楽しめ!常夏のビーチ
「えー、先程手に入れたこれを……使いたいと思います!」
ビルと別れた勇者一行。勇者は譲り受けた秘宝を手にそう口にした。
「お師匠!ついに使うんですね!」
「あぁ、ついに使うんだよ」
「……ついにも何もさっき手に入れたばかりじゃない」
「これはエリクサーって言って凄い薬なんだ。どんなものも治せる秘宝だ。これをフィリに使う」
「……!」
▶勇者はフィリにエリクサーを飲ませた
フィリにかかっていた呪いが解けた
「―――……あ、……あ」
今まで声を出すことの出来なかったフィリ。
その口から久しぶりに出された慣れぬ声は途切れはするものの高くうつくしい音色をしている。
「フィリさんが喋りました!お師匠は秘宝でフィリさんが喋れるようになることを知っていたんですか!?」
「まぁ」
勇者は最初からフィリの呪いのことを知っていた。
「さすがお師匠!」
「ということでフィリ、俺の名前を呼んでみてくれ!」
「……いう……しゃ」
「そう!勇者!」
勇者は名前を呼ばれて嬉しそうだ。
しかしそんな勇者の反応にマネが首をかしげる。
「ちょっと勇者様?それは名前なの?」
「……そういえばお師匠の名前は聞いた事ないです!」
「まぁ、勇者だからね!それより次の目的地に行こう」
▶勇者の誤魔化し
話題を逸らした
「旅には休息も必要不可欠ってことで次はビーチに行こうと思います。理由は俺が行きたいから」
「ビーチ……楽しそうです!」
「勇者様の判断に素直に従うわ」
「ビーチ……楽しみだな」
◇
───常夏のビーチ。
ここは人間の支配地域ではあるが特色として夜以外の天候は常に眩しすぎる程の快晴、天然の雨雪曇りすら存在しない場所になっている。
どんな時期でも観光者が絶えず、地元の人からも愛されている。
そんな常夏のビーチは近くにあるナツヤスヤミ村の住民が管理を行っており、ビーチでは色々な売店もしているようだ。
「どこまでも続く広い海!砂浜!そして仲間の水着!オアシスはここにあったのか」
そんなビーチで人一倍はしゃぐ男こそが勇者であった。
「お師匠ーどうですかこの衣装!似合いますか?」
「似合うけども変な人には気をつけてね……周りの視線がさ」
リウが着用しているのは以前ラブケーンで買ったハートビキニ。その露出の多さから周りの男達から視線を集めている。
「勇者……私のはどうかな」
「最高!」
「嬉しい……」
フィリの水着姿を見た勇者の言葉はそれだけでもはや完結した。それ以上に語る必要は無いのだ。
フィリはレンタル場から「スクール水着」という珍しい衣装を選んでいた。パツパツとしたその衣装は下の方はスカートのようになっている。
「ところでマネは控えめだね」
「あまり目立ちたく無いもの。それに泳ぐ予定も無いわ」
マネは上に黒のロングレースを纏って肌を隠していた。男からの視線を防ぐためだ。
ただ、グラマラスなボディを持つマネ。これでも防ぎきる事は不可能なようだが。
───そうして各自、ビーチで過ごす時間が始まる。
「スイスイー」
リウは泳いでいる。有り余る元気を発散しているようだ。近くに寄ろうとする男をより付けぬ勢いを持っている。
「ぱしゃ、ぱしゃ……冷たい」
「うむうむ」
フィリはあまり泳げないようだ。ピンク色の浮き輪をで浮きながら水をパシャパシャと跳ねさせている。そして勇者はその様子を見ている。
「……ふふ、たまにはゆっくりするのもいいわね」
マネはビーチパラソルの下、サマーベッドで穏やかな時間を過ごしているようだ。
しかし……そんな穏やかな時間に不穏な影が。
「Heyそこの美人さん!俺らと遊ばないかい?」
焼けこげたナンパ男がマネへと話しかけてきた。
「難しいわね」
当然マネはそれを断った。
「1人で退屈そうじゃないか。ほら、あそこに俺らの連れがいるから一緒に楽しいことしようぜ」
そう言ってナンパ男は3人の男がいる方向を指した。
「退屈じゃないから話しかけないで欲しいわね」
「言ってくれるねぇ……。気の強い女はタイプだ!」
ナンパ男は興奮をしているようだ。
しかしそんなナンパ男を勇者が許すはずも無い。
「俺の仲間に何してるんですかねぇ」
「マネに手を出すのは……ダメ」
フィリと共に勇者が立ちはだかる。
「……仲間?こんなお子ちゃまが!?ギャハハハハハ!冗談よしてくれよ!ひっ……くひひひ……」
ナンパ男はツボに入ったらしい。笑いが止まらない。勇者の右手に力が入る。
「勇者様、手を出したらダメよ」
「ん?勇者ぁ……?このガキがか」
「そうです。私が勇者ですがなにか」
「世界を救うって話の勇者がこんな子供?冗談キツイぜ……なぁ?俺許せねぇよ」
そんなナンパ男の言葉がフィリの怒りに触れる。ナンパ男の首筋に風の刃が当てられた。
「この人は勇者。それを否定するのは許せない」
「……怖いねぇ。せっかくの可愛い見た目も台無しだよ」
ナンパ男はそう言うと軟体動物のようにするりと身体を柔らかく使い潜り抜けた。
そして仲間たちに対して言葉を大きく声をかける。
「おい!お前ら集まりなぁ!」
「えいっ!」「ウッス!」「よいしょ!」
そうして集まったナンパ集団。
「どうだ自称勇者さんよ、ここは俺らと対決っていうのは」
「対決?どういうこと」
勇者はピンときていない。
「戦って、そんで俺らが勝てばそこのお姉さんを俺らのパーティに引き抜かせてくれってとこだな」
「……いやさせないが?」
内容にピンときた勇者が怒りを露わにして言う。
「なに、お前がマジの勇者だって言うんなら俺らに負けることは無いだろ」
「当然負けないけどさ」
「じゃあやるよな?勇者なら逃げる訳には行かないはずだ」
「……こんな安い挑発には乗らない。冗談でも仲間を賭けるのは嫌だ」
勇者は意外にも大人だ。冷静に判断をする。
しかしここでマネが立ち上がる。
「いえ、勇者様。ここは1つ痛い目を見せましょう。私も好き勝手言われるのは許せないの」
「勇者、やっちゃおう」
仲間の同意は取れた。あとはもう勇者の答えは1つである。
「喧嘩かけたこと、後悔させてやるからな。覚悟しろ」
息抜き出会ったはずのビーチであったが、ナンパ男によってそれは壊されてしまった。
かくして勇者とナンパ男の戦いが始まる。




