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ep5 異世界でも借金生活突入

次の朝。


今日も異世界で目を覚ます。


「あー……現実なんだよなぁ……」


木造の天井を見上げながら、ぼんやりとそう思う。


一晩寝て、頭も少しスッキリした。

だけど、やっぱりここは夢じゃない。

変な神に人生リセットされて異世界に来たんだ。


「……さむっ!」


布団らしい布団もなく、冷たい空気が肌にしみる。

夏希は無意識に体を抱きしめる。


「40度……」


ぼそっとつぶやき、昨日試した温め魔法を使ってみる。


じんわりと、オレンジ色のオーラが手のひらからにじむ。


「……あったか……」


幸せだ。

こんな些細なことでも、ありがたいと思えてしまう自分がいる。


異世界で、初めて得た自分だけの力。


(……いけるかもしれない)


小さくガッツポーズをすると、外から元気な声が聞こえた。


「おーい! 夏希ー!」


パン屋のオキノだ。

相変わらず朝から豪快だ。


「おはようございます」


眠そうな顔で外に出ると、パンの焼ける香ばしい匂い。


「今日は町まで買い出しだ。お前さんもパン食うか?」


「ありがとうございます!」


迷わず飛びつく。

焼きたてのパンに手を伸ばし、頬張る。


うまい。

異世界に来て、一番の安らぎだ。


食べながら、ふと頭に浮かぶ。


(町……そうだ!)


「オキノさん! 今日、一緒に町に連れてってもらえませんか?」


「ん? いいぞ。一緒に行くか」


「あと……お願いがあるんですけど……」


夏希はパンを食べつつ、少し申し訳なさそうに手を合わせる。


「開業資金と、あと夜ご飯も食べたいので……一万エルマ貸してもらえませんか? 開業して、家賃と一緒にちゃんとお返ししますんで!」


「ははっ、お前さん、朝から飛ばしてるなぁ!」


オキノは笑う。

だけど、すぐに「わかった」と言ってくれた。


「期待してるぞ、夏希」


「ありがとうございます!」


やっぱり、いい人だ。


こうして、パン屋の馬車に揺られながら、町へ向かった。



町に着くと、夏希は思わず目を見開いた。


「すご……!」


活気にあふれている。

道には人がびっしりいて、大道芸人が炎を操っている。

通り沿いには露天が立ち並び、串焼き、甘いお菓子、見たことのない料理が並んでいる。


「お祭りか……?」


そう錯覚するほど賑やかだった。


「今日は市場の日だからな。特に人が多いんだ」


オキノが説明してくれる。


「へぇ……!」


気がつけば、夏希の足は露店に引き寄せられていた。


「お兄さん、これ何ですか?」


「お、旅人さんかい? これはフィンフィン鳥の串焼きだ。スパイス効いててうまいぞ!」


「じゃあ、それください!」


思わず買ってしまった。


一口かじる。


「んまっ!」


ジューシーでスパイシー。

異世界グルメ、舐めてた。

食べ歩きしながら、買い物もスタートだ。


まずはベッド。中古の簡単な折り畳み式があった。3000エルマ。

次にタオル数枚。これは雑貨屋で買えて500エルマ。

オイルとローションは材料調達にするので保留。

最後に看板用の木板と、筆やペンキ。


「この板、もうちょっと安くなりません?」


「お姉さん、頑張るねぇ……しょうがない、1200エルマでいいよ!」

「もう一声!」

「せっせっ1000エルマでどうだ!これ以上は無理だ、」

「買った!」

異世界でも値切りは有効だ。

なんだか懐かしい感じもする。


(これで全部そろった……!)


合計6000エルマくらいで必要最低限の道具は確保できた。




足りないものは、オイルとローション。


これは、自分で作ることにした。


《オイル》

・植物油(現地では「ミラ油」と呼ばれるもの)を購入。

・香り付けに「リフ花」というハーブも入手。


作り方

1.ミラ油にリフ花を漬け込む。

2.数日置けば、ほんのり甘い香りのマッサージオイルに。


《ローション》

・水(井戸水)

・蜂蜜(店で300エルマ)

・薬屋で見つけた「潤草」という草の汁(保湿効果あり)


作り方

1.水100mlに蜂蜜を小さじ1、潤草の汁を少し混ぜる。

2.混ぜるだけ。数日持つ、冷蔵(涼しい場所)保管。


「よし……!」


必要なものは、全部そろった。




最後は看板だ。


オキノにペンキとトンカチを借りて、トントン、カンカン。


「やるなぁ夏希」


「こういうの、やってみたかったんだよね」


作業中も、二人で他愛ない話をする。


そして、完成。


木板にペンキで書かれた文字――。


『メンズエステサロン春香』


オキノが首をかしげる。


「夏希って名前なのに、なんで春香なんだ?」


夏希は、筆を置いてニヤリと笑った。


「源氏名に決まってんじゃない」


「げ……源氏名?」


「まあ、プロの名前ですよ」


「は、はぁ……」


オキノは意味が分からないようだったが、気にしない。


自分の手で作った看板。

異世界での第一歩が、今、形になった。


「よし……やるぞ!」


夏希の心に、確かな炎が灯る。


異世界で、

『神の手』と呼ばれる未来に向けて。


開業準備、完了だ。

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