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リュウの飛ぶ街  作者: kim
13/19

種族と思想

  山にて


「驚きですよね。

 ヴァルさん、王子さまですってよ。」

「国王候補でしょ。

 知能順に並べられた何位って言ってたじゃない。

 しかも、現国王さん、元気いっぱいらしいし。」


 あたしは一体全体、なにに驚いていいかわからなくなってきた。


 今、あたしたち四人は翼竜ワイバーンの背の上にいた。二匹に二人ずつ。

 爺さんゾフの身体に腕をまわしているのがあたし。

 小学生リドルに手を添えて、鞍の持ち手でバランスよく乗っているのがスープ。

 初めて見る種だ。

 というより、そもそも、こないだ見たリュウからして初体験だ。


「そろそろ着くよ。」

 リドルの舌ったらずな声が鞍に備えつけられた簡易〈伝達〉器具から聞こえてきた。

「あれは歓迎してんのかな?」

「はぁ!

 あれがリュウなの?」

 歓迎しようがしてまいが、なんの意味があるんだ。


 なんだあの大きさは。


 知識では理解しているつもりだった。

 ただ、現実に見るのとは、段違いの迫力だった。全長何メートルあるのだろう。

 三学年合計千人弱の生徒が通うあたしのサモル市第二高等学校の校舎と同じくらいの長さに見える。

 こないだ見たふもとのリュウの比じゃない。

 あっちだったら、まだかろうじてヒューマン族の剣でも斬ることができる気がする。

 でも、これはムリだ。


 地面に丸まったまま、頭だけこっちを見上げていた。

「さて、降りるよ。」

「旋回しながら、高度を落とす。

 ふり落とされないように気をつけて。

 あと、高度差による吐き気とか襲ってくる可能性があるが、五分だけ我慢すること。」

 老人ゾフが事務的に言った。


 ぐるぐると数度上空を回り、ゆっくりと滑空していく。

 高度を下げるにしたがい、激しい頭痛と嘔気に襲われる。

 火口近くに下りているからだろう、猛烈な暑さとのダブルパンチだ。


 正直、シャレにならん。

 ヤバい。


 意識が朦朧としてきた。

 今にも腕の力がぬけそうだ。


 ふっと意識がトンだ。

 瞬間、激しい衝撃を感じた。ふり落とされたかとカンチガイするほど。

 痛みはないから、ブジ着陸できた。

 あたしはフラフラとワイバーンから降りた。

 あいかわらず巨大なリュウは鎌首をもたげただけで、四人の訪問者を眺めていた。


 ズイっとスープとリドルが前に出た。

「とりあえず、そっちの娘っこがフラフラだぞ。少し、休憩したらどうだ。」

 リュウに気づかわれた。

 悔しいくらいに器もデカイ。

 あたしはお言葉に甘えて、その場にしゃがみこんだ。

「闘えるわけねぇ…」

 不安だの、怒りだのはどっかにふっとんだ。

 あたしは吐けない苦しみに、呻いた。


 二日酔いじゃないんだからさ…。


 火口の石壁はメチャメチャ熱い。

 でも、それを支えにしなければ立つこともままならなかった。

 リュウはものめずらしそうにそんなあたしを眺めている。

「ヒューマン族は人手不足なのか?

 どんなのがくるかと思えば、まったくの素人じゃないか。」

「わ、悪かったわね。」

 しゃべると内臓そのものを吐きそうだ。


 石壁から手をはなし、剣を杖がわりにあたしはムリヤリ足を進めた。

 ビッと人差し指をつきつけた。

「あたしはヴァルの仇討ちにきた。

 エルシア・エアルーンだ。

 リュウ族の王と言えど…ふぅ…

 あたしは容赦しない。」

 なんだか、B級なセリフしか出てこない。

 それでも剣を抜く。


 とりあえずはマジメな顔で、表情の変化が読めないから、マジメな口調で、リュウは答えた。

「ふむ。事情は理解した。

 で、残り三人の言い分は何だ。

 特に魔術師ズフィアラスズ。

 お前はドラコニアンと不干渉の契約を結んでいるはずだがな。」

「私は運転手だ。

 初めからこの争いごとに口を出すつもりはない。」

 ふん。鼻で笑った。


 リドルファは? と続けて問う。

「わたしたちはエルシアとともに戦うことにしたの。

 それとお前と争い傷ついた女の子のしかえしだ。」

「ほう。

 では、お前は私と敵対すると言うのだな?」

 声色が変わった。

 しかし、まだ怒りではない。

 いくぶん楽しんでいるような余裕を感じる。

 完全に向こうのペースだ。


 気にくわないな。


 ガタイでは勝てないぶん、せめて口では勝ちたい。

「ちょっと。

 あたしが名のったんだから、あなたも名のるのが道理でしょ。」

「なかなか度胸はあるようだ。

 そうだな。

 私の名前はクローベル。ドラゴンキングダムクロム王朝の王だ。

 ところで、お前らは私の敵であるヴァル王朝側のヒューマン族だと見なしてよいのかな?」

「上等!」

 宣戦布告のつもり。


 なんとかイニシアティブをとろうと苦心したんだけど、不敵に笑われた。

 笑い声で山が揺れた。

 あたしはまた恐怖する。

 そんなあたしの感情を知ってか否か、あたしの決意はあっさりと流された。

「ドラゴンスレイヤーが二本か。なかなかできのいい業物だ。

 ダレが作った?」

「わたしです。」

「ほう、お前は…」

「スパイア・ル・ガード。武器屋ル・ガード家本家の三女になります。」

 なるほどと大きく肯いていた。

 スープはぜんぜんビビってないようだ。


 あたしはよくわからなかった。

 なので、本音がでてしまう。

「ねぇ、スープってじつは偉いヒトだったの?」

 思わず訊いてしまったあたしを三人が見つめた。

 再びリュウが笑った。おなかをかかえて笑い転げるリュウの幻覚が見えてしまうくらいに。


 リュウは爆笑するんだ。なるほど。

 いや、いらない情報だよ、それ。


「本当に素人じゃないか。

 エアルーン家というのは初耳だが、ヒューマン族の中ではどんな家系なのだ?」

「ごく一般的な中流家庭。

 過去も現在も未来もフツウ。

 あたしはヴァルのことが大好きなフツウの女子高生。

 高校もフツウ科だから、このあと部屋に帰って数学の宿題をして、明日の予習をして、寝て起きるだけ。」

 正直に答えてやる言ってて虚しくなったけど、メッキで隠してもよけいに虚しいだけだ。

 虚しいついでだ。

 すべてをふっきってやる。

「家系がなんだ。なんか文句ある?」

 奇妙なはったりだったけど、今度は笑われなかった。


 じっと見つめられた。睨まれている感じはしない。

 不思議な物体をどう処理していいのかわからないといった目だ。

「ズフィアラスズのことも、竜族との契約も何も知らないようだな。

 リドルファのことは知っているのか?」

「隣のクソガキ。

 ついでにゾフはその爺さん。

 リュウ族との契約なんて知らんけど、こっちの陣地に先に入ったのはあんたのほうだよね?」

 みぞおちに力を込めた。

 大きく深呼吸をして、胸の動悸をムリヤリおさえこんだ。


 なるほどな、リュウオウはそう言って、空を見上げた。

「ヴァルディオンが余計なことを仕掛けなければ、私がヒューマン族に関わることはなかったのだがな。」

「ヒトのせいにするな。」

 あたしは問答無用に切り捨てた。

 あたりまえだ。

「娘の言うとおりだ。

 どうも私のほうが分が悪いようだ。

 どうせだ、ズフィアラスズも会話ぐらい混ざらんか?」

「遠慮する。

 ジェネレーションギャップでいつも会話が続かんからな。」

「天下の大魔法使いがか?

 それはまたおもしろいな。」

 とても楽しそうだ。


 楽しそう…ねぇ。


「ねぇ、あんたさ、ホントはここに独りぼっちで淋しいンじゃない?」

 あたしの言葉に全員が呆けた。

 リュウの笑い声をえんえんと聴かされた。

 正直耳がキーンとしてた。

 吠えたとしか思えなかったが、怒気をはらんでいなかったから、あれが笑い声だ。

 ってか、なぜ笑うんだ?

「本当にめずらしい娘だな。

 お前には恐怖はないのか?」

「怖いッスよ。」

 だから、ムリに軽口たたいてんじゃないか。


 ヴァルがあんなに怯えるような、ヴァルがどれほどのリュウ族なのか知らないけど、リュウだぞ。

 こんなデカいんだぞ。

 リュウオウどころか、自分のトコの王様にすら、市長にすら会ったことないんだぞ。


「もう、非日常にはマヒした。」

「私と戦いたいか?」

 問われたあたしはもちろん首を横にふった。

「話し合いで済むなら、そうしたいに決まってるでしょうが。

 通じンのか知らないけど。」

 でも、それはヒューマン族同士の話価値観やら感情表現の異なるリュウ族なら、ちがう展開になるかもしれない。

「そうか。

 では、試しに交渉してみようか。構わんか?」

 ぐるりと大きな頭を巡らせた。


 みんながあたしを見た。

「油断させて、炎をひと噴きってことないよね?」

 スープに小声で尋ねた。

「大丈夫と思います。

 逆鱗がまったく動いてません。

 少なくとも感情は落ち着いています。」

 同様に囁かれた。


 ソコが判断材料なのか。覚えておこう。


 あたしは大きく肯く。

 そして、剣を地面に置いて、その場に正座する。

 また、みんなが呆けた。

「あたしなりの礼儀。

 武器を置かずに話し合いは失礼だから。

 クローベル王、これであたしたちのイノチの保障はしていただけます?」


「驚いたな。

 モノを知らぬ小娘と思っていたが、いや、失礼。

 エルシアといったな。

 そなたをヒューマン族の代表として、私も礼を尽くそう。」

 クローベル王は、そう言って、身体をさらに丸めた。

 丸めたというより、爪と羽を身体に密着させ、むき出していた牙を収めたように見えた。

 話す口もそのまま火の息吹を使えば、自分の唇? が焼けてしまいそうなくらいの大きさしか開けていない。

 王も武器をしまったということだ。

 スープがあたしに習い、ゾフとリドルも座った。正座じゃないけど。

「では…」

 クローベル王が語りだす。


 主張は以下のとおり。

 クローベル王とヴァルの父親ヴァルディオスは、ドラゴンキングダムの上位王族として争った。

 それまで最高位についていたキーグ王朝を滅亡寸前まで追い詰めたのは、ヴァル王朝。

 そこで、キーグ王朝からの要請でクロム王朝が、ヴァル王朝の対抗勢力として立ち上がった。

 結果、ヴァル王朝のヴァルディオス王は、クローベル王に殺された。

 で、その息子であるヴァル、ヴァルディオン王子がヴァル王朝を継ぐ形で、クローベル王と戦った。

 そこは痛み分け。

 クローベル王は一度炎天山に身を隠し、ヴァルディオン王子がそれを追いかけてきた。

 炎天山には、王国が作った共通言語システムであるリュウがいたが、それを知らないクローベル王は居場所の確保と、体力回復のため、そのリュウを喰らった。

 それが理由で、ヒューマン族に狙われるが、クローベル王はここから動けないらしい。

 システムが王に移行してしまったためだ。

 対ヒューマン族との交渉は現状維持。

 話はそれで終わるかと思ったが、ヴァルの存在が決着を許さなかった。

 しつこくつけ狙うヴァルを追い払うために、クローベル王は部下をさし向けた。

 そのリュウがヴァルを傷つけたリュウというわけだ。


「わかったわ。

 王朝間の争いごとは関係ないし、他国に口出せる身分じゃない。

 あたしはもっとシンプルよ。

 ヴァルが死ななきゃいい。

 それだけ。」

 グダグダ言う気はない。

「クローベル王は、ヴァルがそっちに危害を加えなければ、みずから動く気はないですね?」

「そのつもりだ。

 しばらくはキングダムの争いも関わるつもりはない。」

「だったら、簡単です。

 ヴァルはあたしが言い聞かせます。

 約束します。

 だから、ヴァルの殺害を命じた兵隊さんをひいてください。」


 しばし、沈黙された。

 勝負はあたしへの信頼度。

 冷汗が滝のように流れた。

「エルシアを信じないわけではない。

 ただ、その依頼のすべては聞き入れられそうにない。」

「どうして!」

 思わず叫んでしまった。


 剣はとらないけど、そんな勢いになってしまって、もう一度深呼吸した。

「ヴァルがあなたに危害を加えると?」

「いや、そこはエルシアに任せよう。

 結果、ヴァルディオンが私を襲ってきたところでそれは裏切りにあたらない。」

「では、なぜ?」

「部下が下等すぎた。

 私の命できたはずなのだが、ヴァルディオンに傷つけられた恨みで動き始めた。

 私がここに封じられていることが原因かもしれない。

 部下の選別を誤ったらしい。」

 すまない。と頭を下げられた。

 まきおこる風が、あたしの髪の毛を揺らした。

「ここから動ければ直接粛清するのだが、残念ながらそれができない。

 部下もそれがわかってるからここに近寄ろうともしない。」


 クローベル王に戦う意思はない。

 しかし、戦いが続く。

 そういうことか。


「私が依頼しよう。

 エルシアがあの竜を殺せ。」

 なに語ってんの?

 一瞬、思考が完全に停止した。

「自分の部下殺害を王が依頼するの?

 いや、ナカマよね?」

「ヒューマン族の理屈で語るな。

 使えぬ部下を粛清するのは、竜王の役割だ。

 最近のヒューマン族は賢しらに平等を謳っているが、ドラゴン族にはそれは通じない。

 感情に支配され、自らを律することのできないような知能の低いドラゴンは殺されて当然なのだ。」

「知能で簡単に選別するの?」

 さすがに躊躇う。


「だからヒューマニズムとやらで語るな。

 ヒューマン族においては弱者として保護される存在でも、ドラゴンにとって知能が低いことは悪だ。」

「知能の個人差は弱者でも、保護されるための判断材料じゃない悪でもない。

 差別しないでよ。」

「熱くなるな。

 エルシアの主張と私の主張の違いは、あくまで種族としての見解の違いだ。」

 きっと苦笑しているのだろう。


 種族の差で納得できないのは、あたしが頭悪いからなのか?


「激情に囚われたリュウはヒトを襲う。

 リザードマンやドラグーンといった中型ドラコニアンなら、ヒューマン族でも対抗できるかもしれないが、私と同等の竜族が他の種族を襲い出したらどうするんだ。

 時には、知能が低いフリをして東の大平原のケンタウロス族やホビット族を喰い荒らすドラゴンだっているのだ。

 正直なことを言ってしまえば、竜王は竜族には必要ないのだ。

 勝手に生きて、勝手に闘い、勝手に死んだってそれは個人の力量の問題だ。

 竜王は他種族との共存のためにいる。」

「でも…」

「ドラコニアンに仲間という考え方は存在しなかった。

 教えてくれたのはヒューマン族だ。

 竜族にとって仲間というのは、弱者に対する嘲りと同時に羨望でもある。

 なんにせよ、部下の粛清を依頼するのは、竜王としての責任だ。」


 孤高であることは厳格だ。

 他者に依存しない代わりに、他者を排除する。

 王とはなんと淋しい存在だろう。


 なんでか、クラスメイトを思いだしていた。

 数ヶ月前のあたしも。新リーダーの女の子も。隣のスープも。


 孤高であるということは、強いけど、淋しい。


「あたしはそれでもヴァルを襲わないように話します。

 クローベル王の思いもきちんと伝えたうえで。

 なんだったら、王の下へ行くように説得します。」

「そうか。

 やり方は任せるよ。」

 力の抜けた声は、諦めだろうか、呆れだろうか。


 だから、あたしはもう一つ宣言した。

「決着がついたら、王に報告しにきます。

 ヴァルを、ヴァルディオン王子を連れてきます。

 ゼッタイ!」



   街にて


「あ、戻ってきたみたい。」

 四人を乗せたワイバーンが数度空中を旋回し、アパートのほうへ下りてきた。

 ヒューマン族の街は大混乱だった。

 ワイバーンレベルの小型のドラコニアンとはいえ、『空想動物図鑑』でしか見たことのないリュウが姿を現したのだから、まぁ、当然だろう。

 行きは市壁を出てから随分先でワイバーンを呼んだ。

 だから、まったく噂にもならなかった。

 しかし、カノジョらが帰ってきてからは、街中が落ち着かない。

 混乱に乗じてヤツが何かしらちょっかいを出してくるかと思ったが、そちらはしずかなものだった。


「市長さん、また来たよぉ。

 メンドい。

 あたしは知らんって。」

 カノジョは学校から帰ってくるなり、ボヤいた。


 炎天山から帰ってきた彼らは、竜熱の発症を見越して、全員日常生活に戻っていった。

 戦闘中竜熱を発症したらことだ。

 一応対策はしていたが、潜伏期間を見たほうがいいだろうとの判断だった。

 俺のことは、上層部しか知らない。

 市長、光明神官市部長、警邏市部長、市防衛軍長官といったメンバーらしい。


「校長先生もワタワタしてる。

 円い体がコロコロって転がってるみたい。」

「ヒューマン族の階級制度はよくわからないからだが、苦労してるんだな。

 あまりムリをするなよ。」

 カノジョがまた俺に抱きついてくる。

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