5.光援者ってなに?
「ダッハッハ! 冗談だよ、冗談! そんな顔すんなって!」
俺をからかうように笑うアレガルト。
いや、子どもの前でする冗談じゃねーだろ。
俺は内心で深い溜息を吐きつつ、話題を変えることにした。
「ところで、さっきから気になっていたんだけど、二人の職業はなんなんだ? 特徴的な格好をしているけど」
改めて二人の姿を観察する。荒々しい獣の毛皮を纏ったアレガルト。清潔感ある受付嬢のような見た目のロネッカ。どう見ても一般人には見えない。
「お、よく聞いてくれたな! やっぱり気になるよなぁ!」
待っていましたと言わんばかりに、アレガルトが身を乗り出した。
「俺様たちの職業。それは世界の平和を守るという使命を背負いしもの……」
もったいぶるように一度言葉を区切るアレガルト。一呼吸置くと、決め台詞のように言い放った。
「その名も——『光援者』だ!」
「…………光援者?」
初めて聞く言葉に首を傾げる。男は「決まったぜ!」というドヤ顔を見せているが、こちらにはなにも伝わってきていない。
「そうだな。言い換えれば、勇者やヒーローのようなものだ」
俺の戸惑いを察したのか、ロネッカがわかりやすく補足してくれた。そのおかげで、ようやく脳内にイメージが湧いてきた。
なるほど。要するに、この世界における正義の味方ってことか。
「人々に『援』助の手を差し伸べる『光』のように輝く存在。それが光援者なんだ」
「へー、そんな職業があるのか。二人は光援者だったんだな」
俺は素直に感心していた。
完全にファンタジーの世界だ。異世界に来たという実感が、また一段と強くなる。
「……だがマサト。伝えておかなければならないことがある。俺様たちは、ただの光援者ではないんだ」
「ん? どういうことだ?」
「実はな、俺様は光援者に関する全権力を握っているんだ。つまり、すべての光援者の頂点に君臨する人間。……そう、最高光援者だ!」
「うそでしょ!? お前がトップなの!?」
驚きのあまり声が跳ね上がる。
「ダッハッハ! 目の前に本物の最高光援者がいるんだ。そりゃ驚くよなぁ!」
「ちげーよ。こんなノンデリがトップなことに驚いてんだよ」
何自惚れてんだ、このオッサン。
こんなやつが組織のリーダーとか終わってんだろ。誰がこんな奴についていくんだよ。
「そして私は、そんなパパをサポートする補佐を務めている」
横からロネッカが、淡々とした口調で言葉を添えた。
「あっ、そうだったのか。二人はそういう関係でもあるんだな」
夫婦でもあり、リーダーと補佐の関係でもある。お互いに支え合っているわけか。
「でも、よかったよ。ロネッカみたいな真面目な人が補佐で」
「真面目だなんてとんでもない。だって私の裏の顔は、パパの命を狙う暗殺者なんだからな」
「うそでしょ!? あんた暗殺者なの!?」
声が裏返る。裏返るに決まっている。
なんか、とんでもない爆弾発言でたぞ!
「パパを暗殺し、最高光援者になる……。それが私の夢なんだ」
ロネッカはどこか陶酔した瞳で、ポエムのように語っている。
やばい! 急にロネッカが怖くなってきた! もしかして、アレガルトよりやばい奴か?
「だからって殺しはダメだろ……。てか、暗殺者だって普通に喋っちゃってるけどいいのか?」
「はっ、しまった! つい口を滑らせてしまった!」
「いや、ドジってレベルじゃねーだろ……」
咄嗟に口元を両手で押さえるロネッカ。どう考えても手遅れだが。
想像以上のドジだな……。暗殺者が自分から正体をバラすとか聞いたことねーよ。
「ママが暗殺者……?」
アレガルトが、ギチギチと音をたてるかのように首を動かす。
やはり聞かれていたか……。ロネッカの顔から血の気が引いていく。口を覆う手も、小刻みに震えている。
部屋に緊張が走る。一体、どうなってしまうんだ……。
「ダッハッハ! こんなドジな人間が、暗殺者になれる訳ねーだろ!」
「やっぱりママにもノンデリだった!」
こいつ、全然本気にしてないわ。……まあ、いきなり暗殺者だって言われても信じられないか。
でも、ママにもノンデリを突き通すんだな。しっかり筋が通っていて、逆に清々しい気分だわ。




