのそばに、二台椅子が置かれており、手前の椅子に座った。
朝食には卵のサンドイッチ、コーンスープ、サラダと毎日のありきたりな食事が並んだ。
「ほんと、相変わらず美味いなー。これなら、いつでも嫁に行けるんじゃねェ?」
笑いながら茶化すと、姉のシオンはむっとしたような顔をした。どうやら、レオの言葉が気に食わなかったようである。褒めたつもりではあったのだが、そうとは取られなかったようだ。
「な、なんで怒るんだよ。この間だって、声かけられてたじゃねーか。断っちまったの?」
その言葉にシオンはこくりと頷いた。レオは勿体ないなと思う。シオンは男性にとても人気がある。美人で凛とした佇まい。薬師をしており、薬の知識は豊富で村の人間も先生、先生と呼んでは慕っている。そんなシオンは、レオにとって自慢の姉であった。
「もしかしてさ、俺のせいとかじゃねーよな!?」
「断じて違うわよ。」
「だったら、なんで、」
「レオ。」
シオンは真っ直ぐレオの瞳を見つめて名を呼んだ。その漂う雰囲気に、レオは口を紡ぐ。
「今は、仕事を大事にしたいから」
シオンは両親を亡くしてから、医学の勉強に励み、村にいるただ一人の医者に弟子入りをし、薬師となった。たくさんの人々を助けたい、それが彼女の夢である。
「だったら、俺の怪我も治してもらわねーとな。」
「もう、また、その話?」
「おう!俺は、この世界を変えるんだからな!」
「ふーん?」
信じてなさそうな姉の表情にむっとするが、口にはせず、二カッと笑って見せた。そんな和やかな空気の中、食事をしていた時であった。
「ねぇ、今何か聞こえなかった?」
不安そうな顔で、シオンはレオを見た。レオは耳を澄ませる。
「………悲鳴?」
甲高い女の声が遠くから聞こえてきたと思えば、その声は各地に木霊していく。悲鳴の声がだんだん近づいてきて、恐怖を覚えた。
「姉ちゃん、!」
レオはシオンの前に出るように構え、玄関前に立つ。ダンダンダン、と玄関の扉を叩く音がしたかと思えば、「オースティン姉弟!いるなら今すぐ逃げるんだ。悪魔が来た!」と男が言った。レオの頭に、過去の映像が流れる。自分を庇ったせいで悪魔に襲われ、冷たくなってしまった両親が。手足が震えるのを感じた。
「しっかりしなさい!」
「痛ェ!!」
バシッと背中を叩かれた。後ろを振り向くと、フライパンとナイフを両手に持ったシオンが立っていた。
「剣士はこういう時、怖がったりしないで女を守るもんよ?」
ニヤリと笑って見せたシオンはレオの腕を引き、玄関に立てかけられていた銀の剣をレオに渡した。
「父さんの形見。受け継ぐんでしょ?それで、私をしっかり守ってみせなさいよ?」
「ほんっと、姉ちゃんには敵わないわ。」
ははっと笑いながら受け取った剣は、想像以上に重たくて。
その剣を力強く握り、レオは玄関の扉を開けた___________。