見たくない件(2)
「は、初めまして僕はボツラ。お兄さん……って歳ではないか。君は僕に何の用?」
ボツラさんは意外と落ち着いた様子でそう言った。扉の前にいた時には何処かビクビクした印象も受けたが見た目も普通だ。背丈も俺と対して変わりはしない。服装も含めて。
「ボツラくん!元気だった?ちゃんと寝てる?全然出てきてくれないから心配で……」
おっと。……リプさんがボツラさんに抱きついた。この2人、恋人なのか?
「ちょっと……やめてリプ。恥ずかしい。本当に、ねぇ、やめてってば」
「なんで?友達なんだからこれくらい当たり前じゃない。……やっぱり私が嫌なの?」
「そ、そうじゃなくて……あの。あ!それよりその人と話さないといけないんだよね。だから、ね!離れて」
「……ごめんねボツラ君」
あ、離れた。
「い、いいよ別に。それよりこの人と2人にさせて」
「ボツラ君、たまには外にも出てきてね」
「わ、分かったから早く……」
リプさんが出ていった。しかしボツラさん顔赤いな。
「大丈夫ですか?」
「……大丈夫じゃないよ。ねぇ、下の国で生きてる君なら分かるでしょこの国のおかしさ」
「さっきのハグとかのことですか」
「まぁ、それも1つ。この国は友達同士は挨拶であんな事をするんだよ。それに、服装も変わってるでしょ?あれは特別な素材でね寒さも暑さも上手く調整して強い衝撃も吸収できるんだよ……ただ、弱い衝撃は通り抜ける」
……あぁ。
「着ている服は皆あれだけ。外で人と会う度皆抱きしめてくるのにさ。それが昔から耐えられないんだ。下の国で過ごしてからは尚更」
……あぁ。何を言いたいのかがよくわかった。
「ごめんね。それじゃあ君の用について教えてよ。僕も少し忙しいから」
「俺は今ルミリさんについて、情報を集めています。だからこの神殿にあるのならルミリさんの記憶の場所を教えてくれませんか」
改めて神殿の中を見るとそこには記憶の珠というべき球体が無数にあった。球体には人生の記憶が流れている。この中から特定の人物のものを見つけるのは難しそうだ。
「ルミリの記憶を……そっか。君も見たいんだね」
「え、それって」
「僕も同じ。探しているんだよ。けど、ずっと見つからないんだ」
……どういう事だ。
「この神殿では生きる者も、そうでない者の記憶も集まっている。全て。ここまで来た君ならルミリが消えたことは知っているよね」
俺は頷いた。
「この神殿の記憶はその人物が生きているのなら常に新しい記憶に変わっていく。だからそれを頼りにルミリの居場所を探そうと思ったんだよ」
「なのに見つからないんですか」
「うん。まぁこの量だからね。それで少なくとも死者の所に彼の名前は無いのは分かってる。死者の場合は名前も分かるように綺麗に陳列されてるから」
「なんで死者だけ」
「こればかりはゴッツ様の意向だから。死者の記憶は大切に保管される。それに、生きてる人まで自由に簡単に見れたら悪用されかねないからね」
まぁ、納得のいく理由だな。
「それと、敬語じゃなくていいよ。見たところ同い年くらいだしさ」
「じゃあ、ボツラ。他にも見たい記憶があるんだ」
「何?生者の記憶意外だと助かるんだけど」
できたら生者の記憶の方が助かる。けど、死者でも知りたい情報をもっているであろう相手が1体、間違いなくいる。
「今から、2つ前の魔王の記憶を見たい。そこにならルミリさんの顔が残っているはずだから」
「……あぁ、魔王の記憶。分かった」
◇
これが2つ前の魔王の記憶。
俺は水晶に触れる事でその世界に入り込んだ。ルシフェルとした記憶共有と何処か似た感じだ。
そこで見る記憶は、正直にあまりいいと思えるものではない。魔族が人間を滅ぼそうとする光景。火の海、人の悲鳴、血にまみれている。それも、本人にとって強く残った記憶ほど鮮明に見えるから。
声が聞こえないのが唯一の救いだろうか。
……あ、多分あれはルミリさんの姿だろうか。魔王がわざわざ何かの道具を使って2人の人間の姿を見ているから。道具越しのせいであまり綺麗には見えないがルミリさんらしき落ち着いた雰囲気の男性と、魔法使い……魔法剣士?格好的には第2の勇者にも見えるような明るそうな男が強そうな魔族と戦っている。
四天王かな。
……それから、ついに魔王と戦う所になった。だからより鮮明にその姿が見える。
身長は170位か。長い旅をしたんだ、体は鍛えられている。目は優しい。魔王を前にした時ですら。髪の色は俺と同じだけど結構短い。適当に切られた感じだ。
そうか、ルミリさんはこういう人だったんだな。でも今の姿なるとこれよりももう少し歳を取っている。これはまだソルドさんたちとも会ってない時なのだから。
……?なんだ、急に終わったな。
先程まで戦闘は魔王優勢に進んでいた。なのに、終わった。いきなり魔王が死んだという事になるのか?
それと、四天王戦らしき記憶で一緒に居たもう1人の人物が居なくなっていた。……理由は考えない方がいいか。
◇
「どうだった、ルミリは見れた?」
「あぁ、しっかりと。ありがとうボツラ」
お陰でこの先ルミリさんを見つけた時に見逃さないだろう。
「ちなみにさ、君は何者なの?」
「俺は勇者。新しい勇者」
「え……勇者!?」
俺は、繰り返している事を話した。
「繰り返している。そっか……じゃあ毎回僕の所に来て一緒にルミリの記憶を探してくれない?」
「え……それはちょっと」
無しとは言わないが、一体どれだけの時間がかかることか。
「冗談だよ。君のやるべき事はきっと他にあるだろうからさ。ただ、気が向いたら会いに来てよ。たまには僕も他の国の人と話したいからさ」
「あぁ。それなら。また誰かの記憶を見たくなる事もあるだろうし」
「約束だよ」
「あぁ」
こうして、俺はボツラと別れたのだった。




