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この作品には 〔ガールズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。

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サクサク読める短編集

このくらいやべーのを召喚しかねないから禁忌だったんですよ、聖女召喚

作者: 2626
掲載日:2026/02/06

タイトルそのままのお話ですよ。

 「やった!聖女様の召喚に成功したぞ!」

湧き上がった歓声は、次の瞬間、落胆の声だけになる。


 王国に召喚された聖女は大怪我を負っていたのだ。

全身が血まみれで、この黒髪の少女は今にも息絶えようとしていた。


 「聖女なのに……自分の怪我も治せないのか?」

特に、露骨にがっかりした態度を見せたのは国王アシルドだった。

「きっと聖女では無いのだろう。森の中に棄ててしまえ!」

国王が残酷な事を指示した時、血相を変えた王妃マリーが駆け込んできた。

「陛下!あれほど禁じられた『聖女召喚』を行ってはならぬと――!」

「煩い!引っ込んでおれ!」

諫めようとする王妃を振り払うと、国王は騎士達に少女を遺棄するように命じた。


 「お待ちなさい!」

騎士達の前に、振り払われた王妃が立ちはだかった。

「彼女の面倒は私が責任を持って最期まで見ます」




 ――三日三晩、寝ずに王妃は少女を看病した。

彼女は微弱な治癒魔法が使えたから、それを精一杯駆使して彼女を手当てしたのだ。

その労苦が実ったのか、薄らと少女は目を開けたのだった。

「あ、あれ……誰?」

「良かった、目を覚ましてくれて……。言葉は通じるようね」

王妃は安堵して、まず少女に水を飲ませた。

「……ええっと。お水ありがとうございます。ところで……あの、ここ、何処ですか……?」

「……」

王妃は目を伏せて、事情を話し出した。


 こちらからけしかけたにも関わらず、隣国との戦争で負けかかっている事。

国王が固く禁じられた『聖女召喚』を行って形勢逆転を狙った事。

けれどそれには失敗して、彼女が召喚されてしまった事。


 「わ、私……元の世界には戻れないんですか!?」

怯えと混乱の入り交じった声で少女が叫ぶ。

「ご免なさい。……『聖女召喚』で召喚された者が帰還できたと言う記録は何一つ無いの……」

「そんな!そんな、そんなのって……!」

わあっと泣き出した少女を王妃は抱きしめて、彼女が泣き疲れて眠ってしまうまで側にいたのだった。




**************


 王妃マリーには何の力も無い。

彼女は『二番目の王妃』なのだ。




 かつて王太子アシルドが『真実の愛』を見つけたものの、その相手は弱小貴族の令嬢ギリニアだった。

そのため、国の上層部はしっかりとした後ろ盾を求めて、公爵家の出自のマリーと結婚するように王太子アシルドに厳命した。

だから彼女はアシルドからも『一番目の最愛の王妃』ギリニアからも嫌われ、邪険にされ、それでも己の貴族としての務めを果たすべく王妃として生きてきたのだ。


 それでも、彼女の実家であるトゥビノ公爵家が健在である内はまだ良かった。


 ……隣国との関係が悪化した時に、隣国への開戦に誰よりも強く反対した彼女の一族は、全員が処刑されてしまった。

それ以来、マリーには何の後ろ盾も権力も無くなってしまったのだ。




 王宮で権力と後ろ盾を亡くす事がどれ程に悲惨な現実を招くのか、マリーは身を以て味わった。

人前では涙を見せまいと気丈に振る舞っていたけれど、夜中に何度涙で枕を濡らしたか分からない。




 彼女の悲惨さとは対照的に、アシルドとギリニアは幸せな結婚生活を送り、王子レバノを産んだ。


 ――幼いながらも、この王子がとんでもない悪童であった。

平和的な交流のため訪問した隣国の小さな姫の顔に、子供のいたずらでは到底済まされない――一生涯の消えない傷痕を残して、隣国の態度を一気に硬化させたのだから。




 元々、隣国は巨大な国であった。

王国とは比べものにならない国力を有していたが、それでもレバノが姫君の顔に傷跡を残すまでは、それなりに平和的に共存していたのだ。

事件の後、マリーやトゥビノ公爵家の面々が這いつくばるようにして外交官や向こうの王族に何度も詫びて、どうにか戦争だけは免れたのに――こちらから宣戦布告するなど正気の沙汰では無かった。




 処刑されたため、トゥビノ公爵家の墓は無い。

先祖代々の墓地に葬られもせず、遺体は焼かれて川に流されてしまった。




 それでも、その後でも。

マリーは父や兄達からの遺訓を守って、王国のために心と体をすり潰すようにして生きてきた。




**************


 やがて目を覚ました少女の顔を洗ってやって、それからマリーは彼女に何か食べたいものは無いか聞いた。

「……あの……」

少女は恥ずかしそうに、お腹が空いている事、あまりにも空いているので出来れば肉が食べたい事、何でも食べられる事を打ち明けたのだった。

「ええ、今すぐに準備するわ。ところで、貴女のお名前を伺っても?私はマリーと言うの」

「タマモ……です」

「タマモさんね。どうかよろしくしてね」




 マリーが離宮で飼っている鶏を潰して捌いていると、タマモが顔を出した。

「あ、あの……マリーさんは、その……召使いさんなんですか?」

マリーは明るく答える。

タマモの質問に、ギリニアのような悪意や毒が無かったからだ。

むしろいきなり、無理矢理にこちらの世界に連れてこられて、錯乱しないでいてくれるだけで充分であるとマリーは思っている。

「いえ、これでもこの国の王妃よ?でもね、後ろ盾も権力も何も無くて、こうやって自分で料理や家事をしないと生きていけないの」

「……」

タマモは少し考え込んでいるようだったが、

「あの!私も手伝います!」

いきなり大きな声を出して、台所に入ってきた。

「じゃあ、そこのお野菜を洗ってくれるかしら?」

「はい!」




 二人は料理をしながら、その料理を食べながら、色々と話した。

と言ってもマリーが聞かれるがままにこの世界の事や、今の王国が抱えている問題を話す事がほとんどだった。

最初は机を挟んで話していたのに、気付けば隣同士の椅子に腰掛けて、笑いながら二人は時間を過ごしていた。


 「……そうだったんですね、そんな事が……」

タマモは不意に手を伸ばして、マリーの頭を撫でた。

「マリーは本当に、よく、頑張りました」

その瞬間、限界が来たマリーは泣き出した。

小さな子供のように、わあわあと声を上げて泣いた。

「ま、マリー!?嫌でしたか?ご、ごめんなさ――」

タマモが慌てた声を出すが、彼女にしがみついてマリーは泣きじゃくる。

「違うの、違うの。処刑されてしまった私のお母様を、お父様を、お兄様達を、思い出したの……!」


 彼女の一族は彼女とアシルドとの縁組みに反対し、彼女の不遇な扱いに憤り、何より王国のために必死に働いたのだ。

決して、公開処刑なんてされるような人達では無かったのだ。


 在りし日、家族から優しく頭を撫でてもらった記憶が蘇って、今まで一人耐えていた分、どうしようもなくマリーは泣きじゃくるのだった。




 「……落ち着いた、マリー?」

気付けばもう夕暮れだった。

タマモはあれからずっとマリーの側にいてくれたらしい。

泣きすぎた所為で頭痛はしたが、マリーは気分は落ち着いていた。

「ご免ね、タマモ……」

タマモは目を細めてマリーの頬をつついた。

「良いの。だってマリーはずっと私を手当てしてくれたでしょう?」

落ち着いたはずなのにまだ嗚咽がこぼれるマリーを、タマモはよしよしと抱きしめる。

「……私には大した魔力が無くて、微弱な治癒魔法しか使えなかったから……」

涙が伝う痩せこけたマリーの頬を、タマモは優しい指先で撫でた。

「ううん、温かかったよ。マリーの手」

「有難うね、タマモ……」

夜の闇が静かに辺りを覆う中、二人はずっとそうしていた。




**************


 数日の間、マリーとタマモは朝から夜まで一緒に過ごした。

「ねえ、マリー。私、この世界にやってくる時、散々な目に遭ったんだよ」

一緒に庭の雑草をむしって、代わりに食べられる野菜の種を撒いている時に、ふとタマモが話し出す。

「……それは、貴女が負っていた大怪我と、関係があるのかしら?」

マリーが水を汲みながら訊ねると、タマモは頷いた。

「大あり。酷い連中に殺されそうになったの」

「まあ……」

「必死に逃げていたら、こっちの世界に召喚されて。でももう動けなくて……本当にお終いだと思ったの」

「貴女が助かって……元気になってくれて……本当に良かったわ」

えへへ。

タマモは無邪気に笑って、それからマリーに背中を向けて雑草を引き抜きながら言った。

「マリー。私は貴女が好き。大好きよ。こんなに誰かを好きになった事なんて無いし、好きになったのが貴女で本当に良かったと思っている。だから――」

その後の言葉が聞こえなくて、マリーは聞き返す。

「タマモ、好きになってくれて私も本当に嬉しいけれど……ご免なさい、最後に何て言ったのかしら?聞き取れなかったわ」

「ううん!何でも無いの!……ちょっと恥ずかしいセリフだったから、聞かれなくて良かった!」

タマモは振り返って、少し照れた笑みを見せるのだった。




 「おい!」

そこに大勢の家臣を引き連れてやって来たのは国王アシルド、王妃ギリニア、そして王太子レバノである。

「聖女が回復したのなら、私に寄越せ!」

アシルドが指示を下すなり、タマモを大勢の騎士達が囲んだ。

怪我から治ったばかりなのに、酷い扱いをしてはならないとマリーはアシルドに迫った。

「陛下!彼女は大怪我から回復したばかりで――!」

「煩い!退け!」

突き飛ばされたマリーは、水桶を引っ繰り返してずぶ濡れになった。

「まあ、何て惨めなのかしら……」

クスクスとギリニアが嘲笑し、レバノは引き抜かれた雑草をぶつけながら笑う。

「やーいやーい、こじきおんな!おかねがほしいならどげざしろよ!」




 「――マリー」

どうにか起き上がったマリーに、酷く優しい声がかけられる。

思わず見上げた彼女を、タマモがじっと見つめていた。

「ねえマリー、私……貴女のこと……」


 ――ゾクッとマリーの背筋を理由の分からない悪寒が走り抜けた。




 タマモはアシルド達に連れられるままに行ってしまった。

独りぼっちになったマリーは、鳥肌が収まってから、涙をこぼした。

「タマモ…………」


**************


 異変が起きたのは早くも翌日だった。

今まで一人の召使いもいなかった、マリーだけが暮らす離宮に、下働きの下女と下級女官が派遣されてきたのだ。

「聖女様の思し召しですので」

と言う事らしい。


 ――タマモは、私の事を案じてくれたのだわ。

それだけでマリーは生きる気力が湧いた。

いずれ彼女に忘れ去られてしまったとしても、私は覚えていよう。


 彼女は久しぶりに湯浴みをして、貴族らしい食事をした。

その数日後に届いたのは衣装と本だった。

それまでの極貧の暮らしで最低限以外は売り払ってしまっていたのに、『聖女の思し召し』と言う事で、マリーが好きだった歴史書としっかりとした暖かな衣類がやって来たのだ。


 寝具。

夜に本を読むための明かり。

大勢の女官達や下女達。

上質な筆記具。

可愛らしい異国の小鳥。



 マリーはどうしてもタマモにお礼を言いたくて、手紙をしたためて封蝋を押した。

タマモはこの世界の文字を読めると言っていたから。




 ――やがて女官達の口を通して、王宮の意外な現状が届いてきた。

何と、戦争が終わったらしい。

ギリニアよりも若い聖女タマモにのめり込んだアシルドは、ギリニアとレバノを隣国に引き渡し、賠償金も払ったのだと。

隣国の首都でギリニア達は処刑され、それを以て隣国の軍隊は撤退したそうだ。




 タマモ!

それを聞いたマリーは、胸を貫くような悲しみと怒りを覚えた。

どうして貴女が、アシルドなどに……!

戦争が終わった嬉しさと友を守れなかった無念と悲しみに、あのタマモへの思慕が入り乱れて。

その夜、マリーは一人で泣いた。




 「タマモ様は真の聖女であらせられます」

「あの暗愚……であったアシルド陛下がまるで別人のようで」

「かつての己を恥じると言い、タマモ様の見守る中、ひたすら政務に励まれておられます」

「奸臣を遠ざけ、能吏を周りに置かれて……きっとこの国は良くなるでしょう」




 女官達から変わったアシルドについて聞いても、マリーは友を守れなかった悔しさだけが募った。

だって、幾ら手紙を書いても、タマモからは何の返事も無いのだ。


 ――もしかしたら、彼女を守れなかった私に対して本心では蔑んでいるのかも知れない。

マリーがとうとうそこまで思い詰め始めた頃だった。




 『トゥビノ公爵家の名誉を回復する』

国王アシルドがそう言い出したのは。




**************


 マリーも豪華な馬車に乗って、トゥビノ公爵家のために新たに作られた立派な墓廟へ向かった。

馬車の中には国王アシルドと聖女タマモがいた。




 タマモ!

マリーは懐かしさと安心感で泣きそうになるが、堪えた。




 ――墓廟の中にアシルドとタマモ、マリーだけが入った時。

いきなりタマモは甲高い声で笑い出した。

マリーの知っているタマモとは別人のように、笑い出した。


 「マリー、ねえ、マリー。私、すっごく頑張ったんだよ?全部全部、マリーのために頑張ったんだよ?」

言うなりタマモはマリーに抱きついた。

「タマモ!?」

驚いて声が裏返るマリーの唇を奪い、タマモは情熱的に囁く。

「愛している、愛しているの、マリー。一万年以上生きてきたけれど、こんなに人間を愛おしいと思ったのは初めて。ねえマリー、ずっと私と一緒にいて?」


 ――もしもその恋が叶うのならば、どれほど幸せだろうか。


 「で、でも……」

ここには国王アシルドがいるのだ。

決してマリーは『はい』と答える事が出来ない。

「ああ、このでくの坊だよね?」

タマモは嘲笑して、アシルドを蹴り飛ばした。


 ――倒れたアシルドの体が一枚の木の葉になってしまう。


 絶句するマリーの顔を両手で壊れ物のように大事に抱いてタマモは告げる。

「コレなら初夜の時に私が食べちゃった。それからずっと、こうやって私が操っていたんだよ?」

タマモはアシルドをもう一度木の葉から変化させると、くくく、と低い声でもう一度嘲笑した。

「タマモ……貴女は、何なの?」


 あの時マリーが感じた恐怖は間違っていなかった。

 やはり、この少女は人間では無かったのだ。


 「うーん、妲己とか玉藻の前とか『あっちの世界』では呼ばれていたけれど、マリーの声で呼んでくれるのなら私の名前なんて何でも良いよ?」

だって、とタマモは本性を現す。


 優美さと獰猛さを両立させた、巨大な白獣の体躯。

 異形の証、九つの尾。


 ――けれどその瞳だけはマリーが泣いていた時にそっと抱きしめてくれた少女と、何も変わらないのだ。




 「私こそが『九尾の狐』だもの」




**************


 その後の国王アシルドは王妃マリーとの間に子を幾人か成し、聖女タマモの加護の元に、戦争で疲弊した国をよく立て直し、安寧をもたらした賢君になった事で広く知られている。


 だが、その裏で『聖女召喚』に関する全ての記録や文書が破棄された事は、誰も知らない。

とっても百合だね!!!!

狐だけど百合だね!!!!


たまにはハッピー♡百合ラブ♡エンドもいいじゃないですか、ね!


え?

好きなように♂♀変化できるんだから百合って言うよりTSじゃないの?

……ってツッコミは無しでお願いします。

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