婚約者候補になりたくて(4)
俺は急にユンナさんに放り投げられた。痛い。山に勢いよく刺さった。なんで俺投げられたんだ。
「いてぇ……」
起き上がって、土埃を払う。
「しぶとい」
上空でその様子を見ていたユンナさんがそんな事を言った。なんだろうか、この人は俺の事を殺したかったのだろうか。
「あのー、話しませんか?ユンナ様誤解してますって」
「私はあんたを認めない」
認めてくれないらしい。
「なんでですか」
「私にとって、勇者は1人だけ。アンタはなんなの?」
「……勇者」
俺には自分を勇者としか言えない。それ以外の何者でも無いから。
「嘘。私は勇者としても、婚約者としてもアンタを認めないから」
あぁ、そうか。同じなんだ。フィリアさんが俺を勇者と認めたくなかったのと理由は同じなんだ。それで、好きだったんだ。
「ユンナ様、降りてきて下さいよ!話を聞いてください」
「まず……この婚約者候補を決めるのだって仕組まれていたのよ」
駄目だ聞いていない。
「婚約者候補が勝手に決められるって聞いたから全部邪魔しようとしたのに……。思ったより魔物の数が多くて手が回らなかった小型は貴方に全部処理されちゃうし、中型も一体だけ首落としちゃったし!そのせいで予選1人抜けできなかったじゃない!」
「いや、そんなこと言われても」
「そのせいで!元々第三の試練はアンタが勝てるようになってたのよ!ピーちゃんが決めるって言ってたけどリッスに気持ちが分かるとか、分裂とかそんな力ないわ。あの人が魔法を使っただけ」
確かに……冷静に考えたら分かることだ。
「あの人は……私がルミリを『勇者』だから好きになったと思ってるけど、違うのに!アイツだから好きになった……代わりなんて居ない」
「……俺はそのルミリさんについて」
「まずなんなのよ!継承権を妹ちゃんに渡すって自分が言ったのに魔王を倒した英雄の1人になったらやっぱり私に国を継がせるなんて……酷い!酷すぎる。」
やっぱり聞いてくれないな。……ただ、気になる事を言っている。
「せっかく『私』を見てくれる人に会えたのに、忘れろなんて……できるわけないじゃない」
……あぁ、なんか降りきた。
「私は好きな人がいるの!だからアンタとは婚約出来ない。素直に諦めて」
「いや、あの」
「嫌?これを見てもそう言えるかしら」
……話聞いてくれないなぁ。
それからユンナさんは覆面に、そしてスーツに手をかける。……その下から現れたのは綺麗な顔だった。短く綺麗な黒髪。そこには青い結晶を使われた星形をした飾りがついている。ただ、綺麗ではあるが普通の人間では無い。
ぱっちりと大きな目、瞳の色が金だ。
人間には存在しないはずの鱗。青色のそれが顔の皮膚を覆っている。頭からは角も生えていた。“龍“その言葉が頭に浮かぶ。
不思議なことにスーツの下には白を基調にしたヒラヒラとしたローブ、短いボトム。とてもあのスーツの下にあったとは思えない格好だ。
「私、普通の人間じゃないの」
まぁ、普通ではないだろうな。こんなに強いんだから。
「怖いでしょう?諦めたくなった?」
「いや、別に」
「……諦めてよ。まずなんでアンタ私の婚約者になりたいのよ」
「なりたくはないけど」
「はぁ!?じゃあ最初からそれ言いなさいよ。何が目的なの」
……最初から言いたかったんだけどなぁ。
「貴方の言う勇者、ルミリさんについて……っ」
名前を口にした瞬間、首元にユンナさんの手が当てられた。怖い。この手、すごい魔力を帯びている。……超特大を切ったのもこの手だろう。
「なにアンタ……怪しい。何が目的?ルミリについて何を知ってるの」
「俺はルミリさんの義理の妹の子と友達でその子が帰りを待っているので少しでも行方を知りたくて」
「……嘘、とは言わないけどそれだけじゃないでしょ。勇者なのに魔王を放って人探しの為にわざわざ婚約者候補になろうとするなんて普通じゃない。それもその強さなら魔王なんて直ぐに倒せるでしょ?それとも新しい魔王はアンタでも倒せないような化け物?」
……む、こうなるから勇者って伝えたくなかったんだよ。多分、隠せない。信じてもらえるかはわからないけど繰り返している事をいい感じに伝えるか。
魔王を倒しても繰り返す。大魔王がいてそいつを倒すことができない。1度運良く倒せたけど、それでも繰り返していると。過去の勇者もそうだったのか知りたい。
俺はそう伝えた。
「繰り返してる……ね。そうだから強いのね。で、ルミリもそうだったか知りたい。……そんなの私が知りたいわよ!ルミリが繰り返してたかなんて分かるわけないじゃない!」
あ、一応信じてはもらえたみたいだ。
「他にもルミリさんがどんな人だったかも教えて欲しいんです。俺は、この旅の中でルミリさんの事も探しているから情報が欲しい」
「まぁ、私もルミリの事は見つけて欲しい。だから教えてあげる。ルミリはね世界一優しくて、ワガママで、カッコイイ男よ」
……好きなんだなぁ。
「まぁ、強さで言えば私の方が上だったんだけどね」
「ユンナ様は強いですよね。それも特別な力を持っているとか」
ボコラレールが言ってた事だ。正直にこれは気になる。
「そう、私は召喚士の中でも変わってるの。特別な力……まぁ呪いみたいな物だけど。本来召喚士は様々な空間にいるその人物の魔力応じた生物を呼び出して使役する。けど私の場合は魔力の代わりに自分を依代にして召喚する」
「自分を依代に……」
だから今も龍種の何かを召喚しているという事なのか。
「そう、魔力も関係無いから召喚する生物に制限も無い。それがどんなに強い神獣であろうと。まぁ強ければその分身体にかかる負荷が増えて召喚時間も減るけど」
「……その割にはずっと憑依させてますよね。体力どうなってるんですか」
試練が始まって今に至るまで。それも最初の試練と時には森全体をカバーできて強敵すら一撃で倒せるような存在を。……下手をすれば状況によって使い分けていた可能性すらある。
「体力の心配なんて要らないわ。ずっと鍛えてきたから。それに私、綺麗な顔してるから素顔を見せてアンタに惚れられたくないの」
「……惚れないが?」
「む、生意気。……まぁいいわ。それよりもアンタに言っときたい事があるの」
ユンナさんの顔は真剣なものになる。
「ルミリが消えた時の事を―――」




