四十四段目
その神社の石段は、全部で四十四段ある。
『この四十四段を上り切るまでは、絶対に後ろを振り返るな』
村では昔からそう言われ続けていた。
理由はよくわからないけれど、年寄りたちは必ず言う。
「振り返ったら、最後まで階段を登ることができなくなるんだ」
私はその話を、祖父から聞いた。
だが正直、信じていなかった。
ただの迷信だと思っていた。
***
ある夏の夜、私は興味本位でその神社へ行った。
夜の山は静かで、虫の声だけが響いていた。
石段の前に立つ。
暗い石段が、上へ続いている。
私は数えながら上ることにした。
一段。
二段。
三段。
石は湿っていて、足音が鈍く響く。
十段。
十五段。
二十段。
私は途中でバカらしくなって、少し笑った。
「なんだ。やっぱり、ただの階段じゃない」
三十段。
三十五段。
四十段。
あと四段で終わる。
そのときだった。
後ろで、石を踏む音がした。
ーーカツ
私は止まった。
後ろに誰かいる。
ーーカツ
ーーカツ
誰かが、私の後ろの階段を上っている。
私は咄嗟に振り返りそうになった。
その瞬間、祖父の言葉を思い出した。
『上り切るまでは、絶対に振り返るな』
私は前を向いたまま言った。
「……誰ですか?」
返事はなかった。
だが足音は止まらない。
ーーカツ
ーーカツ
ーーカツ
一段ずつ、近づいてくる。
私は息を止めて、もう一段上った。
四十一段。
足音も一段上る。
ーーカツ
四十二段。
ーーカツ
四十三段。
ーーカツ
四十四段。
私は石段を上りきり、神社の境内に出た。
その瞬間、後ろの足音が止まった。
私は、恐る恐る後ろを振り返った。
だが、そこには誰もいなかった。
ただ、石段が闇の中へ続いている。
私は登ってきた四十四階段の四十四段目をみた時、恐怖で震え上がった。
そこには、血のような赤い濡れた足跡が一つ、私のほうを向いて止まっていたのだ。




