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勇者様は抑えられない!〜世界を救う勇者は好きに生きる〜  作者: ゆずリンゴ
第2章

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取り戻す(3)

「―――ふぅ……ようやく、目覚められた」


 結晶が割れて現れたソレは高い声でそう呟く。


 その姿は小さな少年で、白髪、もしくは銀色の短い髪を生やしている。肌の色はくすんだ灰色をしている。


 頭上には禍々しい赤く染まった角を生やし、目は糸目、まるで閉じられている……ように見えるほどに細い。


 何よりも、ソレは異常なまでの禍々しい力をその体から発していた。魔王の全てを呑み込むような闇をも圧倒する。


 普通の人間なら彼を目の前にすれば逃げるという考えよりも前に自然と頭を垂れてつくばうだろう。



「……あ、おはよう!初めましての君たちに自己紹介をしよう。僕は……そうだな、大魔王って言えばいい?まぁ、名前は別にあるけど……キミらはそう呼んでたよね?」


 ソレは、余りにも普通に近い距離感で勇者たちに接してきた。


「ちょっと、せっかく目覚めたのに無視しないでよ!寂しいじゃないか。それに僕に剣を向けるって……"死にたいの"?」


 異様なソレに剣を向けていた勇者だが、身体は石になった様に、動かない。そして代わりに頭に浮かんでいた言葉を口にする。


「お前はなんなんだ」


「だ、か、ら、僕は大魔王だって!脳みそが働いてないの?……まぁ、せっかくの復活で今は機嫌もいいから許そう。正確にはルシフェル……天使だよ」


「天使……」


 勇者はその言葉に息を飲んだ。

 当然だ。世界の創造主である神の遣いは本当に次元の違う存在。それが大魔王として立ちはだかっているのだから。


「まぁ堕天だてんしたから堕天使だけど、本当に嫌になるよ。反逆したからってカイサルの奴……あ、カイサルは元友達?同僚?なんだけどさ、神のためだーってソイツに地の果ての更にその奥底まで叩き落とされたんだよ。おかげで地上に戻る為だけで力を使い過ぎて結晶化に至ったわけ。僕って可哀想でしょ?」


 この内容を聞いて、誰もが「は」と思う。

 自分ばかりの偏った発言。その内容を理解する余地はない。


「しかも地上に戻れば下等生物共が群がってくるこの始末。僕のことを大魔王とか言って敬ってからさ復活に利用した訳だけど。結晶のままだと動けないし、代わりに力を集めさせてたの。…でもさぁ、あいつらのほとんどがまともに力を集めてこなかったんだよねぇ!四天王?とか言うやつらは無能ばかり。

『人が集まってる所に行く』と言った2人は帰ってこない。力の塊のエリクサーも誰かに取られちゃったらしくてさ。……ふざけてるよね。君もそう思わない?」


 ソレは、勇者に親しげに話しかけた。


「無視?まあいいや。見たところ、君達って凄い強いよね!四天王なんかよりもずっとさ!1人は魔王以上、それ以外は魔王には及ばすともさっき吸い取った奴と同等以上には強い。このまま君らを吸収してもいいんだけど……こんな提案はどう?僕の配下になるとかさ」


 ソレは、純粋な子供のように閉じられたような目を輝かせて提案をする。


 しかし、ソレの提案に対して誰1人、返答することを出来ないでいる。怯えているからか、乗り気でないからか。


「……無視ってことは了承として受け取っていいのかな?まぁ、いいよね?うん!」


 ソレは1人で納得したようにしているが……。


「……く……ない」


「ん?どうしたの?」


「よく……ない!」


 勇者は、言葉を振り絞った。


「あぁそうなの?でも僕としては仲良くしたいんだけどなぁ。特に君なんて……僕と似ている気がするんだよね」


「……似てる?そんなことない!」


 ソレの言葉に勇者は否定の言葉を投げかける。


「……いいや、似ている」


「―――違うよ、勇者は……貴方となんて、似てない」


 怯えていたが目の前の化け物の言葉を認めることはできないフィリが否定した。


「フィリ……」


「え、なに?君たちいきなり喋るじゃん。それならもっと早く反応して欲しかったな」


「……あぁ、お前のような存在と勇者は似てないな」


「ソルドさん」


「言ってなよ。いつか分かるさ、僕の言ってる意味。似てるってことがね。認めることになる」


「いーや来ないね!勇者様とお前のどこが似てんだって話だ!」


「ビルさん……」


 最初に立ち上がった物に感化された。最早勇者達は誰1人、目の前の脅威に怯えてはいない。


「そう、僕は嫌われてるみたいだね。でも、僕が君たちに何をしたと言うんだい?」


 ソレは、首を傾げている。


『嫌われることやってるんだよ!このルシフェルには記憶ないけど。……あの結晶形態のお前に既に何回も殺されてるんだよ』


 自分の記憶をじっと見ていた方の勇者の怒りにも触れたらしい。


「まぁさ、こっちの話を聞いてよ。そうだ、こういう時は目線を合わせないとね。だから……そっちが合わせてね」


 ▶ルシフェルのグラビティ

 勇者達は、まともに立つことが出来ない


「ッ……」


 あまりにも思い圧をかけられた衝撃で、勇者の呻き声が漏れる。


「それじゃあ対話をしようか……まず―――」


 そうして、ルシフェルが話を始めようとした時だった。


「……これは一体、どういう事だ?メランは

 ―――ッ!この気配……何者!?」


 ▶魔王が現れた

 魔王はルシフェルを前に、警戒を示している


「もぉー邪魔が入った!プンプン!って、魔王じゃん。……この姿で会うのは初めてかな?」


 奥にある玉座でゆっくりとメランの報告を待ち構えていた魔王が遅れてやってきた。


 最大限の威嚇はしていたようだが、圧倒的強者を前にして、彼はいつの間にかひざまずいてた。


「もしかして貴方は、いえ貴方様が大魔王様……それが真のお姿なのですね。私の無礼なる態度、お許しください。ところで、先程からメランの気配が見えなくなったのですが、まさかその人間共に?」


 魔王は勇者たちの方に殺意を向ける。


「メラン?多分さっき吸収したアレかな。それなら答えはNOだね」


「大魔王様がメランを?」


「うん。そう言ったよね?吸収したって、君も話を聞かないタイプ?それとも身体の中で永遠に生き続ける〜みたいに言って欲しい?」


「なぜ、メランを……私達はあなたの為に尽くしてきたというのに!私たちを裏切るのですか!」


 魔王からその言葉を聞くと、ルシフェルは少し、イラついたような顔へと変わった。


「尽くしてきた?裏切った?……何を言っている、僕の力を使ったのも、大魔王とか言って敬ってきたのも……僕が強制した事じゃない。君たちが勝手にして、君たちが決めたことだ。それで責められるのは納得がいかないなぁ。それに、最初から僕の目的は力を取り戻すこと。協力したのが下等生物の君たち。むしろようやく僕の復活のために働けた事を誇るべきだろ?」


「……ふざけるな!私達はあなたの道具じゃない!あなたを信じてきたというのに……我が同胞メランの恨みここで晴らさせてもらう!」


 魔王は怒り、そしてルシフェルへと闇魔法を放つ。しかし、それは養分として消えていくだけだ。


「……本当に、勝手だ。お前らの理想を押し付けるな。元より僕を大魔王じゃない。……ルシフェルだ」


 ▶ルシフェルの|deathpenalty 《身勝手な罰》ルシフェルの放った雷に当たると、魔王の姿は弱々しい容姿の白髪低身長美少女へと変貌した。


「なっ、私に何をした!」


 甲高い、それでいて幼く可愛らしい声で魔王が声をあげた。


「可愛い見た目にしてあげたんだよ?さっきはムカっと来たけど……君は多少役に立ってくれたから僕の傍に置いてあげようと思って。君は可愛くなれて、僕は可愛い君を傍に置ける。君も幸せ、僕も幸せだね」


『ムカつくけどルシフェルいい趣味してるな。でも、肝心の中身があの魔王じゃねぇ……』


「屈辱だ……こんな姿になるくらいなら死んでやる!」


 そう言うと魔王は魔法を自分へと放とうととするが……何も起こらない。


「何もでない?」


「ははっ!当たり前じゃん。だって君の力は僕が既に奪ったんだから!ただ可愛いだけの見た目になれるとでも?相応の対価くらい貰うさ」


 自分の非力な状態に言葉を失った魔王を前にルシフェルはニタニタと気持ち悪い笑みを零したあと、体を床に這いつくばらせたままの勇者達の方を再度向いた。


「……てか、魔王きみの相手してる場合じゃないんだった。放置してたから重力耐えられなくて倒れちゃったね。ごめんね?」


「……」


 お気楽なルシフェルを前に勇者も、また誰も言葉を言葉を発せなくなった。


 それは、先程までの力量でも圧倒的だった力量が、魔王の力を吸い込んだ事で桁違いの物となったからだ。


「また無視するの?じゃあ、勝手に話すね。まず僕は地獄まで落としたアイツらに下克上をするために力を集めてるんだよね。で、ようやくこの身体に戻ったんだけど、まだ3分の1程度の力も無いの。それで、これから色々吸収してもっと身長が高くてカッコイイ完全体の僕に戻ったらクソみたいな神とカイエル達に下克上に行きたいと思ってて。

 ……え?その顔は『なんで無理やり僕たちを吸収しないの!優しすぎるぅ』って言いたいんだね。仕方ないなぁそこまで言うなら教えてあげちゃう!君らは確かに強いんだけど,君たちを吸収してもあんまり効率は良くないの。だったら一緒に下克上する仲間にした方がいいかなって。優しさだよね。さ、ここで改めて聞くよ。僕と手を組まないかい?」


 あまりにも一方的な、長すぎて気分も悪い提案。


 ルシフェルはしゃがんだ状態で勇者に手を伸ばした。


「……」(バシッ!)


 しかし、それを勇者は跳ね除ける。


「んー、これは了承ってことでいいの?」


「ち……が」


 勇者はどうにか声を出す。


「また違うのか。君は冷たいなぁ。そんなに僕が嫌いなの?僕が直接君たちを傷つけたかい?いや、現在進行形で傷つけてるか!でもさ、先に襲おうとしたのは君らでしょ?逆恨みしてるの?それとも、魔物に襲われたから僕の事も嫌いなの?」


 ルシフェルは、勇者達を理解できずに、首を捻りながら1人喋り続ける。


「でもさ僕は魔物じゃないよ?それに魔物が暴れてるのだって僕じゃなくて操ってた魔王のせい。僕の力で勝手に魔物が強くなってたり凶暴になってたりするけど。そうか!魔王だけいなくなって凶暴になった魔物が無制御下で暴れる方が危険だよね。うん、僕を殺せればそれは解決するし殺したいのも納得!

 でも君らなら魔物程度は脅威じゃないだろう?僕自身も悪意をもってやってる訳じゃないのに、君らの『エゴ』で殺されないといけないなんて納得いかないなぁ!」


 またしても、長すぎる話だ。


『こっちは幸せになりたいんだよ。勇者としてやるべき事を終えて、平和になった世界を生きたい。お前ら天使とか神の事情に巻き込まむな!』


「あー、もうぐったりだねー。仕方ないからこれ以上はやめてあげるよ」


 ▶ルシフェルは魔法を解いた


「楽になった?じゃあ仲間に―――」


 魔法を解いた時、既に勇者以外の息の根は途絶えていた。


「なら……ない。この……ク……ソ、や……ろう」


 それだけ言うと勇者はありったけの力を使って、自分に対して、ありったけの魔法を姿形残らぬように放つ。


 ▶勇者は、自害した


『こんなのと一緒にいたくはないんだよ。……はぁ。最悪な光景を見せられた。それに、我ながら死ぬのに躊躇ないなぁ。多分夢も終わりが近い。次は……どうなるか』


 そして、場面は再び、変わる―――


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