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したきりすずめ

作者: 菱垣 宗次

したきりすずめ



去年の夏の話だ。

F県にある、弟の職場の研修所に急な要件で行くことになった。

仕事帰りということもあり、自分は久々に終電間際の列車に飛び乗った。呼吸が落ち着くとそのまま眠りに落ちてしまう。

目が覚めると乗客は自分しかいなくて、携帯を見ると午前零時を回っていた。

ここはどこだろう。窓の外を確認しても、見知らぬ土地だった。街灯も人の住む灯も片手の指で数えるほどもない。それに終電はとっくに過ぎているはずなのになぜ走り続けているのだろう。

気づいた時にはずいぶんと遅かった。列車はそこから一時間半ほど進んで、やっと一つの駅に到着した。


無人駅だ。


サビだらけの駅名を羽虫のたまった電灯が照らしている

(つごもり)

とあった。

全く知らない地名に疲れがどっと湧き出た。タクシーは期待出来なそうだ。というより電波が入らない。バッテリーは三十パーセントを下回っている。


とりあえず改札を抜けると駅を中心に小さな商店が並んでおり、その片隅に電話ボックスが設置してあったので、


「調べれば泊まれるところくらいあるか。帰れそうならタクシーを呼ぼう。」


そう考えていた。いつのものかもわからない電話帳を手に取り、色があせてしわくちゃになったページをめくる。


すると一枚の紙切れが出てきた。

手に取ってみると、子供の字と思われる書き方で



したきりすずめめめめめめめめめめめめめ



と書かれている。

うわ……と気持ち悪く思っていると、裏表で材質が違うことに気がついた。裏面はつるつるしている。

写真のようだ。

映し出されていたのは竹林で知らないおじさんが笑顔で映し出されているもの。

ただ

眼球がボールペンで何度も何度も黒く塗りつぶしてあった。そのほかにも、おそらくカッターでつけたのであろう傷がそのおじさんの体の至るところにあった。

疲れていたのでいたずらに付き合う気がなかった自分は他のページも目を通す。

タクシータクシーとさがしていると、虫の声しかしなかった雑木林から太鼓?の音が近づいてくる。

それから灯も列をなして。


助かったと思った。

全てのシャッターが閉まった商店の裏に入り雑木林を進んだ。クモの巣が顔にかかり、デカイ虫がバンバン当たってくる。


ある程度進むと民家があった。

庭の広い、納屋のある農家づくり。

気がつくと人の気配は消えていた。


「もうなんでもいい。こんな時間だけど訪ねていって、タクシーを呼んでもらおう」


そう考えて、人が住んでいるであろう建物の呼び鈴に手を伸ばした。窓のカーテンの下から漏れる光が明滅してて人がいるのは確かだったので少し安心した。

しばらくして玄関の鍵を乱暴に開ける音がする。おそらく家主だろう。

流石に迷惑そうだ。

顔も見ずに


「夜分遅くに申し訳ありません」


と顔を上げると


多分、多分だけど

さっき電話ボックスで見た気持ち悪い写真のおじさんだった。


そこからはもうビックリして自分の知っている場所まで戻ろうと、駅を目指して走った。


あとは駅の待合所まで行き、真っ暗な小さい部屋で一夜を明かした。ベンチとはいえ意外と眠れた。

明け方あのおじさんが駅に来ていた。申し訳ないことに心配してくれたらしい。


そこからは始発で弟の住む最寄まで戻った。


ポケットを確認したら、あのおじさんの写真が入ってた。

コンビニのくずかごに捨てて帰った。





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― 新着の感想 ―
[一言] 写真は憑いてきたんですかね……。おじさんとともに。怖いです。 主人公に今後、悪いことが起こらなければ良いのですが……。と思わず思いました。
2015/08/13 22:56 退会済み
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