戦え!真夏の決戦
そうして始まった勝負の内容は簡単な4対4の球投げ勝負。コート内の外に2人ずつ配置され、互いに相手チームを狙い1つのボールを投げ合う。内野でボールに手に取れないで当たれば外に出る。内野が先に居なくなった方の負けというルールだ。
「速攻で終わらせる」
「それはどうかな」
勇者とナンパ男の視線がビリビリと交わる。
勇者の瞳に油断は無い。
「よーし頑張るぞぉ!」
内野には先程まで泳いでいたから状況を理解していないリウと勇者の2人が立っている。
一方でナンパチームはナンパ男と体格のいい連れが内野だ。
「先行は君たちに譲ろう。年長者の優しさだよ」
ナンパ男は勇者たちを舐めているようだ。
勇者にボールが手渡される。
「行くぞ!」
勇者の一撃が放たれる。
▶勇者の体格のいいナンパ男への攻撃
体格のいいナンパ男は吹き飛んだ。
「まず1アウト」
「凄いとんだねぇ。勇者って言うだけの力はありそうだ」
ボールは外野にいるマネのものとなった。
マネは内野の勇者達に向けてボールを投げた。
「ナイスパス。ありがとうね」
しかし、それはナンパ男に取られてしまったようだ。この男、調子に乗るだけあって実力はあるらしい。
「女の子に球を当てるのは忍びないけど……っと」
ナンパ男の球がリウの方へと飛ぶ。しかしそのスピードは比較的緩やかだ。
「こんなボール簡単に取れ───」
「危ない!」
リウがボールを受け止めようとした所で勇者が割って入った。
「お師匠?今のなら私でも受け止められ……」
「いや、厳しい。ほら」
そう言って勇者は真っ赤になった手のひらを見せる。
「お師匠……その手どうして」
「あいつ魔法でボールアチアチにしてたんだ。頭おかしい奴」
「あはは、魔法を使っちゃいけないなんて言ってないからね」
それから勇者とリウ、ナンパ男との試合が続くが中々に終わらない。勇者の最大限のボールも交わされるか取られるかしてしまう状況が続き遂にはリウもボールを当てられてしまった。
「悔しいです……フラッシュを使われなければ当たらなかったのに」
「あの人……やることがズルい」
「ただ、実力も確かよ。勇者様のボールを避けるだけじゃなくて取れるなんて普通じゃないわ」
パーティにとって勇者が苦戦を見せる姿はこれが初めてであった。だからこそナンパ男がただのナンパ男では無い事を理解する。
「中々終わらないなぁ。……うん?」
ナンパ男がそう言葉を漏らした時である。ビーチから悲鳴が響く。
「キャアー!魔物がでたー!」
「怪物だぁ逃げろー」
「やべぇめっちゃデケェ……」
海に魔物が出たらしい。
「クーラクラクラ!積年の仲間を焼かれてきた怒りを晴らすーケン!」
「あれはクラーケン。おいナンパ男!勝負は一旦辞めるぞ」
「そうだね。事態が事態だ」
緊急事態に勇者とナンパ男が手を取り合った。
「やられたクラァ〜」
そしてクラーケンはやられた。
「ふぅ、中々の強敵だった。さすが伝説の魔物クラーケン」
「……君、本当に強いんだね。本物の勇者みたいだ」
共闘したことでナンパ男も勇者の事をようやく認めたのか、見る目がどこか穏やかに変わっている。
「最初からそう言ってるじゃん」
「……さっきの勝負、僕の負けだ」
「急にどうした」
「なに、さっきのを見れば君が本気を出せていなかったのは明白だ」
勇者はナンパ男が無事であるよう出せる最大限で戦っていた。
「……本当に新しい勇者が現れたなんてね」
そう言うナンパ男の目はどこか遠くを見ていた。
◇
ナンパ男達と和解をするとビーチはすっかり日が落ちていた。先程まであった肌を焼き付けるような光が無くなり静かな空気が辺りを漂う。
いや、なにやら香ばしい匂いも漂ってきた。
「わぁ、フィリちゃん凄いね!あの大きな魔物がこんな簡単に焼けるなんて。火加減もバッチリ」
「ふふ、魔法なら何でもござれ……だよ」
「かっこいいねぇ」
そんな2人を見ながら勇者が一息つく。
「なんか……大変だったなぁ」
「そうね。でも今日の勇者様中々にカッコよかったわよ」
「まぁね。とりあえずマネが奪われなくて良かったよ」
「……あのナンパ男、何者だったのかしらね。冒険者じゃ片付けられないような強さだったけど。……あら、勇者様ご飯できたみたい」
切り分けられたクラーケン。量も多いので他のビーチにいた人らも含めその場はちょっとした祝い事の席のようになっている。
街から野菜や肉も持ってこられて、フィリとナンパ男が火役のBBQだ。
「美味い!さすが幻のクラーケン」
「勇者、こっちのお肉も美味しいよ。ほら……あ〜ん」
「あ、あ〜ん」
▶フィリのあ〜ん
勇者は恥ずかしそうにしている
「リウ、ほら野菜もちゃんと食べなさい」
「だってクラーケンが美味しくて……ん〜」
マネがリウの口に野菜を入れる。
「ん、うん……あれ?そう言うマネちゃんも野菜食べてないじゃん!」
「ほらリウ、もっと食べて」
「んんっん〜〜!!」
そうして楽しい時間が過ぎていくとナンパ男が勇者の方へと寄ってきた。
「やぁ勇者君。楽しそうだね」
「なんだナンパ男」
勇者はナンパ男は好きになれていないようだ。
声に嫌悪感が混じっている。
「ちょっとあっちの方で話さない?2人きりでさ」
「……はぁ?」
「勇者である君と話したいんだ」
勇者はナンパ男に渋々ついて行った。
周りには人が居ない木の影になった場所だ。
そこに立つなりナンパ男は真剣な顔になる。
「魔王を倒す旅、良ければ僕を連れて行ってはくれないかな?」
「無理」
勇者は普段通りの顔で言った。
「君が求めてるのは強さじゃないんだね。……それもそうか。魔王を倒すのなら君一人で事足りるだろうから」
「ナンパ男、お前は何者なんだ。……予想は元勇者パーティなんだけど」
「正解。よく分かってるじゃないか。それとナンパ男呼びはやめてくれないか?僕にはマティスという立派な名前があるんだ」
ナンパ男、基マティス。彼は続けて話す。
「勇者の君にどうしても聞きたいことがある。……魔王を倒した時、君も消えるかい?」
「質問の意味が分からない」
「今から13年前の事だ。僕がまだ15の頃。魔族による大きな進行があった。本来魔王が現れるた時点で神によって勇者になる人物の天啓を受けるのは知っているね?……ただこの年はそれが6年遅くてね。今はほとんどが復興したけれど色々な街が大きく被害を受けた。当時の魔王は歴代でも強い部類だったし。でもそれを勇者は現れて2年で倒したのさ」
「へぇ」
「その2年の旅に僕は彼の唯一の仲間としてついて行った。中々に信頼された関係だったとも思うよ。けどね、魔王との決戦を前に僕は置いて行かれたのさ。前日の夜。共に勝利を約束したはずが、朝起きれば魔王は討伐されていたんだ」
マティスの顔が暗く沈む。
「そして勇者もまたあれ以降姿をくらませた。理由は分からない。ただ何か特別なことが起こったのは間違いないんだ。だって彼は決して最強ではなかったから」
……。
「いや、人よりも早く強くはなったかもしれない。それでもアイツは、ルミリは、一人であの時の魔王に敵う程じゃ無かった!……勇者、君らは消えないといけないのか?」
感情を露わにして話すマティス。しかし、勇者は落ち着けと肩に手を置いた。
「そんな事は無い。少なくとも歴史上の勇者が皆消えてるならもっと噂になってる」
歴史上、魔王討伐後「生きて消えた」勇者は二人。むしろマティスの言うパターンの方が少ないのだ。
「……そうだな。その通りだよ。君には変な事を聞いてしまった、すまない。仲間たちの元へ戻ろうか」
そう言ってマティスは踵を返した。
「マティス」
しかし、勇者が言葉を漏らしてしまう。
「どうかしたかい?」
「勇者は消えていない。きっとまた会える」
「……あぁ、そう言って貰えるとありがたいよ」
元勇者パーティであったマティスと話した勇者。彼の旅もまた終わりが近づいている。




