デブオタク!勃つ
このお話は学生のガキが戦隊モノ書きたいっていう思いつきで始めたもので、文章が荒いのは仕様です。
分かりにくいところなどがあれば教えていただけると幸いです。
第一話:デブオタク!勃つ
9月某日、土曜日の夕方。
カーテンを閉め、真っ暗な部屋の端、パソコンの前に座りポテチを貪りながらキーボードを叩く豚のような男は、高校を卒業してから大学受験に敗れ、それからずっと八年間ひきこもったきり部屋から出たことがないどうしようもないごくつぶし、肥田太流である。
読み方はこえだ たろう、こえた ふとるではない。
滅多に鳴ることのない携帯が鳴った、常にマナーモードにしてあるため、携帯は小刻みに震えるだけである。
「厚井からメールが来てる...知り合いからメールが来るのは何年ぶりだ?」
厚井寛治は太流の小学校からの友人で中学校まで同じ学校だったが高校は別々になり、連絡する事も少なくなった、今は銀行のスーパーバイザーをしているらしい。
「よう肥田、元気か?久しぶりに会って話しでもしないか?少し見せたいものもあるんだ。突然だけど、明日とか空いてるだろうか?場所は秋葉原の...」
「どうしたんだこいつは...突然会って話そうだなんて...」
厚井はなんにでも熱く、近年稀に見る正義漢だ、イケメンでスポーツも勉強もできてモテる要素でうめ尽くされているが、モテない。
何故ならオタクだからだ、さらに俺とつるんでいたからだ、そりゃモテるハズもない。まぁ、高校からはきっとモテてたんだろうな。
どちらにせよやる事なんて何もないからな。
そんな事を思いながら太流は二つ返事でOKをした。
その時、部屋のドアがノックされる。
階段を上ってくる音に気がつかなかった太流の肩は、ビクッと跳ね上がる。
太流は返事をせず、物音を立てないようにして外の音に集中した、ノックの主が階段を下りていく音を確認してからドアを開けた、今日はカレーだ。
カレーは太流の大好物だ、半年変えてないTシャツはカレーのシミで黄色く染まっていた。
「いつまでも親に頼ってるわけにはいかないよな...親もいつ死ぬかわからないし...」
太流はカレーを貪りながら考える、
「でも、甘えちゃうんだよな。」
太流は空のカレーの皿を静かに廊下に置き、パソコンをつけたまま、敷きっぱなしの敷布団の上にその脂肪だらけの巨体を倒した。
太流は子供の頃の夢を見た、まだ希望に満ち溢れていた、小学校の頃の夢だった。
舞台は小学校の頃よく父と一緒に行った公園だった。
「太流、将来の夢はあるのか?」
父が笑顔で太流に問いかける
「パパ!ぼくはかいぶつから地球のききを救う戦隊ヒーローになる!!ゴーレッドになるの!!」
世の中を知らない太流は元気に語った、この頃の自分は目が輝いていた...
「ははっ、それはいい夢だ、なれるといいな、ヒーロー。」
父は笑顔のまま言った。
「その時はパパが博士で、ぼくらの武器をつくるんだからね!」
父は科学者をやっていた、何の研究をしてたのかは太流は知らない、母親は父について語ろうとはしなかった、だから自分から聞くことは無くなった。
「そうだなぁ、パパもお前らの武器を作れるように努力しなきゃなぁ、よし、太流、キャッチボールするぞ!」
父は苦い顔をして、ボールとグローブを持って立ち上がった。
やめろ...それ以上見せるな...
「あっ、ボールが道路に!」
やめろっ...!!
「太流!危ない!!」
やめろおおおおおおおおおお!!!
「はっ...夢か...」
しかし太流の脳裏にはハッキリと残っている、走り去っていった白いバン、足元にまで及ぶ赤い池、その池に沈むのは変わり果てた父親。
恐らく即死だった、恐らくというのは、その後父が搬送された病院で大きな火事があり、病院は全焼、太流は父親の死体を確認してはいないのだ。
すっかり辺りは日が昇り、鳥が鳴いていた。
「そうだ、厚井に会いに行かないと。」
悪夢を見て背中が汗びっしょりだ、太流は半年振りにシャワーを浴びた。
-秋葉原
太流は待ち合わせのファストフード店の前で、白いTシャツに七分丈という夏のような格好で厚井を待っていた。
もう九月だというのに一向に気温が下がる気配は無い、さらに湿気も半端じゃない、不快要素のオンパレードだ。
「肥田、久しぶり!また少し太ったか?少しは運動しろよ。」
厚井は昔と変わらない欠けた前歯にいい笑顔、それに対する自分は昔と変わらない曲がったメガネに不器用な笑顔だ。
彼はシワ一つ無いシャツに高そうなスーツを身にまとい、無邪気な笑顔をこちらに向けてくる。
やめろ、そんな純粋な目で僕を見るんじゃない。
「余計なお世話だ、早く店に入るぞ。」
太流はさっと目をそらして店の中に入って行く。
厚井はへいへいと言いながら太流の後をついて行った。
ここはカウンターで注文、支払いをして、お持ち帰りかそこで食べるかを決める一般的なファストフード店だ。
自分はチーズバーガーとチキンナゲットとコーラのLサイズを頼んだ、これで五百円だ。
次は厚井が注文する番だが、厚井にはこのタイプの店は向いてない。
最初に厚井は控えめにナゲットだけを頼んだ。
「ご一緒にポテトは如何ですか?」
店員のお姉さんの声だ。
「あ、じゃ、じゃあお願いします。」
厚井が答える。
「今ならドリンクのLサイズが20円引きになっていますよ。」
「じゃ、じゃあそれも...」
「さらに今週末までの限定ウルトラビッグバーガーもご一緒にいかがですか?」
「お、お願いします。」
彼は他人から頼まれた事は断れない、世界一のイエスマンだ。
これをいいことに友人に騙された、なんてことはない。
彼を騙そうものなら、世界一の罪悪感が一生自分に付きまとうからだ。
彼は馬鹿を見ない正直者だ、他人への嫉妬と悪口を糧に生きている自分とは大違いだ。
しかし見ず知らずのカウンターのお姉ちゃんからは一人の客としか見られてはいない、1、2分で済むハズの注文は5分にも及んでいた。
彼女からすれば厚井はいいカモだ。
厚井の伝票にはサラダやアップルパイ、アイスクリームから色々な物が追加されていた。
「おいおい、ファストフード店で2000円も使うやつなんて始めて見たぞ。」
トレーに盛られた巨大なハンバーガーと巨大な紙コップ、一見アメリカ人が来たのかと思った程だ。
「昔から頼まれると断れなくてね。」
厚井は苦笑いで言った、また彼の欠けた前歯が覗く。
彼の前歯が欠けた原因の半分は僕による物だ、彼が笑うたびに昔を思い出す。
あれは中学三年生の頃だ。
「ちょっと俺トイレ行ってくるわ。」
厚井は昔からお腹が弱い、週に一回は下校前になるとトイレに行く。
「おう、待ってるよ。」
厚井がトイレに入ると、校門の近くから四人の男達がこちらに向かってきた。
「お前、肥田だよな?ちょっと体育館裏まで来い。」
初めて話しかけられる四人グループ、万引きや恐喝を日ごろ繰り返してるともっぱらの噂の不良グループだ、太流はただついていくことしかできなかった。
「おいブタ、お前ブタの癖に厚井とつるんでんじゃねーよ、厚井は俺らのダチだからよ、お前が近くでウロチョロしてると目障りなんだよ。」
目の前に立つリーダーのような男が自分に言う、そいつが首をクイッと傾けると、他の三人が太流の体を押さえつける。
「おら『もう二度と厚井君には近づきません』って言ってみろぉ!!」
そう言ってリーダー格の男が太流の腹を蹴り上げる、込み上げる胃酸、逃げようとしても、三人に体をおさえられ、身動きがとれない、恐怖で、言葉が、出ない。
「黙ってんならお前を殺す、ちゃんと言えば半殺しで勘弁してやる、どっちか選べ。」
リーダー格の男が太流の胸倉を掴み、反対の手でポケットから折りたたみ式のナイフを取り出し、そのナイフを10センチ、5センチと太流に近づけてくる。
「やっ、やめろ!!やめろ!!!」
そう言おうとしたが、喉から息が漏れるだけで、言葉にはならない、下半身が濡れている、漏らしてしまったようだ。
このまま一生を終えるんだろうか...
太流はこれまでの人生を走馬灯のように見ていた、目の前の男は最早意識に無く、一つの背景のように見えていた。
しかし、走馬灯は途中で終わり、目の前の背景は現実に変わる、それと同時にドンッという鈍い音が聞こえた。太流の束縛を解いた三人が目の前に現れた男に襲いかかる、だが、その三人も一分ほどでくずれ落ちた。
「肥田、大丈夫か?」
厚井が綺麗にそろった前歯を見せ、笑う。
自分は、声が出ない、しかし厚井の後ろに何か動くものを見つけ、叫んだ。
「厚井!!危ないっ!!」
次の瞬間左を向いた厚井の顔面目掛けて金属バットがぶち当たる、今、目の前に立っているのはさっきのリーダー格の男だ。
心臓が爆発する、心臓がエンジンのようにドンドンと音を立てる、全身に血を送っている、太流は無表情のまま手元に落ちていたバールのような物を手に取り、リーダー格の男を思い切り殴りつけた。
その一撃でリーダー格の男の鼻は折れ、それは血だらけで地面にうつぶせに倒れた。
太流も体の力が抜けて、地面に尻をついた。
それと同時に厚井が起き上がり、驚いた顔をする。
「お前、やる時はやるんだな!」
厚井と太流は二人して笑った、この時、厚井の前歯は欠けていた。
「おい太流、聞いてるのか?」
厚井が欠けた前歯を見せながらこちらを見る。
「あぁ、すまんちょっと昔の事を思い出してな。」
厚井が熱心に最近のアニメについて語っていたのだが、思い出に耽っていて全然聞いていなかった。
「そうか、ちょっとドリンク大きすぎたから残り飲んでくれないか?」
まだ四分の一も飲んでないLサイズのコーラをこちらに差し出す、こっちもLサイズのコーラをようやく飲み終えたところなんだがな...
「あぁ、わかった、飲むよ、それより最近どうなんだ?仕事の方は順調なのか?」
「あぁ、その事なんだが、お前は今、何か仕事をしてるのか?」
さっきまでアニメを語ってた時とは目つきが違う。
「なんだ、俺を説教する気か?高卒でこの歳になるとどこも雇っちゃくれないんだよ、ネットとかで探してはいるんだけどな。」
厚井が少し下を見て、こちらに向きなおす。
「それでなんだが、実は...」
実は、まで言いかけたところで厚井のお腹がギュルギュルと音を上げる。
「ち、ちょっとトイレ行ってくるわ...」
厚井はお腹を抱えてトイレまで小走りで向かった。
厚井は何を伝えたかったのだろう、働き口を見つけてくれたところで、いままで仕事をした経験のない僕にはハード過ぎる。
恐らく今の自分は厚井以外とちゃんとした会話をすることができない、極度の人見知り、8年間も引きこもっていたんだ、ネット上でたまに話をしていた厚井とでさえ会話するのも少し怖いくらいだ。
典型的な対人恐怖症、肥田は先の件もあり、コミュニティー障害になっていた。
そうこうしているうちに一人で厚井の分のコーラも飲み干してしまった、外出するのは久々で、一人になると周囲の目が痛い、周りの人間はまるで養豚場の豚、または刑務所の中の囚人でも見るかのような目をこちらに向けてくる、女子高生達がクスクスと笑っていると自分の事を笑っているのかもしれないと、被害妄想が膨らみ、自然に背筋が丸まっていく。
ツイッターを更新するためにしか使っていない携帯を見る。太流の携帯は今時珍しい折り畳み式のガラパゴスケータイ、所謂ガラケーだ。ただ、何かする訳でもなく、待ち受け画面の時計の秒針が動くのを、黙って眺めているだけだった。
ここにきてからもう三時間が経つ、楽しい時間っていうのは早いものだ。
「逆に、つまらない時間はとても、長い。」
太流は頬杖をつきながら、携帯をパタンと閉じた。
そんな事をしていると外から悲鳴が聞こえる、最初は若い子達がはしゃいでいるのかと思い、気にしなかったが、どうも様子がおかしい、悲鳴はどんどん増え、近づいてくる。
太流は荷物を席に置いたまま、店から勢いよく飛び出す、目の前の大通りでは、高さ5mほどの茶色く角ばった箱に手足の生えた物体が暴れている。
「ガハハハハハハ!!私はダンボール星から来た破壊の戦士!ダンボール星人だ!!今日から地球は我々の物だ!!!」
ダンボール星人と名乗る一頭身ダンボールが叫ぶ、ダンボール星人がこちらに振り向くと、太流と目が合ってしまった。
「おいお前!今俺様の姿を見て笑ったな!!一頭身と笑ったな!!!謝れ!!」
とんだとばっちりを受けた、謝る以前に恐怖で喋れない、ダンボール星人が腰を抜かした人々を踏み潰しながらこっちに近づいてくる。周囲は赤黒く染まっていた。
「黙ってんならお前を殺す、ちゃんと謝れば半殺しで勘弁してやる、どっちか選べ!」
そう言ってダンボール星人は太流を鷲づかみにした。
ダンボール星人の握力は太流に大抵計り知れるものではなかった、脂肪で覆われている120キロの肉体がミシミシと軋む。
このセリフ、どこかで聞き覚えがある、なんて考えている暇もなく、120キロの体が宙に浮く、ダンボール星人が太流を掴んだ右腕を上に振り上げたのだ。
昔の厚井の言葉が脳裏に駆け巡る。
《お前、やる時はやるんだな!》
さすがに今は無理だ、"あの時"みたいに武器も無い。
あぁ、所詮自分は一般人だ、ヒーローに助けられることも無く、悪に見せしめのために殺される、そんな役割だ。
まぁ、クズの自分にはぴったりの死に様かもしれない。
そんな事よりさっき大量にコーラを飲んだせいと、今の恐怖で尿意が抑えられない、豪快に小便を漏らしてしまった。
あぁ、醜い死に様だ、とうちゃん、かぁちゃん、ごめんな。
あぁ、小便が止まらない。
次の瞬間、太流の体は地面に叩きつけられた。
厚井はトイレから出て、店内の雰囲気がさっきとは明らかに違うということに気がついた。
「おいお前!今俺様の姿を見て笑ったな!!一頭身と笑ったな!!!謝れ!!」
外からヘリウムガスを吸ったような男の叫び声のようなものが聞こえる、店内に肥田の姿が無い、荷物は席に残されたままだ。
厚井はまさかと思い、店内から勢い良く飛び出した。
眼前には、5メートル程の四角い箱に手足が生えた物体がいた。
そして右手で肥田を握り締めている、肥田は無表情で、そこに意識は無いような感じだった。
「黙ってんならお前を殺す、ちゃんと謝れば半殺しで勘弁してやる、どっちか選べ!」
巨大な箱が叫ぶ、振り上げられる右腕と肥田、厚井は飛び出そうとしたが、その必要は無かった。
突如変色する巨大な箱の肥田を掴んだ右手の指。
「お、お前、一体何を!!」
巨大な箱が叫ぶ、そして右手の指が崩れ、そのまま肥田は巨大な箱の上に降り注ぎ、それをペシャンコに潰してしまった。
「な、なんてこった、あいつ怪物を生身で倒しちまった...」
一部始終を見ていた一般人達の歓声が沸きあがる、しかしそれも束の間、巨大な箱はゆっくりと起き上がり、どんどんと巨大化して行く、元から5メートルあった巨体が、瞬く間に100メートル超えの巨大になっていた。
厚井は箱が起き上がるときに落としていった肥田を背中に抱え、ポケットから携帯を取り出す。
「やっぱり俺らが出ないと駄目だな、砂土、仕事だぞ。」
厚井はファストフードの店内に気絶した肥田を置き、街に振り返る。
彼の持つタッチ式の携帯の画面には、変身の二文字がはっきりとした明朝体で表示されていた。
厚井はいつの間にか赤いフルフェイスのヘルメットを着け、赤い衣装を身に纏い、赤いマントを靡かせて、瓦礫の山と化した秋葉原の街を、巨大な茶色い箱に向かって真っ直ぐと走り出した。
次回、「白滝昆布大根!」
次回更新予定は 03/16/13 21:00!
お楽しみに!