寒い場所で熱い夜を過ごす
「―――といった感じで、まぁ……初めて魔王に出会ったんだけど負けました」
勇者は目を閉じて項垂れながら語っていた。相変わらず勇者の感情は読み取れないか。いや疲れているのか少し眠そうにしている。
「それからちゃんとやり直して魔王倒して、でも大魔王に負けて……またやり直して、最後には大魔王も倒した。めでたしめでたしってね」
勇者は大幅に話を省略した。話し疲れたのだろうか。
「あら勇者様?……いきなり話を飛ばしすぎじゃないかしら」
流石のやり方にマネは疑問に思ったらしい。
「お師匠!もっと話聞きたいです。たとえば私が旅に着いて行った時はないんですか?」
「まぁ、リウと一緒に行ったのは今回が初めてでは無いよ。だからあるには、あるんだけどちょっと詳しくは……ねぇ?」
勇者は少し気まずそうにしている。
「勇者……?もしかしてリウと……ヤっ―――」
「ってないです!大切な仲間に手を出す男じゃないんですぅ!ほら、俺って真面目だからさ」
フィリから出たとんでもない発言。流石の勇者も大慌てで否定する。
「……お師匠、一回もないんですか?」
リウは目は純粋だ。意味をよく理解していないのだ。
「まぁ、色恋沙汰は良くないですからね。ないです。はい」
勇者にはそう出来ない理由がある。
「ふふ、けど女の子ばかり選んだ勇者様が言うと何だかおかしいわね」
マネは微笑んだ。
「おかしくないって。ほら、話聞いてて俺が真面目なの分かるでしょ?」
「確かに、昔のお師匠と今のお師匠だと色々違う気がします」
「時間が勇者様を変えてしまったのね」
「私は……昔の勇者も今の勇者もどっちも好きだよ」
「好きだななんて直接言われると照れるなぁ」
勇者は少し照れている。
「私もお師匠好きです!」
「……そうね、私も嫌いではないわ」
「俺も皆のこと好きだよ。……そういえばさ、マネに限っては地味に一緒に行くの今回が初めてなんだよね」
「あら、そうなの?」
勇者は頷いている。
「マネと一緒に行ったことあったら絶対覚えてるし、間違いなく今回が初めて。マネと会話するのに必要なものがさあれだから……ねぇ」
リウとフィリはその説明を理解できないが、本人は理由を察した。
「まぁ、そんな感じかなぁ……やっぱこうして振り返ると色々と懐かしい。《《次から》》も頑張れそうだ」
勇者の言葉に3人は顔を曇らせる。
「最後にさ、みんなにお願いがあるんだ」
勇者は真剣な顔で3人を見る。
「お師匠の頼みなら!」
「まぁ、内容次第かしら」
「聞くよ」
それに3人もまた、応えたいようだ。
「俺と一緒に寝てください!」
そして出た勇者の言葉に3人はポカンとしている。
「寝るってどういう寝るかしら?」
「お師匠!もしかして修行ですか?」
「……いいよ」
やはり勇者は勇者なのか。何もかも抑えられい。
「いや、寝るは寝るでも、普通に添い寝的な?一緒に寄り添って寝たいなぁって。ほら、ここ寒いし」
違ったようだ。
勇者は泰然とした様子で答える。
「……なんだか、普通ね」
「普通です!」
「普通……だね」
「だから、俺真面目だから!……でも、もうちょっと欲張ってもいいかな?たまにはね。俺……皆に抱きしめられたい!」
勇者がそう口にすると―――なんと、3人は勇者の言う通り優しく抱きしめてきた。
「ほら、どうぞ?」
包容力のあるマネが勇者を右側から包み込むように抱きしめた。
甘く妖艶な雰囲気のマネ。
「ムギュー!お師匠、気持ちいいですか?」
まだ大きく座絶を経験しない無垢な少女。
リウは恥ずかしがる事なく勢いよく背後から手を回して抱きしめた。
「勇……者、好き……だよ」
そしてフィリは大切な勇者に甘えるように、正面から顔を埋める用に抱きしめた。
記憶には無いはずだが、誰よりも勇者と一緒にいた美しい少女。
「……あぁ、物凄く甘い。あーーーー!すっごい幸せだ」
極楽浄土と言ってもおかしくは無い状況だ。勇者の顔は溶けてしまってもおかしくないだろう。
「勇者様、どうかしら」
「お師匠の身体、安心します!」
「勇者……」
間近で3人の声が溶けて入る。
「……これは凄く、あれだ。なんか自分で頼んだけど流石に恥ずかしい」
「珍しく照れてるのね」
「ふっふー!私が満足するまでお師匠は離しません!」
「勇者、私のこと……すき?」
勇者は赤くなっている。しかし流石は勇者か、意識を手放さずちゃんと言葉を返そうとする。
「好きだよ。いや、でもlike的な……うん。皆のことlikeで好き……likeだから」
「私はLove……だよ?」
「私もLoveです!」
「私も好きよ。……もちろんlikeだけど」
「Love……Loveってさぁ。うぅ……。嬉しいけど!やめて、照れ死ぬ。魔王倒す前に死んじゃうから!」
勇者の限界は近い。雪が溶けてしまいそうになっている。
◇
「幸せで人は死ねる」
今の勇者は自分を賢者と名乗っても許されるだろう。その境地に達していた。
「2人とも、やりすぎね」
「でも、幸せでした!」
「私は、もっとしたかった」
特にナニがあった訳でもない。ただ長い間抱きしめていた結果、勇者は限界を迎えたのだ。
「もうダメ!これ以上は眠れなくなる。いや、本当に」
「お師匠!朝までコースですか?」
勇者の言葉はフリだったのか?
「違います!勇者様は健全なんです!もう……寝る!ふて寝します!」
フリではないのだ。
「そうね、じゃあ勇者様横たわってくださる?」
「あぁ、そういえば添い寝したいって言ったの忘れてた……うん、添い寝タイムだ!」
マネに促されるまま、勇者は横たわると、両脇にリウとフィリが転がる。
「……あれ、マネは?」
「それじゃあ、リウの隣に行こうかしら」
「……あぁそっか」
勇者の横は既に空いていない。今この時、勇者のこの世の摂理を恨んだだろうか。
「うん、それじゃあ……また明日。おやすみ」
勇者は目を閉じた。
「勇者……おやすみ」
「お師匠、おやすみなさ〜い」
続いて、フィリとリウが目を閉じる。
勇者は、眠りについた。
そして、回顧する事になる。あの日の事を―――




