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リュウの飛ぶ街  作者: kim
15/19

常住と闘争

   平原にて


 リュウを見ました。

 東の隣町から、大きな鎌を持った少女を背に乗せて。

 あたしの待つ平原に降り立ちました。

 少女はあたしの恋のライバルです。

 でも、あたしは負けません。

 きっと勝ちます。


 なんて。


 あたしの友達は、すぐそんなことをけしかけてきます。

 きっと明日もそんなことを言ってくると思います。

 あたしの友達は日に日に恋愛ジャンキーになっていってます。

 おそらくカレである先生にそんな風にしつけられているからだと思います。



 前の晩、ひさしぶりにスープの家に泊まりにいった。


 ただ計画を伝えるのが目的だったが、ヴァルも隣町で準備するとのことでひさびさの一人暮らしとなってしまったから。

 最後の晩餐のつもりはないけど、彼女の夢見るお泊り会を実践したかったのだ。


 料理はスープが準備してくれた。

 ある意味期待はずれ。

 骨付きのドラゴンの肉とか、苦い薬草がたんまり入った鍋とか、大釜でヒッヒッヒッて不気味に笑ってるとか、そんなのを予想していたのに。


「失礼です!」


 とわめくスープが用意してたのは、ナスのトマトパスタとか、ジャガイモのポトフとか、パンプキンサラダとかだった。

 ヒッヒッヒッとは笑わずに、鼻歌まじりにエプロンをしていた。


 本当においしかった。

 ヴァルが戻ってきてから、ずいぶんと料理する回数が増えたし、食事の回数もきちんと三食食べるようになった。

 だけど、それとはまた違う楽しみがある。


 もっと余韻にひたりたいな。


 なんて思ってしまう。

 別腹用に買ってきたシュークリームとコーヒーを用意してたら、本気でそのまま日常生活に突入したくなった。

 だけど、そうもいかないから、てっとりばやく計画書の説明をすましてしまう。


「あらぁ、ビックリな展開になりましたね。」

「なのよ。」

 あたしはタメイキまじりに青竜Sの悪口を並べたてた。

 ですよね、とスープがあいづちをうっていた。

 やっぱり甘いものでも食べなきゃやってらんない。

「ライバル出現ですもんね。」

 大口開けてシューにかぶりつくあたしの頭上にハテナマークが何個も浮かんだ。

 ヴァルの復活と参加宣言を伝えたつもりだったのだが。


 武器の作りすぎで暑さにやられたのか?


 首をかしげたのにスープはなんら反応なし。

 コーヒーが苦かったらしく顔をしかめてた。

「…あのさ、

 ビックリな展開って、あたしに恋のライバルってトコ?」

「ちがうんですか?」


 また、会話がずれてる…


 あたしは無言で日記帳を開いて、リュウを見ました、と走り書きした。

 続けて徒然と文章をつらねた。

 スープが覗き込んできたけど、ムシ。

 読んでいくうちに彼女が怒りだすけど、それもムシ。

「あぁ! エルったらヒドイです。

 そんなコト書かれたら、あたしが思いっきりバカみたいじゃないですか!

 もう…それはエンマ帳ですか?」

「ウルサイ。

 恋愛ジャンキーは黙ってやがれ。」

 辛らつな一言にスープはぶーたれた。

 また、コーヒーを一口飲んで、顔をしかめた。


 そんなに苦いなら甘くすりゃいいのに。


 一応訊いてみる。

「砂糖ないの?」

 彼女は憮然とした表情で肯いた。しかたないなとシュークリームを割って、中の生クリームをコーヒーにぶち込んだ。

「ウインナコーヒーのニセモノ。」

 一口すすった。ぱっと表情が変わるのを見て、あたしはほくそ笑んだ。

「邪道でしょ?

 コーヒー職人やケーキ職人が見たら、マジギレされそうなくらいに。」

「でも、おいしいですね。」

「シロウトの悪あがきは強いのよ。」

 無意味にドヤ顔。


 なんでだろう。

 そんな事を話していたら、明日、勝てる気がした。


 そして、今、そのショウジョを前にした。

「はじめまして。

 ヴァルがお世話になってます。」

 妄想世界からむりやり帰宅させられた。

 ペコリと挨拶されたから、あわてて、あたしと同い年くらいの少女にペコリと挨拶した。

「いえいえ、こちらこそお世話になってます。」

 スープも挨拶をして、向こうも挨拶をした。

 意味ありげな視線をあたしに送ってきたから、後ろ頭を殴った。


 その様子をヴァル以下、男たちは不思議そうに眺め、少ない成人女性は、仕方ないなみたいな苦笑を浮かべていた。

 女性陣ダレもが身に覚えがあるのだろう。

 場の雰囲気より、仲間内の雰囲気優先みたいな。


「先発隊のワイバーンが二騎とも帰ってきたぞ。」

 東の空を仰ぐ裏町仲間の言葉に緊張が走る。

 〈遠視〉もしくは〈遠見〉と呼ばれる魔法で見たものだから、まだ、言った本人以外には見えない。


 それでも、あたしらショウジョ三人も慌てて動きだした。

「一箇所に固まらないように散りましょう。

 みなさん配置についてください。」

 指示だしはスープだ。

 同じ後衛には武器強化系の附与魔術師二人に薬剤魔術師三人。

 彼らはスープの武器作成の際にお世話になっている方々だ。

 それから、心身強化系の附与魔術師が五人。

 生命神テナの神官二人、戦神ワイズ・ロヴの神官二人。

 こちらさんは隣町の少女の知り合いらしい。


 前衛はあたしと、ワイバーンを引きつれ合流予定のリドルがメイン。

 それとプルートゥの娘と呼ばれてた隣町の大鎌少女とヴァル、それとドラゴンスレイヤーを持つ裏町仲間十人。

 ワイバーンの一騎はリドルと乗換え予定だ。空中戦用にドラゴンランスを武器としている。

 キョジンとのハーフも一人いて、武器はバトルアックス、いわゆる両手持ちの長斧だ。


 あたしにも二体の翼竜が見えた。

 影は見る見るうちに大きくなり、草原に降りたった。

「青竜が来るよ。

 よほど自信があるんだろうね。

 小細工ナシに真正面から現れる気らしい。」

 地面に降り立つと同時に、リドルが言った。

 選手交代とばかりに二人手をパチンと片手でハイタッチし、予定どおり入れ替わりでランスユーザーが飛びたった。

 つづいて大鎌少女を乗せたヴァルも。


 見る見る小さくなる影に少しだけ不安になって…


 いやいやいや、不安なぞナイっ!


 リドルがダレかとテレパスで話していた。


 それが終わるのを待って、あたしは訊いた。

 一人あたま、二、三体ってトコだ。

 の割には、表情がさえない。

「敵の戦力は予定どおりだった?」

 あたしはリドルに向き直って尋ねた。

「予想よりドラグーンの数は多いけど、リザードマンは減らしておいた。」

「減らしておいたって?」

 先に闘ってきたってコトか?

「南を迂回してくる予定だった一個小隊を事前に潰してもらったんだ。海岸沿いの町辺りでね。

 それと別個こっちに向かってたのは、隣町の光明神殿の神官兵団が交戦中。」

「リドル、あとでキミのコネを紹介してもらいたいわね。」

「やだ。

 貸しを作るとメンドウなヒトたちがほとんどだから。潰したって言っても、全滅じゃないからね。

 おそらく〈空間転移〉で連れてくる部隊もいるはずだから、初めはドラグーンとリザードマンを相手することになるよ。

 三桁はいかないと思うんだけど。」


 おいおい。ずいぶん話がでかくなってないかな? 


 表情に焦りが出てしまったのか、リドルが慌ててダイジョウブを連発する。

 で、目の前に集中しよう、と小学生の顔で明るく話す。

「そこは仕方がないね。

 このメンバーでいけるのよね?」

「全員の面談結果でウソツキがいなければ、半数以上が経験者。

 ドラグーン相手はやや少ないから、それは僕が対応するよ。」


 図書室の閉架でドラグーンも調べた。

 キョジン族とリュウ族がまだ抗争状態になかったころ、交わり生まれた種族らしい。

 姿形はキョジンの身体にリュウの頭と尻尾をつけた感じだろうか。

 リザードマンとヒューマン族の体格差はさほどないが、ドラグーンは三倍程度大柄だと言われている。肌がウロコなのか逆鱗があるのかは、調査不足だけど知ったところで意味はないだろう。

 武器やら魔法は個性らしい。


「ところでさ、こういう決闘みたいなのって、

 やぁやぁ、ワレこそは、

 なんて名のりあげたりはしないの?」

「はぁ?」

「それっていったいなんの不都合があるんですか?」

 横からスープが口を挟んできた。

 少し、迷う。

 つい小声になる。

「闘うまぎわになに言ってんだ、って怒られそうだけど。

 どうもさ、個人と認識すると剣がニブるのよね。

 そのヒトの人生とか家族とか、しょってるものを勝手に見ちゃうから。」

「あー、それはわかります。」

「だから、裏の依頼のときは全員Aさんで統一してるもの。

 部屋とか勤め先とか、プライベートスペースではゼッタイに殺しなんてムリ。」

 いちおう大ボスの青竜サイスローズってのは調べて覚えてしまったが、アタマのなかではそれすら青竜Sとあたしは呼んでいる。


 隣にいたヒゲモジャの裏町仲間が苦笑していた。

 あたしも曖昧に笑って返した。

 ポンと背中を叩かれる。

「オレにゃ、もうそんな純粋さや、やさしさなんてないからな。

 まかせろ。

 エルシアが手を下さなくてもいいように、その他大勢はオジサンがヤッてやるよ。」

「オジサンって…」

 オジサンだよな。


 いえいえ、言い方がちがう。

 あたしがガキなんだ。


 オトナの気づかいに反省し、落ちこむ。

 ツリ目の悪人面の裏町仲間が続けた。

「そんな顔すんなって。

 今はまだ、アマっちょろい小娘でいなよ。

 武器屋の嬢ちゃんもだぞ。

 あんたも自分が打った武器が何に使われたのか、なんて知る必要はない。

 人殺しの道具作りやがって、なんて貶されたこともあるだろ?

 どうせ包丁一本でも、ヒトは殺せちまうのによ。」

 スープが歯噛みした。


 あるんだ。

 どこの人権団体だ?


 なにを作ったかじゃなくて、どう使ったかを問えよ。そう笑いとばせるまではスープも悩むのだろうか。

「剣は武器で、包丁は調理道具だ、ってかい。

 所詮、自分だけの正義が必要なんだろうな。

 自分や大切なダレかの身を守って、ヒトを傷つけるのも、恨みや楽しみでヒトを傷つけるのも、結果はおんなじだ。

 そこに善悪はつけられん。

 だったら、自分の確固たる正義を定めるしかない。」

 ドラゴンスレイヤーを眼前に掲げながら、ツリ目の彼が言った。


 確固たる正義か。


「へぇ。いいこというじゃん。

 正義か…そうね。

 あたしだったら、わが子が安心して公園で遊べることかな。

 近頃物騒だし。」

「あら、ダイエットにちょうどいいなんて言ってなかった?」

「ちょっと、なんでバラすのよ。」

 その横で女性剣士らが笑いあう。

「あたしにもありますかね?」

 ちょっと自嘲ぎみになる。

 また、苦笑された。

「だから、急ぐな。

 その歳で自己分析できりゃ、ヒトはダレも迷いはしねぇよ。

 あんたらは悩め。

 その代わり、ヒトを傷つけたなら、そいつの分も背負って悩み尽くせよ。」

「んだな。

 この歳になっちまうと、悩むこと自体が面倒になる。

 そしたら、もう迷わない。

 迷わないことは確かに剣先を惑わせないが、後々正しかったのかに苦しむことになる。

 苦しむことすらできなくなったら、殺すニンゲンの末期だ。

 殺すことしかできなくなる。

 助けることができなくなるんだよ。」

 あたしとスープは黙って聞き入っていた。


 オトナの説教は、特に教師や親のは、正直ウザい。

 学校ではしょっちゅうそんな話題になる。

 しかし、森の中で話されたいつぞやの先生のネタじゃないが、場所と状況が変わるとすんなりと話が脳に、というか心に解けこんできた。

 たまに自分でコントロールできればと思う。

 たとえば、こうやって草原で自分自身の過去を瞑想してみるとか。


 やらんな。


「先輩方のためになるお言葉、ありがたくちょうだいします。」

 やっぱりおちゃらけてしまった。


 

   空にて


 飛びたった蒼穹。

 その日が来た。

 俺も覚悟を決めた。


 なのに、俺の背中の上で大鎌を担いだ少女はゲラゲラと笑い転げていた。

 本当に転げて、地面にまで落ちてしまえ、と思ってしまうほど笑っていた。

「言うことカノジョに似てきたんじゃない?

 皮肉たっぷりねぇ。」

 この少女を背に乗せて行くと言ったときのカノジョの反応を聞いてである。

 そもそも、カノジョは再戦を決めたことを話したときからして不機嫌だった。

 だろうね、と背中の少女はまた笑った。


「で、なんて説得してきたの?」

「乗りたければドラゴンライダーの免許を取って欲しい、と言うこと。

 それから、ただでさえ混乱している街の住人の前でドラコニアンの姿をとったら、今後ここに住みずらくなる、と言うこと。」

「納得してくれた?」

「おそらく。

 理解はしてくれたと思う。感情はさておきだが。」

「あはは、カワイイ娘じゃないの。

 イイ娘見つけたわね。」


 カワイイ娘。

 イイ娘。

 そういうものか。


「まぁ、そうだな。イイ娘だ。」

「…はいはい。」

 孤独で闘わないというのはいいものだ。

 道中も余計な不安と闘わなくていいから。誰かのために闘うというのはいいものだ。

 いくつもの笑顔を見ることができるから。


 自分が見下ろすためではなく、誰かが顔を上げて歩けるように、空を飛ぼう。


 先日、俺が蒼穹に誓ったことだ。

「ずいぶん変わったわね。」

 隣で息を潜める少女が心底驚いたように俺を見ていた。


 覚悟はヒトを強くする。

 死ぬ覚悟ではない。

 生きる覚悟。


「もう、大丈夫みたいね。」

「かもな。正直恐怖はまだある。

 しかし、不安はない。」

「勝てる?」

 ふん。

 鼻で笑いとばした。


「勝つんだろ。」

 

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