4.ノンデリとドジ
「それじゃあ、始めようか」
テーブルを挟み、向かって右に男が。左に女が着席した。
「まずは、俺様たちの自己紹介からだな。俺様の名前はアレガルトだ」
さっきから失礼極まりないこの男は、アレガルトと名乗った。
アレガルト。名前の響きはかっこいいな。力強さと威厳を感じる。それに見た目とも合っているしな。……でもずっと気になっていたが、一人称、俺様はダセェだろ。
「私はロネッカと申す」
隣の女性はロネッカ。
ロネッカさんは間違いなく良い人だ。席に案内してくれたり、お茶を用意してくれた。……まあ、結果的にアレガルトが淹れたが。
「初めまして。フジムラマサトです。アレガルトさんに、ロネッカさん。よろしくお願いします」
俺はロネッカさんに対しては、感謝の気持ちを込めて深めに会釈をした。
すると、なにか気になった様子のアレガルトが口を開いた。
「ダッハッハ! おい、マサト。律儀にさん付けなんてしなくていい。それに話すときもタメ口にしてくれ。喋りづらくてしょうがねーからな!」」
「それもそうだな。私からもお願いだ」
ロネッカも、アレガルトの言葉に賛同するように静かに頷く。
「えっ、本当ですか?」
突然のお願いに、俺は少し驚いて聞き返してしまった。
目上の人に、いきなりタメ口にするのは抵抗がある。だが正直なところ、敬語を意識しながら会話するのは思いのほか神経を使う。
せっかく二人から歩み寄ってくれているのに、変に遠慮して壁を作るのも逆に失礼か。……よし、ここは素直に受け入れよう。
「……じゃあ、お言葉に甘えてタメ口にさせてもらうわ」
「あっ、本当にすぐにタメ口にしちゃうんだ。お前なんか感じ悪いなぁ」
「なんだこいつ」
早速、俺の口からタメ口での怒り炸裂する。
オメーがタメ口にしろって言ったんだろーがよ。敬語を使えば「喋りづらい」、タメ口にすれば「感じ悪い」。完全に詰んでるじゃねーか。てか、こいつさっきから俺のことで遊んでいるよな?
「もう、パパったら意地悪しないの。マサト。さっきから私のパパが迷惑をかけてすまない」
ロネッカは申し訳なさそうに眉を下げながら、こちらに向かって頭を下げてきた。
「パパは優しくて良い人なんだが、無神経なところもあってな……。だから時折、デリカシーのない発言や行動をしてしまうんだ」
「あー……、そういうこだったのか。さっきから失礼な奴だなぁって思ってたんだよ」
理由が分かり、胸の奥に溜まっていたモヤモヤが晴れていく。
俺の見てヒョロガリ発言、強すぎる握手、いきなり裾を引っ張る行動、タメ口にしたら嫌味。全部、悪意があってやったわけじゃなかったのか。
「すまないマサト。本当に申し訳ないと思っている。でも、しょうがないんだ……。だって俺様はバカだからよお!」
「自分にもノンデリなのかよ」
自分の知能が欠如していることを、誇らしげに語るアレガルト。でも、ある意味平等なのかもしれない。誰に対しても等しくデリカシーがない。全方位ノンデリ野郎だ。
「でも俺様からも言わせてくれ。そういうママはとんでもなくドジなんだ。さっきお湯を沸かし忘れていただろ? あんなの日常茶飯事なんだぜ」
「え、そうなのか? それは意外だな」
お湯を沸かしていなかったのは、わざとじゃなかったのか。
氷のような美貌、冷静沈着な物腰。でも蓋を開ければドジ属性。そのギャップに驚くが、逆に人間味があり親近感がぐっと高まった。アレガルトに比べれば全然マシだ。
「私は決してドジではない。たまにちょっと間違えちゃうだけだ」
ロネッカは、少し拗ねたように唇を尖らせながら反論した。
「まあでも、そういう素直にドジを認めないところが、たまらなく可愛いんだがな」
「……まあ、私もそうやって正直に可愛いと言ってくれるパパが好き」
見つめ合う二人。お互いの瞳がとろけていく。空間もむわっと熱を帯びる。
ん? なんだこの空気……。あの、俺ここにいるんですけど。
「すまないマサト……。小一時間ほど部屋を空けてくれないか?」
「話はどうした、話は」
俺は冷たい視線を送りながら、机をバンバンと叩く。
なに、おっぱじめようとしてんだ、こいつら。




