2
「デウス!何をしているの!?」
いつ戻ってきたのか、ヘヴンさんがリビングの入り口に立っていた。大きなコンビニのレジ袋を床に投げ捨てて、俺に突進してくる。
「うえっ!?」
突然のことだったので何の対策もとれず、彼女の肘が振り向いた俺のみぞおちに綺麗に決まった。俺はそのまま二歩後退し、何とか体勢を整えようとしていたところに、今度はがっしりと抱きしめられてしまった。
「え!?」
「ヘヴン殿!?」
ヘヴンさんは慌てる俺たちを完全に無視して、涙をたたえ俺を見上げた。彼女は思っていたよりも背が小さかった。
「ごめんねデウス、心配させちゃったのね。彼を敵だと思って攻撃してしまったのも、私が何も説明していなかったからだわ。ごめんなさい。でも彼は違うの、この戦いに必要な戦力だと思ったから呼んだだけよ。私が別の男に心を許したこと、あなたは受け入れてくれないかもしれない。でも私の心はデウス、いつでもあなたのものよ」
ヘヴンさんはゆっくりと目を閉じる。表面張力でギリギリ保たれていた涙が押し出され、長い睫毛を伝って頬に落ちる。少し赤らんだ頬の上を涙は、水滴の形を崩さずに滑り落ちていった。
演技でも、ここまで出来るのはすごいと思う。俺は素直に感心した。
「そんな目で見ないで、違うのよ。あなたの力を信じていないわけじゃないの。ただ、向こうは組織だし、仲間は出来るだけ多い方がいいと思って……。そりゃあサムライさんの力は少し頼りないけれど、あなたを彼より下に見たつもりはないの。信じて頂戴、私のかわいいデウス……」
俺の視界の端で、鳥羽がショックを受けていた。俺はヘヴンさんを引きはがすと、鳥羽に手を差し伸べた。
「俺は1年3組の品川圭。よろしくな」
「せっ、いや、僕は……1組の鳥羽正次……で……ござる……」
鳥羽はヘヴンさんを気にしながら自己紹介をした。キャラを崩すか迷ってるのだろう。その気持ちが伝わってきたので、俺は顔を近付けて小声で言ってやった。
「学校では黙っててやるからさ、そのキャラで通せよ」
折井に振られた(?)腹いせに少しからかいすぎてしまった。
「品川君……いや、デウス殿……感謝するでござる!」
俺たちは、固く、固く、握手を交わした。
「うふふ、仲直りしたところでティータイムにしましょう」
ヘヴンさんが放り投げたコンビニ袋をもって机に向かう。中からはコーラの500ミリのペットボトルとカップラーメン、雪見大福、それから駄菓子のような小さな袋が次々と出てきた。脈絡がなさ過ぎるし、ティー系のものが全くない。こいつはティータイムのティーの意味を理解しているのか甚だ疑問だ。
「あら、これは何かしら?」
ヘヴンさんは小さな紙切れをつまみ上げる。目を通した瞬間、顔色がさっと変わった。
「これは……”組織”からの手紙……!?」