温かい手
一 アウグスタ
夫の手は、いつも温かかった。
朝、パンを切るとき。夕食の後、私の肩に置かれるとき。眠れない夜、布団の中でそっと指を絡めてくるとき。大きくて、節くれだっていて、でも私に触れるときだけ、どこか遠慮がちになる——そういう手だった。
私たちが結婚したのは一九二三年のことだ。デュッセルドルフの町は、まだ戦争の傷を引きずっていた。インフレで紙幣は紙くずになり、男たちは職を失い、街角にはいつも乾いた怒りが漂っていた。そんな時代に、ピーターは私を選んだ。
「あなたは正直な人だ」
初めて食事をしたとき、彼はそう言った。私が、以前付き合っていた男を刑務所に送ったことを話したあとで。普通の男なら引いた。でも彼は引かなかった。むしろ瞳の奥に、何か熱いものが灯るのを私は見た。
正直な人間が好きなんだ、と彼は続けた。嘘をつく人間が、この世で一番信用できない。
その言葉を、私はずっと信じていた。
二 ピーター
アウグスタの首筋には、小さなほくろがある。
左の耳の付け根から二センチほど下、髪を結い上げたときにだけ見える場所に。彼女が食器を洗いながら鼻歌を歌うとき、私はよくそのほくろを見ていた。台所の窓から差し込む午後の光が、白い肌の上に淡い影を作る。それを見ていると、胸の奥に——なんと呼ぶべきかわからない感情が——静かに満ちてくる。
愛、だと思う。少なくとも私が知っている感情の中で、それに最も近い言葉を選べば、愛になる。
彼女は今日も機嫌がいい。市場でいいキャベツが手に入ったと言って、シチューを作ってくれた。私が「うまい」と言うたびに、彼女の頬がほんの少し上がる。その表情のために、私は毎日この食卓に帰ってくる。
外で何をしていても。
どんな夜を過ごしても。
この食卓だけは、本物だと思っている。
三 アウグスタ
夫が帰ってくる時間は、だいたい決まっていた。
工場の仕事が終わる六時に出て、居酒屋で一杯やって、八時か九時には玄関のドアを開ける。その音を、私は台所で聞く。コートを脱ぐ音。靴を揃える音。水道で手を洗う音。
夫は必ず、帰ってすぐ手を洗った。
長く、丁寧に。
最初の頃、私はそれを清潔好きな性格だと思っていた。そういう男と結婚できてよかった、とさえ思っていた。
彼が手を洗い終えると、私は夕食をテーブルに並べる。彼は椅子に座り、私の料理を見て、決まって同じことを言う。
「今日もおいしそうだ」
その声が、好きだった。
低くて、穏やかで、世界で一番安全な場所にいるような気持ちにさせてくれる声。
私たちは子供に恵まれなかった。お金もなかった。でも夕食のこの時間だけは、戦争も貧しさも関係なかった。ピーターと私と、湯気の立つシチューと、窓の外の暗い夜だけがあった。
それで十分だ、と思っていた。
ずっと、そう思っていた。




