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アスフィ1  作者: Tonke
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1章 隣り合う区画

相変わらず前を歩く二人の傘と灰色の道路を眺めながら下校していた。これ僕居なくても同じだ。遠くの景色が小さく揺れている。晴れているのは空だけだった。

「そういえばダンの作品入賞してたよな」

突然自分の名前が聞こえて、慌てて話を聴く態勢を整えた。普段は見下しているのに、夏休みに作った化石ゲームが表彰されたことを褒めてくれた。

「あ、ありがとう。」

化石ゲームとはレトロゲームよりもさらに古いゲームのことで、大昔は大人が複数人で作成していたそうだが今では小学生の自由研究のテーマの一つになっている。シューティングやRPGという伝統を踏襲しつつも至る所に散りばめたひねりが評価されたらしい。褒めてくれた褒めてくれた褒めてくれた...

「じゃあねー、また明日」「ばいなら~」「じゃあな」


「ただいまぁ」

クーラーの効いたリビングで母はせかせかと掃除をしていた。

「おかえり、今日学校どうだった?」

「普通だった」

入賞しても、褒められても、それをおくびにも出さず冷静にふるまうんだ。

「今日学校から連絡があってね、ダンちゃんが夏休みに作ったゲームを未来区にある美術館で展示させてくれないかだって。ママよくわからないから返事待ってもらってるんだけどどうする?」

展示は許可しておいて、と伝えるといそいそと自室へこもり、「クーラーつけて」とニヤニヤしながら声を張った。


数週間後、家族で例の美術館に来ていた。ケチ臭い父が行こうと言い出したのだ。他の子たちの作品を見ればいい刺激になるよと理屈をこねていたが、我が子の作品を見たいのが明け透けだった。いや別に、間違っちゃないんだけど、浅瀬でちゃぷちゃぷしているというか何というか。そんな失礼なことを考えている間に広大な展示場に到着した。近くの作品から手当たり次第に体験プレイしてみた。

緩んでいた顔がたちまちこわばる。高すぎる。レベルが。両親はよく分からないようで少し安堵してしまったが、化石ゲームなんて自分以外一つも無く、最低でもレトロゲームぐらいの作品がずらりと並んでいた。泣きそうになりながらも夢中で他の子のゲームをしていた。集中してないからすぐミスったけど、そんなことどうでもよかった。むしろミスをして不快になることを望んでいる自分もいた。

「ちょっとトイレ行ってくるからここらへんで待ってて」

そう言って両親に顔を見られないようにトイレの個室に駆け込んだ。


ボーっと座っていると早く出ろと人感センサーが消灯した。小さな井戸の中でカエルが泳いでいる光景が脳裏に浮かぶ。テキストでしか井戸なんて見たことないのに。しばらくすると肺の下の方の痙攣も、穏やかになってきた。将来は大海原(おおうなばら)に出て世界を見てやろう。握りこぶしをグッと上に持ち上げると無神経な光に包まれた。


時が経ち、大学の寮で一人暮らしをしていた僕は久々に帰省した。リビングでのんびりしている両親に水を差すようで申し訳なかったが真剣な表情で伝えた。

「就職先決まった。ビジェっていう会社」

その瞬間父が険しい顔で「分かった」と呟き、そそくさとトイレに行ってしまった。

「分かったじゃないでしょ。えーと、就職祝いしましょ、ね?どこか旅行にでも行こっか」

母は分かっていなさそうだったので腹にぐっと力を入れて声を絞り出した。

()()()の会社だから、その、少し忙しくなるかもしれない」

その直後、母はこの世の理不尽や不平等を一気にまくしたてながら「そんなところに行っても潰れるだけ」「身の丈に合ったところにしなさい」と延々(えんえん)に繰り返した。15分ほどリビングでは火山活動が続き、父がトイレから戻ったのは溶岩が固まった後だった。


未来区というのは俗称(ぞくしょう)で、特定の区画を指すわけではない。エリートたちが(しのぎ)を削る(きら)びやかな区画の総称である。そこに隣接する区画は過去区と呼ばれ、人やモノ、サービス、国の機能が密集している。100年前から暮らしぶりがあまり変わらない過去区に対して、未来区では新しい生き方が常に更新されており、栄えているかどうかの呼び分けは未来・過去となっている。大昔は未来区がウォール(がい)、過去区が都会と呼ばれていたそうだ。


「自分で選んだ道なら、パパは応援する」

帰り際、目尻の皺を深めながら父は控えめに笑った。

「……体に気をつけて。ちゃんとご飯は食べるのよ」

と母が続けた。もう引き返せない。

「顔見せるときは連絡するから。じゃあね」

日がすっかり暮れて少し涼しくなってきた寮への帰り道を歩いていると、どこからか美味しそうな夕ご飯のにおいがする。胸いっぱいに空気を吸い込むと、名残惜しく感じながらゆっくりため息をついた。


未来区での初日。入社式はオンラインだったが、ビジェ社は基本オフィスで業務をこなす。道路の()装は継ぎ()ぎが無く、光触媒の街路樹がずらりと並んでいる。空気がおいしくて、胸いっぱいに吸い込んでは勢いよく息を吐いたりしていた。社宅からオフィスまでは徒歩10分であり、その絶妙な距離感に感心してしまった。

エントランスの顔認証を通過すると、白を基調とする洗練されたデザインに囲まれた広いスペースが眼前に広がっている。行き交う人々は美(なん)美女だらけで、おまけに優秀そうである。これが未来人か、と視線を泳がせながら観察するが、見慣れないせいかみんな顔がほぼ同じに見えた。ここでやっていけるだろうか、と急に心細くなった。

「何か困りごとですか?」

通り過ぎると思っていた7人グループの内の1人が突然近づいて来て、しかし、潤いのある優しい声で話しかけてきた。

「あ、いえ、過去区から来たもので、緊張してしまって...」

「凄いですね!会場までご一緒してもいいですか?」

はにかみながら「はい」と即答すると、「みんなー、この方特認だって!」と他の6人を呼んだ。

過去人が未来区に来るには限られた方法しかない。僕の入ったビジェ社では特別認定技術士になるパターンのみである。僕は乾いた青春を送る代わりに未来区に足を踏み入れたのであった。

話しているうちに未来人たちは非常に利口なことに気づいた。一緒に過ごすだけで心が洗われる気がした。最初に話しかけてきてくれたイケメンはジョーという名で、その後間もなく自分と同じ部署で働く同僚だと発覚した。

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