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その災禍の黒賢者、実に身バレする  作者: 結城辰也
第一章 入学選定編
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第二話 客人の行方

 三人の客人が到着していないか気になり村長に逢いに行ってみることにした。村長の家は分かり易くやや大きかった。


 なんでも身分が高いと普通の家では無くなるらしかった、アスファ曰くだけど。私の知識はアスファ譲りだ。こうして居られるのもアスファが魔法の才に気付いてくれたお陰だと感謝している。孤児院育ちの私に生きる希望を与えてくれた。アスファは私にとって本当の命の恩人だ。


 そうこうしている内に村長の家に辿り着いた。扉を叩いても音が届かない部屋にいるらしくここは使用人に聞こえる程度にしておこうと思う。前はアスファと共に来たけどその時も使用人が出て来てくれた。使用人は実に親切な対応してくれたのを覚えている。その時に感じた気持ちは今も大切にしまっていた。


 使用人が来るまでの間、私はふと今日は晴れだと感じた。アスファが言うに晴れの日でも家に閉じこもらないといけないのは可哀想らしかった。そんなに村長という立場の人は忙しいのだろうか。今の私には分からない。ただ言えるのは――。


「どうかしましたか、セレナ様」


 私は下を向いたまま考え事に浸っていた。だから扉が開いて目の前に使用人が現れても対応出来なかった。どうやらほんの少し待たせたようで使用人は不思議がっていた。


「あ……なにも無い。村長はいますか」


 素ッ気無い態度を取ってしまった。まだ気がはっきりしていない。もう仕方が無いと感じ出来れば見逃して欲しかった。


「村長ですね。今は客人を受け入れる為に許可証を作る準備をしていらっしゃいます」


 滞在の許可証か。もしくは――。無駄な詮索は止めておこう。それにしても客人はまだ来てないか。到着したらまた来ようか。


「また来ま――」


 私が言い切る前に奥から足音がした。急いでいるようで間隔が短い。この感じからして村長かも知れなかった。


「待て! セレナ殿!」


 来終わる前に村長の声が耳に入る。そういえば使用人は一人だった。ちなみに使用人や村長が様や殿なのは私の身分を知っているからだ。知らない内に使用人がなにも言わず横に退き謹むようにこちら側に向いた。


「はぁ。間に合ってよかったわい。してこちらから頼みたいことがある」


 村長は使用人の横に付くとそう言った。こうしてだけど本当にたまに村長の依頼がある。会って挨拶をしない村長も珍しいけどなにか急ぎの依頼なのか。


「頼みたいことはなんですか、村長」


 訊かないと分からない、なんの依頼かなんて。頼りにされること自体は嫌ではないけど内容が分からないなんて酷い扱いだと思う。


「それはだな。三人の客人がまだ来んのだ。こういう危険な案件はセレナ殿に任せたくてな」


 丁度良い。三人の客人には私も用件があった。誰かは分からないけど選定者がいることは間違いない筈だ。


「これは憶測だが来る途中でなにかしらの事件に巻き込まれた可能性もある」


 事件か。あるとしたら馬車が壊れたか。それで歩きになったとか。それとも――。どれにせよこの案件は選定者以前の話だ。客人の安否が分からないままだと後味が悪い。この村で動けるのは私くらいだろう。


「分かりました。三人の客人が無事かどうかの確認をしてきます」


 これを解決しなければ村にまで被害が及ぶかもしれない。無事だと良いけど。


「頼む。この村の命運が掛かっておる。セレナ殿の運命を切り開く為にもな」


 そうだ。これは私の事でもあるんだ。気を改め直さないといけない。身も心も引き締まる思いだ。なによりも真顔になっていく。


「良いか。事件に巻き込まれた馬車ならいつも通りの道順ではないかも知れん。何事も無ければ良いのだが如何せん心配だ」


 いつも通りの道順なら知っているけどなにかあって道が外れてたら大変だ。見つからずに途方に暮れそうだ。その場合はアスファに頼むしかない。ここは念の為に伝えておきたい。だけど時間が――。


「アスファ殿かな。ここの伝言は使用人に任せセレナ殿は急ぎ向かってほしい」


 さすがは村長だ。長い付き合いのことはある。確かに私はなにかある度にアスファに助けを求めていた。


「では行ってきます」


 これから向かう場所は馬車の通り道だ。何事も無ければそこにいる筈だ。三人の客人もこの村も私自身の人生も守り切ってみせる。




 馬車の通り道にいるけどアスファみたいに空を飛べたらきっと見つかるのに御者すら見つからなかった。もしかしてただ稀に遅れている可能性もあった。だけどこれ以上に深追いすると返って不味いような気がする。どうしようか。


 余り賭け事はしたくないけどここは待ち構えてみよう、下手に動いたらアスファと合流出来なくなりそうだから。やはり深追いは止めておこうと思う。やるならアスファと合流してからだ。きっとアスファなら箒に跨って空から捜し出してくれる筈だ。


 私に出来ることは今ここで待つことだけ。虚しいけどこれでも十分だと思うしかいない。それにこれは選定者の思惑から外れている筈。きっと選定には関係無いから客人の無事を祈るしか出来ない。悔しいけど私には魔女の才は無かった。好奇心があった頃にアスファに箒を借りたことがあったけど私の魔力操作が覚束無いばかりにあらぬ様に飛んでいくを見せていた。


 今なら乗れるかも知れないけど箒を保有するには作るしか無く今ではお手製は少ないらしかった。しかも依頼しようにも作ってくれる人が本当に少なくアスファすら自ら手入れする程度に留めていた。けどこのままだと私は地に足を付いたただの鈍間な人間になってしまう。どうしよう、今の私では昔程の活躍は出来ないから。


「全く。……セレナらしいねぇ」


 アスファの声が聞こえた途端に見渡したけど誰もいなかった。空耳だったと右手を胸に当て心を落ち着かせ目を瞑った。アスファが得意とする魔力探知を私もしようとした、三人とも存命だと良いけど。


 駄目だ。やはり私の魔力操作では探知出来ない。こんなにもどかしいことは無い。待つことしか出来ないなんて酷過ぎる、こうしている内に時間が奪われていくのに。本当に私は鈍間な人間になってしまった。これからどうしよう。


「なにしてんだい! 捜しに行くんだろ?」


 脈打つような衝動に駆られ瞑るのを止めた。慌てて振り返るとそこには箒に跨り浮遊するアスファの姿があった。また助けに来てくれたことに私は心の底から安堵した。いつも私はアスファに助けられている。これからもこうであってほしい。


「安心はまだ早いよ! そら! さっさとお乗り! もう見つけたからね!」


 もう見つけた? さすがはアスファだ。空を飛びながらいつもの魔力探知で見つけたみたい。こんなにも頼りになるなんて本当にアスファは私の誇りだ。見つけたということは存命している筈。ここは急がないといけない。


 返事をする暇は無いと思い私は黙ったままアスファの箒に両手を使ってよじ登り跨った。アスファの背中に右手を当て懐かしさと同時に意を決し飛び立つことにした。相変わらず空は私に冷たかったけどアスファの温もりが私を支えてくれる。森の木よりも高いところまで浮遊すれば後はアスファが客人の元へ連れて行ってくれる筈だ。


「行こう! アスファ!」


 三人の客人が選定者なんて今は関係無い。たとえなんと言われても私は自分を取り戻すんだ。いつでも悪が間違っているとは限らない。でもそれでも今度の私は正義や悪を知りたい。操り人形だったあの頃とは違うってところを見せつけたい、それが私にとって自我を持つということだから。空の冷たさなんかに負けてられない。

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