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その災禍の黒賢者、実に身バレする  作者: 結城辰也
第一章 入学選定編
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第一話 セレナとアスファ

 私は操り人形なのだろうか。昔と違い平和な今、自我を持つのが難しい。


 ただ言えることは、もう災禍の黒賢者は必要無いということだ。だから私がするべき選択は人生をやり直すことだ。


 その為に今、出来ることは身分を隠し入学することだ。そう、アークデュナス魔法学院に――。


 なんでも白賢者を輩出する名門校らしく、相反する私では見合わないけどそこに答えがあると良いと思った。


 孤児院育ちの操り人形だった私が次に生きる場所がまさかこれ程までに自我を求めて来るなんて思いもしなかった。


 今は入学選定される日を待ち焦がれている。それまでに自我に慣れないといけない。


 なんでも認可された翌日に選定者が来て勝手に合格判定を出すらしかった。その後はアークデュナス魔法学院に連れて行くらしい。


 果たして私に合格判定は頂けるのだろうか。自我のない私では検討すらつかない。


 ちなみに私の住む村は人里離れているが列記としていた。だから来ない心配はしなくても良かった。ただ山間で行き来し辛そうだったけど。今日は晴れだから来るなら今しか無いはず。


 聴いた話によると選定者は男女や年齢さえも不詳らしい。だけど客人なんて滅多に来ないから到着したらすぐに分かりそうだった。特に年齢なんて予想出来そうで年少や高齢なんて魔法や魔道具の自助無しで来れたら驚くしかない。


 今言えることは十五才の私より年上であることは間違いないはず。しかも見た目が幼いだけで実は年上って可能性も捨てられない。


 これで外したら恥を掻くのだろうか。同じ人間なのに環境次第でこうも変わるなんて酷い有り様だ。私はもっと人間を知りたい。本来あるべき姿を取り戻すには時間が掛かりそうだった。きっと自我を得た頃には私は幸せになっているのだろう。


 こうしてそう思いながら辿り着いたのは私をこの村まで連れて来てくれた恩人のところだった。恩人の名はアスファと言って生ッ粋の魔女だった。アスファはいつもの場所にいる。そう。いつもの場所に――。


「まさかね。水汲み場で待ち惚けているなんてね。選定者が来るまで暇なのかい」


 この声は間違いなくアスファだ。今来たのはお互い様なのになぜか私が待ち続けていたことになっている。とはいえ別に約束した訳でも無いので奇遇といえば奇遇な光景だった。


「違う、暇は暇だけど」


 こうしてたまにアスファは水欲しさに井戸に来ることがある。なんでも薬を作るのに必須なのだとか。一体なにを作っているのだろうか。


「そうかい。……今日の客人は三人だそうだよ。目星は付いているのかい、選定者の」


 本当にアスファはなんでも知っている。人見知り以前の私にいつも優しく情報を教えてくれる。どうしてこんな私に優しくしてくれるのかは今でも分からない。訊いても惚けたような答えが返ってくる。


「三人の中に選定者が――」


 私が井戸の近くで腕を組んで独り言感覚でいるとアスファが水汲みを放置して話し掛けようとしてきた。


「あのさ。一人とは限らないんじゃないかい。もしかして全員がかもよ」


 面白そうに言う。確かにそれもそうだ。もしアスファの言う通りだったらどうしよう。全員の選定を受けなきゃいけないのかな。考えただけで嫌な気分になる。


「お願いだから三人は止めて欲しい、いくら私でも三人の選定を受けれる訳がない」


 今の私はただの村人なんだ。昔とは違うからそこを気を付けないといけない。全力を出し過ぎるときっと明かしたことになってしまう。ここはあくまでも期待の新人として選定されなけれないけない。


「そうだね~。今のセレナには難しいかもね~。ハハ。代われなくてごめんね~」


 うう。馬鹿にされたのかな。でもアスファの言った通りだから難しいはず。


「大丈夫、難しくても乗り越えて見せるから。元黒賢者の意地を見せ付けてやるから」


 勝手に安堵したけどまだアスファは言いたげそうだ。本当なら三人の客人について調べたいところだけどここは耐えよう。


「余り黒とか賢者とか言うもんじゃないよ。セレナはいつもそうだからね~。本当に困ったもんだね~。だからあれほど――」


 あ、アスファの言い癖が出た。これは長くなりそうだから早急に逃げたい。でも一度でも入ると話にならない。どうしようか。そうだ。きっと薬の話をすれば遠ざけられるかも知れない。


「あーアスファさ。薬はどうしたの? 作りたいんだよね?」


 むしろ逆に火を点けたみたいだった。アスファは私を大事にする余り見境が無いときがあった。今がまさにそのときだ。


「なにを言ってんだい! 可愛いセレナのことじゃないか! ここを離れるんだから手紙でも頂戴よ! 待ってるからね!」


 そうか。選定されて合格したらここを離れることになるんだ。手紙か。出したことなんて無いけど相手がアスファなら出してみようかな。私も人間なんだし出しても良いよね。


「待ってて! 絶対に手紙を送らせるから! あっちに行ってもアスファのことを忘れないからね!」


 まだ合格と言われた訳ではないけどもう決まった気でいた。なぜなら選定者の話をアスファから聴く度に行けると思ったから。なんでもひたすらに選定者の依頼をこなせば良いらしかった。それなら訊くだけで良いのかな。


「セレナ! 分かってないね! もし全員が選定者ならどうするんだい!」


 ぐ。もし全員が選定者なら依頼の量も三人分。しかも一人の可能性もある。これは慎重になるしか無いのか。ただ余りにやり過ぎるとやる気が無い人に思われそう。それだけは避けたい。


「セレナ! 功を焦ってもしょうがないよ! ここは地道に行くしかないね! 無駄とか考えるんじゃないよ! 良いね?」


 アスファ。


「うん。分かった。私の頑張りが功を結ぶところを見といてよ、アスファ」


 そうだ。それになにより白賢者になれば王国から認定証が手に入ってこの村を守って貰えるようになるんだ。だからこそ私は皆の為にも行かないといけないんだ。すっかり忘れてた。


「見届けるに決まってるじゃないかい! 今までどんな想いで育てて来たと思ってるんだい! セレナ!」


 有難う。こうしていられるのもアスファのお陰。こうやって会話していると人間として新しい自分に出逢えそう。つまりこれって楽しいんだ。自我があるってこういうことを言うのかな。


「私に名前をくれて有難う、アスファ。私が居なくなっても元気で」


 名前の無い私にセレナと名付けてくれたのはアスファだった。今思えば災禍の黒賢者だった頃は本当に操り人形だった。ただ言われた通りのことを仕出かし周りから恐れられていた。行く当ての無い私に魔法を教えてくれたのはアスファそのものだ。


「全く……とんだ才能だったよ。居なくなると寂しくなるけどね。可愛いセレナのためさ。盛大に見送ろうかね」


 あの時に慄くような表情だったのは覚えているけどとんだ才能と言われるまでになったんだ、私。なんだろうか、この気持ちは。もしかしてこれが嬉しいってことなの。


「私……頑張るから。この才能を今度は皆を救う方に使うから待ってて。アスファ」


 白賢者になれば王国から守られる側になれる。今はそれだけを信じ今度は自我をもって皆を守りたい。それが私の出来る精一杯の罪滅ぼしだ。恩返しなんて言えるような立場に無い。


「ああ。白賢者になれる日を心待ちにしているよ。さてとそろそろ行こうかね。薬でも作りにね」


 アスファ曰く魔法の才は無くだから薬作りをしているらしかった。そんな中で私はアスファに感謝しているから思う存分に薬を作らせようと思っていた。そのためにはまず私が選定者に認められなければ始まらない。ここからが本当の始まりだ。


「分かった。時間が出来たらまた挨拶に出向くからさ。その時はきっと合格を貰えているよ、絶対に」


 私が真顔で応え過ぎたのかアスファは不意に笑い声を上げた、その後はいつも通りといった感じだったけど。


「有難うね。セレナの優しさだけが生き甲斐だよ。そろそろ水汲みでもしようかね。それじゃあね」


 そうだった。アスファはまだ水汲みをしていなかった。なら今は離れるべきだ。そろそろ客人が到着してないかな、確か三人が来ている筈だけど。とにかく今は三人に会ってひたすらに選定者を探り当てないといけない。これから忙しくなるから覚悟しておこう。

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