ep14 出稼ぎ。ダンジョン出張はレア鉱石と金の匂い
ある日の夕方。
店を閉めて片付けをしていた春香のもとに、いつもの顔が現れた。
「春香さん、ちょっといいか?」
「ガルドさん?」
常連の冒険者ガルドだ。
筋肉隆々で頼りがいはあるが、今日はどこか疲れ切った表情をしている。
「…実は頼みがあってな」
「また腰やった?」
「違う。今、ダンジョンの奥でレア鉱石掘ってんだけどよ…」
ガルドは仲間とともに、新たに見つかった鉱脈で採掘作業をしているらしい。
だが、ここ数日、泊まり込みで作業を続けているせいで、身体が限界だという。
「体バキバキで手も震えてきた。だけど、もう少しで掘り尽くせそうなんだ。だから…出張施術、頼めねぇか?」
「は?」
春香は耳を疑った。
「いやいや、なんで私がダンジョンまで行かなきゃならないのよ」
「頼む、春香さんの手が必要なんだ!」
「危ないところに行けって言うなら…それなりに報酬、弾んでくれるんでしょうね?」
春香は腕を組み、目を細めた。
「タダ働きするほど慈善家じゃないからね。命の危険があるなら、危険手当込みでいくらくれるの?」
「ぐっ…わ、わかった。これでどうだ!」
ガルドは小袋を差し出した。
中には金貨がぎっしり詰まっている。
「……いいでしょう!」
春香は即答した。
(これだけ貰えるなら…まぁ、行ってもいいかな)
こうして、「施術士春香、初のダンジョン出張」が決定したのだった。
翌日、店をルミカに任せ、冒険者たちと一緒にダンジョンへと入っていった。
「うぅ…暗いし、ジメジメしてるし…モンスターとか出ないよね?」
「まぁ、小物ならちょいちょい出るけど…安心しろ。俺たちが守る」
「小物でも出るんかい!!」
そして数分後。
何かが春香の肩に落ちてくる。
「きゃああああ!」
「うおっ、スライムだ!」
「燃やすぞ!」
「ちょ、燃やす前に取ってぇーー!」
普段は店で穏やかに施術をしている春香にとって、モンスター遭遇は未経験。
終始ビクビクしながら、どうにか採掘現場に到着する。
現場には、腰に手を当てて唸る男や、腕を回しながら「バキバキ鳴るぜ」と笑う男たちがいた。
「…あんたたち、大丈夫?」
「大丈夫じゃねぇ、限界だ!」
「まったくもう…横になって!」
春香はオイルを取り出し、持参した施術道具をセットを広げた。
アロマをたき、むさ苦しかった空間が一気に華やかになる。
「いくよ…!」
筋肉にオイルを馴染ませ、滞った血流を流していく。
溜まった疲労物質を押し出し、リンパこれでもかと刺激する。
「あぁぁ…効く…」
「おぉ、腕軽くなった!」
「春香さん、マジ神の手だわ…!」
春香は内心「こんな所怖くて施術してる場合じゃない」と思いつつも、褒められるとやはり嬉しい。
「ほら、次!」
「はいっ!」
次々と体をほぐしていくうちに、現場の空気が変わる。
「あれ、体が軽い…」
「よし、もうひと掘りいけるな!」
復活した冒険者たちが気合いを入れ直す。
「なんで私、異世界で採掘作業員のマッサージしてんのよ…」
春香は呆れつつも、袋いっぱいの金貨を思い浮かべてニヤリと笑った。
採掘が無事終了し、一行はダンジョンを脱出。
「春香さん、助かった! これ、お礼だ!」
ガルドから報酬を受け取る春香。
「うんうん、いい仕事だったわ!」
春香は満足そうに袋を抱きしめた。
「また頼むかもしれねぇけど…その時もよろしくな!」
「もちろん、その時は追加料金ね!」
異世界ダンジョン施術士
そんな肩書きが増える日も近いかもしれない。
(でも、やっぱり店で普通にやるのが一番楽でいいわ…)
春香はそう思いながら、ルミカのいる家路についたのだった。
そういえばルミカに源氏名を与える設定あったの忘れてた……くっ……




