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白滝昆布大根!

《どうでもいい連絡》

=ダンボール星人との戦闘は以下略されました=

 第二話:白滝昆布大根!


「見知らぬ、天井」

真っ白な天井に、太流は思わずとあるアニメの二話のサブタイトルをつぶやいた、思えば最初にあのアニメを見たときはあの主人公より年下だった自分が、いまではあの主人公の二倍も生きていると思うと笑えてくる、自分の人生の脇役っぷりに。

それにしても真っ白で何も無い部屋だ、ここは病院だろうか?

点滴が腕に刺さったままなので迂闊に動くわけにもいかない。

太流がどうすればいいかと内心慌てふためいているうちに、コツコツと音が聞こえる、廊下から誰かが歩いてきたようだ。

「肥田太流さん、気がつきましたか?脈拍が上がってる様なので調べにきました。痛いところはありませんか?」

ドアの外から女性の声、太流は一瞬動揺したが、大丈夫です、と答えた。

部屋のドアが開き、女性が入ってくる、その女性は身長160センチ程、美しい黒のロングヘアー、綺麗な輪郭に整った目、鼻、口、不細工要素などどこにも無い完璧な美人がそこには立っていた、可愛い。

「どうも、レンジャーピンクの川井由香です、よろしくお願いします。」

「レンジャーピンク...?どういうことだ?夢を見ているのか...?」

太流は目の前の女性の言っている事が理解できなかった。

「詳しい説明はレッド...厚井さんがしてくれます、ブリーフィングルームに向かいましょう。」

「は、はぁ。」

太流は点滴の針を外され、言われるがままにスリッパを履き、レンジャーピンクと名乗った川井について病室を出る。

低い天井と青白い蛍光灯の続く一本の長い通路、窓は無い、こういった通路を歩いていると天井が迫ってくるかのような恐怖を感じる。

川井に色々と質問したい所だが、何て声をかければいいのかわからない、変な事を言って頭のおかしい豚と思われないだろうか...

なんて事を考えているうちに目的地についてしまったようだ。

「ここがブリーフィングルームです、どうぞ。」

突き当たりのドアを川井が開ける、太流はすいませんと言い部屋に入った。

さっきまでの通路とは一変、天井の高い部屋、奥の白い長机の先には厚井が白いシンプルな椅子に座っていた。

「起きたか肥田。」

太流は今目の前で起きていることが理解できていなかった、ダンボールに襲われてから先の記憶が無い、あれが本当のことだったのかもわからない、もしかしたら自分は精神をおかしくして幻覚を見ていたのか?それとも夢だったのか?太流が何から質問しようかと考えていると、様子を察した厚井が口を開いた。

「君が一昨日戦った敵はどういうことかダンボールが自我を持ち、突然世界征服を夢見た例だ、このタイプは初めてじゃない、前にもこのようなパターンが一度だけあった、恐らくどっかの科学者の仕業で宇宙人ではないだろう、君が寝ている間に目撃者から話を聞かせてもらった、君は通行人達が襲われているところで怪物の前に出て体を張って戦ってたそうじゃないか。」

「戦ったといえば...戦ったってことになるのか...?」

ただ目が合って絡まれてしまっただけだが、とても好意的な解釈ありがとうございます。

「あぁ、実際君は見事にダンボール星人と名乗る怪人の”第一形態”を生身で倒した。」

「第一形態?第二形態とかがあるっていうのか?」

「”普段は”そんな感じだな、大抵の怪物は第二形態で大きくなったり、素早くなったり、形状が変わったりする、一昨日のはただ大きくなっただけで、そこまで強くはなかった、なにより瀕死だったしな。」

「普段はって...前にそんな怪物が出たなんてニュースはなかったぞ。」

ブリーフィングルームのドアが開く音がした、部屋の中にいた三人が皆一斉にドアの方を見る。ブルーの戦隊ヒーローのようなスーツを着て、ヘルメットを被った男と、身長の低い男が部屋に入ってくる。

身長の低い男が太流を見つけて話しかけてくる。

「もしかして新人さん?僕は影野薄男、レンジャーグリーンをやってる、これからよろしくね。」

い、いや、まだ、仲間になるとは決まってはいないけど...

とは言えずに、影野に一言挨拶をし、握手をした。

「影野、そいつが仲間になるとはまだ決まってないんだ、それくらいわかるだろ、新人候補、俺達が一体どんな組織なのか知っているのか?」

影野と一緒に入ってきたブルーの男が話しかけてくる、とりあえずブルーが怪しい人っていうのはわかった。

「い、いえ、全然知らないです。」

「なら説明しよう、俺達は国が秘密裏に結成した対怪人用組織、警察は武装した人間までを相手にするが、俺達が相手にするのはそれ以上だ。俺はそんな組織でレンジャーブルーをやっている砂土だ、馴れ合うつもりはない。」

まさにブルーって感じのする冷血漢だ、なんとなく踏み入れてはいけない領域に足を踏み入れてしまったということもわかった。

「強化スーツを着ているとはいえ、常に死と隣り合わせで、周りの人間達はそれを知らない、全壊した町も次の日には直り、事件を目撃した人たちの記憶は消される、愛する人にもその事実を伝えられなければ、自分が殉職しても本当の死因はだれも知ることはない、俺達は”孤独”の職業だ」

おもむろに厚井が語りだす。

「お前には己の一生を偽り続ける覚悟があるか?」

今の厚井の顔はマジの時の顔だ、中学時代、先生に『マジで腹が痛い』と訴えた時の彼の顔もこんな感じだった。

3分ほど沈黙が続き、太流が質問した

「最後に一つだけ、質問させてくれ。」

「あぁ、答えよう。」

厚井が真剣な顔でこちらに向きなおす。

「月収は?」

「120万くらいかな。」

「やります。」

「やった!これからよろしくお願いしますね、肥田さん!」

川井さんが喜んでる姿を見ると、なんだか自分もうれしくなる。

あぁ、これが一目惚れか。

晴れて肥田太流は戦隊レンジャーの一員になった。

「これからレンジャーイエローとしてがんばってもらう、これが君の変身アイテムだ。」

厚井から変身アイテムを手渡された太流、しかし手渡されたそれはただのスマートフォンにしか見えない。

「その携帯を持っている時に、心の中でも、口でもいい、変身と叫べばスーツに着替えられる、一瞬だから裸を見られる心配はないぞ。」

しかし太流は変身のしかたなんかより、川井さんのことで頭がいっぱいだった。

「そうだ、肥田君の歓迎パーティしようよ。」

影野が言う。

「下らない、俺は降りさせて貰うぜ。」

そう言って砂土は部屋から出て行った。

「じゃあお鍋でもしましょうか!冷蔵庫に材料があるんでとってきます!」

川井も部屋から出る。

「な、なかなか個性的な場所だね。」

太流は目の前で起こっている状況についていけていなかった。

「皆死と隣り合わせだからな、楽しめるときは存分に楽しみたいんだよ。」

厚井が神妙な顔で言う、給料に惹かれてサクッと入隊を決心したのはいけなかったか...とは思ったが、あのまま部屋で引きこもっているより数百倍はマシだ。

「お鍋持って来ましたよー!」

川井が空の鍋だけを持って帰ってきた。

「具材はどうした?」

厚井が呆れた顔で尋ねた。

川井はハッとなってまた部屋から小走りで出て行った、可愛い。

太流はこういうのも悪くないな、と思っていた。


ヴーッ!ヴーッ!ヴーッ!!

部屋の中に警報のような音が鳴り響く。

「各員出動準備を、浜松町に怪物が現れました!」

館内に女性の声が響く。

「おでましだ、歓迎パーティはまた今度だな。」

厚井が言い終わる頃には影野が半透明になって、消えていた。

「肥田、デバイスのホーム画面の転送のアプリを起動するんだ、そのアプリなら山手線の駅付近にならどこでも転送してくれる、俺は先に行くからな、今日は見てるだけでもいい、戦いの空気を覚えるんだ。」

厚井が影野と同じように半透明になり、消えた。

「肥田さん、大丈夫です、壁にのめり込んだり人の家の中に転送されるなんてことは減りましたから、怖くないですよ。」

そう言って野菜と肉を持った川井も消えていった。

「減ったって...少なからずあるのかよ...」

太流は自分のスマートフォンを見つめる。電源ボタンを押すと待ち受け画面には四つのソフトが浮いていた。

「武器とマップと転送と消去...なんだか随分と簡素な表示してるな...」

太流はさっき厚井に言われたとおりに転送をタップし、29個表示されたリストから浜松町を選択した。

途端に風景はさっきまでの殺風景な部屋とは変わり、目の前には灰色のビル群、赤い東京タワー、そして太流の向いている方向とは逆側に走り去る群衆、太流は余りの勢いに目を瞑った。

「おいおい日本は右側通行だぞ。」

「残念ながら今は一方通行だね。」

いつの間にか後ろにいた影野が話しかけてくる。

「太流君も早めに変身しといた方がいいよ、怪物と戦う以前に守るべき人たちに潰されて死んでしまったら元も子もないからね。」

太流は腕にぶつかられすぎて明日は体中アザだらけなのは確定だと思った。

「...変身」

太流はつふやいた、しかし何も変化は起きない。

「ボソッとつぶやいただけじゃ変身できないよ、心の中でも口でも、とりあえず叫ばなきゃ、それに、怪物も見えてきたし早く変身しないと危険だ。」

そうは言っても、心の中でも口でも、変身と叫ぶにはちょっと抵抗がある、心の準備が必要だ。

そんなことを考えている内に、太流の20メートル先には縦に3メートル程の大きさの楕円の鏡が浮いている、その近くにもう既に変身している厚井と川井が見える。

「フハハハハハハ!!鏡に反射した太陽光が眩しくて手も足も出ないだろう!!!地球は私の物だァァァ!!」

そう叫んだ鏡がくるくると回り出す。

「うおまぶし」

チラチラと光が反射して目がハッキリ見えない、視界が紫色ににじんでいる、不快だ。

「それで、手も足も無いお前は何をするんだ?」

赤い衣装で身を包んだ厚井が腕を組みながら冷静な口調で言う。

「何ィ!?私のシャイニングスカイ・アイ・ブレイクが効かない人間がいるだとぉ!?」

ヘルメットのバインダーがサングラスのようになってるから当然だとは思うが、というよりもこれに技名つけちゃうってどうなの、ただの目潰しじゃないですか。

「あぁ、全く効かないね、くらえ!バーニング...えーと...フィストォ!!」

そう叫びながら鏡に飛び掛った厚井、その右手から放たれるただの正拳突き、相手の鏡面が派手に割れて、その破片が周囲に飛び散る。

太流の20メートル先で繰り広げられる痛い戦い、パラパラと舞う鏡の破片を眺めながら太流は今頃になってヤバいところに入ってしまったと後悔した。

「厚井、お疲れ。」

太流は厚井に歩みよる、しかし厚井は手で止まれの合図をした。

「いや、まだ終わってない、少し待ってろ。」

しばらくして、鏡だったものはキィィ、キィィ、という、奇声というよりも、金属の擦れ合うような音を発しながらゆっくりと起き上がり、上空でクルクルと回る。

町の木々が風で揺れ、空は雲で覆われ、雷の音が鳴り響く。

まるでこの時を待ってたかのように、青空が灰色で覆われていく。

これなら光は反射しないな、なんて思っていると、空は灰色が覆い尽し、鏡だった物は、元の姿を取り戻しまた鏡に戻り、そして段々と大きくなってゆく。

「私を怒らせておきながら、もはや成す術無しとは、愚かなり人間共よ。」

目の前に浮いているそれは、今や500メートル程の大きさになり、その影は町全体を覆い隠した。

「ようやく本番か?今度は楽しませてくれよ。」

「手も足も出ない愚か者共が、よく吼えるな。」

「手も足も無いお前が言うな。」

瓦礫の山になった町の中で、巨大な怪物に向かって走っていく厚井達を見て太流は少し前の事を思い出した。

「やっぱりあれは、夢じゃなかったんだな。」

太流はただ一人、目の前で起こっていることを見つめながら立ち尽くしているしかなかった。




「いやー、まさか巨大化した後、北風で倒れて東京タワーに突き刺さるなんてなぁ。」

厚井がヘルメットを外しながら言う。

「今回はマヌケな怪物だったわね、はいお茶、太郎君もどうぞ。」

川井が太流にお茶を差し出す、太流は一言お礼を言い、それを受け取った。

結局今回、太流は変身しないまま基地に帰ってきてしまった。

「どうだ肥田、今回の敵は弱かったが、次はどんな敵が来るかわからない、今回の戦いを見て気を緩めるなよ。」

お前が言うな万年厨二病、と言いたくなるのを我慢して太流は黙って頷いた。

「さてと、怪物も退治したし、早速鍋パーティ、始めましょ!」

目の前の白い長机の中心には大きな電気土鍋が設置されている。

鍋の中にはぐつぐつと煮えたしいたけと白滝と白菜豆腐、そして肉。

手元には生卵と取り皿。

これは、すき焼き。

ああすき焼きだ、食欲を誘うしょうゆベースのタレから成る香ばしい匂い。

川井が菜箸で赤身に程よく脂の乗った薄切りの牛肉達を鍋の中に入れてゆく。

川井さん、あなたも牛肉も輝いて見えます。

太流はそう言いかけてやめた。


「なんだかんだ、楽しいだろ?」

厚井が言う。

「あぁ、なんだかんだ、楽しいわ。」

太流はアツアツの白菜を頬張った。


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