めぐる
私は駅に向かって、早歩きをしていた。このままじゃあの駅近くのスーパーのタイムセールに間に合わないからだ。ついつい長話をしてしまった。
急ぎながらも私は幸せな気分に包まれていた。1人の生徒にあれだけ好かれるなんて思ってもいなかったからだ、にしても、美香は本当に私と三上くんがお似合いだとでも思ってるんだろうか・・・。少し考えてみる。
ふと自分の頬を触れると柔らかくなっていることに気付いた。どうやら私もまんざらでもないらしい。
そういう未来もいいなと考えていると、駅が見えてきた。時計を見ると17時40分、18時までに間に合うかは微妙なラインだ。
そう思い駆け出した瞬間、耳にしたことのない音が響いた。その音を好む生物は存在しないだろう、私は全身から振ってでた震えに耐えられなくなり座り込んでしまった。目の前によく知る人物がうずくまっていた。
「三上くん!?」
右の胸辺りを押さえうめき声を上げている、よく見なくても体が血に塗れているのがわかった。私は何が起きてるのかわからず、必死に三上くんの側に寄った。膝が震えて、立つことが出来ないので四つんばいで近づく。
「何でこんなところにいるの?」私がそう言うと彼は深い傷を負っているくせにそれに似合わない笑顔で、「お前が天照と会うって言ってたから後をついてきたんだよ」
「私のせいなの? もしかして私が薬のこと知ったから?」自分でも何を言っているのかわからず、喘ぐ声を必死に押さえてに喋った。
「お前のせいじゃないよ、どの道こうなってたんだよ、俺は。俺こそごめんな、巻き込んじまって」
「私が、私が望んだことだから仕方ないの」
「いや、本当にすまない。やっぱり逃げたって一緒なんだな、また苦しむのがオチなんだよ」私の歓迎会をしたときとよく似たことを言った。
振り返ると、黒いスーツとサングラスをした男が2人銃を持って私と三上くんを囲んでいた。
やっと繋がった。
美香が泣いていたのは、私がこうなるとわかっていたからだ。
けどうれしいよ、私の意志を尊重してくれて、その上で泣いてくれるなんて。やっぱりいい子だよ、さすが私の弟子だよ。
けどこの悲しみは美香の心の中でずっと巡っていくんだろうな。
ごめんね、ダメな師匠で。
私は三上くんに覆いかぶさり、最期の時を待った。きれいな小指を眺めて。