彼女の声が、彼に届くことはもうない
『拝啓
キミのことが大好きだ
いきなりの手紙でごめんね
でも僕は本気だ
いつでもキミのことを考えてしまう
気がついたら目で追っていた
でもいつもキミは意地っ張りで
僕は毎日振られています
まあそんなキミのことを
僕は好きなんだけどね
キミはよく僕に
「少しは人の話を聞きなさいよ、このバカっ!」
と言いますよね
僕は、そんなバカという言葉が好きです
あ、別にふざけてませんよ?
ちょっとMなだけだから
たとえば別に好きな人がいて
キミが僕のもとを離れていっても
僕のこの想いが
たとえキミに届かなくても
最後までキミを好きでいてもいいですか?
こんなくだらない文面を見てくれてありがとう。
お返事待ってます』
手紙を受け取った彼女の手の中で、手紙がクシャリと音をたてた。
小刻みに震える手を、彼女は胸の前まで持ってきて止めようとする。
しかし、その動きを笑うかのように小さな雫がポタポタと、彼女の震える手におちた。
一定のリズムを保っている機械音の部屋で、彼女は崩れ落ちる。
音もなく泣く彼女に、声をかける者は誰もいない。
「返事…まだ、言ってないじゃない……」
白いベッドの上で、安らかに眠っている彼。
その顔は、まるで幸福に満ち溢れているような優しい顔だった。
「私だって、あんたのこと…」
その言葉を遮るように、ビーっという無機質な音が部屋に鳴り響いた。
まだ暖かい手を握りながら、彼女は呟く。
「少しは人の話を聞きなさいよ…。バカ…ッ」
彼女の声が、彼に届くことはもうない。