見たくない件(3)
ルミリさんに関する情報は、これで十分な程に手に入れた。ということで、次の目的地はロボロボ遺跡でいいだろう。今回はもうルシフェルと情報交換をして終わりでいい。
……完全体で復活するルシフェルのせいで今回もまた殺されるだろう事が本当に癪に障るけど。
……ん?……ん?……ん?
俺はロボロボ遺跡の前に来た。だがおかしい。幻覚を見ているのだろうか。フィリらしき人影が見える。
「……!」
ちが……う?幻覚じゃない?
こちらに気がついた彼女が、間違いなく近づいてきて―――
どん!そんな音ともに俺の胸に思い切り頭からぶつかってきた。
「フィリ、どうして」
「……!!」
フィリは、涙を流しながら強く、強く体を抱きしめてくる。記憶が……戻ってる?なんで。
しかし、自分の行いを理解した途端に自らを劈くように衝撃が走った。
―――なんでじゃない!俺のせいだ。
俺が、求めた。求めてしまったんだ。フィリをまた呪ったんだ。今回の旅を通して、俺は自然にフィリを求めていた。
記憶が戻る条件はなんだ。いつもと同じ決まった会い方をする事だ。目の前に居なくても、その条件を満たしてしまった時点で呪ってしまうのかもしれない。
知らなかった。そんなの、知らなかった。
俺は、なんて事をしてしまったんだろう。
フィリは、まだルシフェルを殺したのに終わって居ないことを知らなかったのに。
シールドさんの所にいた時に記憶を取り戻してしまったんだろう。
「ごめん」
怖かったよな。不安だったよな。
「ごめん」
また繰り返しているのかを知ってしまい、どれだけ絶望しただろう。
「ごめん」
それなのに、俺が近くに居られなくて。
こうなるのなら、何があっても連れていくべきだった。覚えていないからと、危険だからと、どうせ忘れられているならと逃げちゃいけないんだ。フィリだけは、ずっと俺が守らなきゃいけないのに。
「ごめん……俺、終わらなかったんだ。ルシフェルを殺しても何も終わらなかった。約束を守れなかった。俺はまた何回も繰り返しているんだ……っ」
俺もフィリも、互いに涙を流した。それからはもう、ずっと動くことができなかった。
◇
ふと、思う。何故フィリの呪いは繰り返しても繰り返してもまた最初からになるのか。
記憶を思い出した段階で同じように戻ってもおかしく無いのか。
「なぁ、ルシフェル……お前なら分かるか?」
「うん、分かるとも」
俺は、フィリと共にルシフェルの元へ訪れていた。あれから、すぐさまロボロボ遺跡に行きエリクサーをフィリに呑ませてから。
ビルさんは、記憶を取り戻していなかった。
もしいつか記憶を取り戻すのならソルドさんも、ビルさんもまた繰り返していることを説明しないといけない。ただ、そんな事はないようにする。
「フィリちゃんの呪いが再発する理由。それはね」
「私の名前を……お前が気安く呼ぶな」
フィリはルフェルに殺気を顕にしている。
当然だ。一度は殺したはずの何より憎い存在が以前よりもずっと強くなって親しげに話しかけて来るのだから。
今は手を組んでいる事は説明したく無かったけど一応は説明したけれど。
「わぉ怖い。僕、随分嫌われてるみたいだね。勇者も少し前までそんな感じだったよね」
「俺だって今もお前のことは嫌いだ」
「まぁいいさ。この世界は繰り返されている。けれど戻った世界で再び『新しい呪い』に塗り替えられている。人間の呪いっていうのはいつまでも付きまとうそういう陰湿なものなんだよ」
……何も変わらない。これからも毎回呪いを解くだけだ。もう、別の事に使う必要もないし。
「で、勇者は歴代勇者について何がわかったの?記憶共有またするかい?」
「それは嫌だ。口で説明する」
前回は見れなかったこいつの記憶で何か得ることはあるかもしれないけど……今は見たくない。
「まず、お前が知らない先代2つの勇者については同一人物だった」
「へぇ……凄いなぁ。1代で魔王を2体倒すなんてね!けど、その勇者は消えちゃったんだよね」
「あぁ、あとおかしい事もあった。2つ前の魔王との戦いを見たんだ」
「あぁ、あの記憶を管理してる場所行ったの?」
「知ってるのか?」
「知ってるも何も、あそこで死者の記憶の管理をするのも僕とカイエルの仕事の1部だったからね」
……ってことは今はカイエルだけで今は管理しているのか。記憶が変に途切れたのも、ルミリさんの記憶自体見つからなかったのもカイエルが絡んでいる可能性があるな。
「そこで先代勇者が魔王と戦ってる所を見たんだけど変な所で終わったんだ」
「まぁ、カイエルがなんかやってるよね!君に知られちゃ不味い所があるんだろうね」
「だろうな。とりあえず今回お前に言えるのはこれくらいだ。……いや、あと勇者は世界一優しくてワガママでカッコイイ男だったらしい」
「それ……誰が言ったのさ。すごく私見が強くないかな。いや、勇者だから本当にそんな人間だったのかもね」
そんなルシフェルの反応を見て、フィリアさんに同じことを言っても首を縦に振るだろうな……なんて事を思う。
「さて、勇者少し耳を拝借するね。……」
……はぁ。そんな事、言われなくとも分かってる。
「ルシフェル……勇者にそれ以上近づかないで」
「フィリ」
フィリがルシフェルから引き剥がしてくれた。助かる。
「本当に冷たいなぁ。……これじゃこれから勇者を殺しにくいよ」
「勇者は、殺させない……!」
「でも君たちじゃ僕を殺す事は出来ないんだよね」
悔しいけど、こいつの言う通りだ。
今もフィリがどれだけ魔法を放ってもルシフェルは無傷だ。
「そうだ、じゃあ二人で旅を楽しみなよ。殺さないであげるから」
「……じゃあ、そうするよ。」
フィリの前で、殺されたくはない。フィリを、殺されたくもない。
「フィリ、行こう。話したいことが沢山あるんだ」
「……うん、勇者が言うなら」
それから、俺とフィリは何を語っただろうか。宿屋で二人で、どうしていただろうか。新しく、目的ができたんだ。
救いたい人がまた増えたんだ。
言いたい事と、言えない事と、抑えられなかったことを話した。もうその手を離したく無くて、強く握って俺とフィリは眠ったのだ。この先の事なんて知る由もなく小さな幸せを感じて。
◇
「勇者よ!ソナタに魔王討伐の使命を与える!」
……あぁ。あぁ。あぁ。あぁ。
消えろ、消えろ、消えろ、消えろ。
なんで、どうして、そんな言葉が脳裏を過ぎり、胸がはちきられそうになるほど不快な気分になるがどうにかそれをおさえつける。
……そうか、俺はルシフェルを無力化しないといけなかった。それが与えられた定めだから。
それをしなかったから、また繰り返した。
気持ちが悪い。けど、諦めてはいけない。俺には俺の目標がある。
フィリがいるから、いる限り、俺は……頑張れる。
瞬間、ルシフェルに耳打ちされたことが脳裏を過ぎった。
『ねぇ、君は大切な存在を呪ってもいいのかい?』
大嫌いな笑い声と共に脳内にこびり付くように残っていた。
……そんなわけないだろ。呪いたい訳なんてない。それはかつての大切な仲間が言ってくれた言葉すら否定してしまう内容だ。それでも俺はもう大切な存在にこんなこと背負って欲しくない。
巻き込むのは憎いやつだけでいい。
もうきっと、呪わないようにするから。
俺が皆を……守るから。




