第3話 協力開始
「とりあえず、まずは一緒に帰れるか?」
「…お願いします」
日村さんは小さくそう答えた。
あんな風に秘密を打ち明けられた後とは言え、日村さんが相変わらず俺に対する恐怖心を抱いていることは分かりきっていた。
どうすればなるべく怖がらせずに接することが出来るだろう。そう考えることで頭がいっぱいだった。
「………」
一緒に帰ろうとは言ったものの、話すことも無く、俺は沈黙に困っていた。
「そういえば、どうして男を怖いと思うようになったんだ?言いたくなければ言わなくていいんだけど…」
少しして、彼女は重い口を開いた。
「昔、父から家庭内暴力を受けていて…」
酷いことを聞いてしまった。俺はすぐさま謝った。
「嫌なこと思い出させてごめんな。」
それからまた沈黙が続いた。
そして、曲がり角に差し掛かった。
「それじゃあ俺、こっちだから」
そう言って、俺はまた歩き出そうとした。すると後ろから、小さな声が聞こえた。
「あの…」
思わず振り返る。
「今日は、ありがとうございましたっ…!」
それだけ告げて、彼女は足早に行ってしまった。
正直まだ、こんなことで力になれているのか不安ではあった。だが、彼女の言葉を聞いて、俺は少し安心していた。
今日は間違いなく、俺の高校生活が動き出した一日だった。家に着いてから、ずっとそんなことを考えていた。
だが同時に、どうすれば彼女の悩みと上手く向き合えるのだろうかと、頭を抱えていた。
「悩んでも仕方ない。とりあえず、明日からも少しずつ話しかけていくか…」
次の日も、変わらず日村さんは静かだった。だが、3限目が始まる頃、彼女はどこかソワソワしていた。
見ると、教科書を忘れているようだった。仕方ない。ここは、俺のを見せてあげよう。
「良かったら、俺の見るか?」
すると彼女は、こくりと小さく頷いた。
机を合わせ、一緒に一つの教科書を見る。もちろん彼女の体はすくんでいた。それでも、声をかけただけで逃げられた時のことを考えれば、彼女にとってこれは大きな成長だった。
「それじゃあ解散。来週提出の課題、しっかりやっておくように」
(そういえば、今日は金曜か…。)
部活に入っていない俺は、土日は基本的に暇で予定があることの方が少なかった。
「日村さん、今日も一緒に帰ろう」
「…はい」
ふと、休みの間に彼女と一緒に出かけるのはどうだろうと考えた。しかし、ようやく少し話せるようになったばかりだ。まだかなりハードルが高いだろうと思い、言い出さなかった。
「…橋本くん」
帰り道、珍しく彼女の方から声をかけられた。
「どうした?」
彼女はいつも通りオドオドして、夕陽に照らされた頬を赤らめながらこう言った。
「私と、連絡先…交換してくれませんか?」
思わぬ言葉に、俺は少し動揺してしまった。
「…ごめんなさい、いきなり言われても困りますよね―」
立ち去ろうとする彼女を慌てて呼び止める。
「待って!ちょっとびっくりしただけだから!」
こんなにドキドキしながら連絡先を交換するのは初めてかもしれない。今思えば、彼女の頬が赤かったのも、夕陽のせいではなく緊張していたからなのだろうか…。
第3話です。
書きたい展開は色々と浮かぶんですが、どうすれば面白く書けるのか分からず難しいです…。