ep2 とりあえず、野宿はまぬがれた
夏希は集落に足を踏み入れ、あたりを見回した。
賑やかで平和そうな町並みが広がっているが割と都会だ。どこか懐かしさを感じるものの、大勢の人で賑わってもいる。特に、すれ違う人々はほんとうに異世界の住人らしく、素朴な衣服に身を包んでいる。外見は変わらないが、現代とは全くもってちがっていた。
「まさか、本当に異世界に来るなんて…」
自分の状況が理解できず、ぼんやりと歩いていると、ふと一人の中年男性が声をかけてきた。
「おい、旅人かい?」
その男性は、年齢的には40代後半、荒れた服を着て、肌も日に焼けている。なにやら屈強そうなな面構えをしているが、どこかやさしい雰囲気を纏っている。
「え、あ、はい。異世界に来てしまったみたいです。」
夏希は驚きと不安が入り混じった気持ちで答える。男性の目が驚きで見開かれるのを期待したが、どうやらそうでもないらしい。
「へぇ、珍しいもんだな。異世界に来るなんて。まぁ、ここではそう珍しくもないらしいが、実際にみるのは初めてだな。」
「えっ、異世界くるって珍しくないんですか?」
「おお、珍しくないとは言っても、異世界から来た者は少ないな。だが、昔から時折こういう者が現れるんだよ。俺のじいさんも似たような話をしてたしな。」
「そ、そうなんですね…。」
夏希は呆然としながらも、男性の言葉に耳を傾けた。彼はとても自然に異世界の存在を受け入れているようだ。これは思ったよりも簡単に異世界生活が始まりそうだと思った。
「君、今困ってるんだろう?見たところ、どうにも浮かない顔をしてるみたいだし。お前さん、困ったことがあれば言ってみな。ここじゃ、珍しい旅人を大事にするのが礼儀だからな。」
春香は少し驚きながらも、その親切心に感謝しつつ言葉を続けた。
「本当は…居場所がなくて困ってるんです。お金もないですし。」
「ふむ、そうか。まあ、俺の家は余ってるから、よかったら泊まっていけよ。」
「え、でもお金を持っていないんです。」
「お金か?今日は心配することはない。明日以降住みたいならまた考えればいい。」
夏希はその男性のあまりにもおおらかな対応に、思わず驚いた。どこか温かみのある人だとは思っていたが、こんなことになるなんて。
「ありがとうございます。今日はひとまずお言葉に甘えさせていただきます。」
「それがいいな。困った時はお互い様よ。」
その男性は、大きな口で笑うと、夏希に向けて頷いた。
「じゃ、今日はゆっくり休め。明日は明日、どうするか決めたらいい。」
夏希は深く息を吐き、少し気が楽になった。自分が異世界に来てしまったことの現実を受け入れながらも、彼の親切に感謝して、まずはその夜を休むことに決めた。