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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
情に棹させば流される
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夜明けは近く(1)

 ベースキャンプの第四班パイロットはアラートブザーに跳ね起きる。すでに夕日は落ち、ルオー含め彼らも夕食後のひと時をくつろいでいたところだった。


「なに、考えてやがる! 夜だと?」

 オスルが吠える。

「夜陰に紛れての脱出を試みるつもりでしょう。敵も追い詰められているということです」

「しかしな、ターナ(ミスト)使用の夜間戦闘なんて命捨ててるようなもんだぜ?」

「相手にもそれだけの覚悟があると心構えが必要です」


 電波撹乱をするターナ(ミスト)下での戦闘が有視界範囲内になるのはレーダー照準が効かないという点だけではない。敵味方認識も困難になるからだ。

 識別信号(シグナル)も伝達範囲が200m程度まで落ちてしまう。光学望遠自動認識も働いてくれない。真夜中ならば、気がついたら敵が横にいるという事態も起こりかねない。


「識別灯点けてるのが味方で点けてないのが敵でやるしかないか」

 夜間もしくは宇宙用の識別灯を示唆する。

「それも模倣してくる可能性があります。信用には値しないという認識で」

「なんて厄介なんだ」

「慎重に慎重を期して臨むべきです」

 危険性を説いた。

「そんなこと言って、スナイパーのお前が一番難しくなるんだぜ?」

「僕はなんとかします」

「なんとかするって……」

「方法がなくはないのですが、他の人が真似できるとも思えませんので聞かないでください」


 射線が見えるルオーならば味方を撃ってくるのが敵と認識できる。しかし、それを説明するのが困難だし、瞬時に判断して応射できるのも彼一人だ。


「少し距離があります。ライジングサンを出しますので取り付いてください」

 現地まで飛行していかなくてはならない。

「わかった。シュー隊長、全員、戦闘艇で移動できるって」

「助かる。頼む」

「総員、搭乗」


 自機に走った全員がコクピットに飛び込んで発進準備をする。一部のアームドスキンはスクランブルの可能性が低い夜間にと基台に乗せて整備に入っていたので遅れた。


「急げ急げ! 他班に遅れを取るな」

「もー、まだ夕食がお腹に残ってるのにー!」

 クレームが殺到する。


 そうしているうちに上空にライジングサンの船体がやってきた。海水の雫が垂れる中で心配そうなクーファを見つめる。


「コリトネルたちを解放してきます。君はキャンプで待っててください」

「うん、助けてあげてぇ」

 全身を使って激励とともに送り出してくれる。


 ヘルメットを被ってパイロットシートに身を預け起動操作をする。ルイン・ザはいつもどおりに目覚めてくれた。


「現地まで可能なかぎりのスピードでお願いします」

 プロテクタが降りて現れたティムニのアバターに要請する。

『はいなー。でも、簡単な戦闘じゃなくなるよー?』

「仕方ありません。そのつもりでのこの時間帯なんでしょうから。君は退避しておいてくださいね」

『りょーかい。放出したら逃げるねー』


 目立つ船体はターゲットにしかならない。戦闘空域から避難しておくよう伝えた。


「全員乗ったな? 発進するぞ。ルオー君、頼む」

「わかりました。出ますよ」


 100mの船体に十機ものアームドスキンが乗っかる。パトリックのカシナトルドとルイン・ザの二機は通常格納し、残り八機が船体上に身を伏せた。


「作戦概要を伝える」

 しばらくすると軌道艦隊にいるクガ・パシミール司令からの通達。

「ポイントに示した当該海域で一斉に海上ドローンが破壊された。他に同様の地点はないので本命と思われる。貴官らは目標海域に速やかに移動。浮上してくる密猟者の輸送船を捕捉、これを確保し現住生物の保全を図れ」

「了解」

「なお、かなりの抵抗があると思われる。離脱阻止の最終ラインのため軌道部隊からの応援は基本的にない。夜間という困難な状況下の戦闘に留意し、誰一人欠けることなく作戦を成功させることを望む。私からは以上だ」


 シュスト隊長が一括して応答する。全員が徐々にモチベーションを上げていく訓示で締められた。


「当該海域まで三分です。ライジングサンは全機放出後に一時離脱します」

 通知する。

「軌道艦隊から中継子機(リレーユニット)が落とされる。接続して相互認識を図れ。それ以上の措置はない。各機の自己努力による健闘を祈る」

「全員、聞いたな? どこまで敵味方認識ができるかは不明だ。同士討ち(フレンドリファイア)を避け、容疑者の撃破を試みる。隊長、あとは?」

「それでいい、オスル。総員、心して掛かれ」


 星明りだけの海上をライジングサンが重力波(グラビティ)フィンを金色に輝かせながら進む。吸い込まれそうな漆黒の海面を眺めていると不安感が掻き立てられるだろう。


「なんか、最悪のコンディション。こういうの勘弁してほしいよね?」

「だよね、フローネ。あいつら、ほんと最後まで嫌らしい攻撃しかしてこないんだから」

「所詮犯罪者の考えることよ。ろくなもんじゃない」

 女性陣は一斉に非難する。

「モッサ、うちの仕切りよろしくね」

「頼りにしてるから、リーダー?」

「簡単に言ってくれるな。ぼくだって夜間戦闘なんてそれほど経験ないんだから」


(慣れない環境での戦闘になるから必要以上に神経質になってるねぇ。マイナスに働かなきゃいいけど)

 空気を感じる。

(少し強引に行きますか)


 ルオーは初撃のイメージが大事だと思った。

次回『夜明けは近く(2)』 「撃たせろ撃たせろ。撃ってきたやつから墜ちる」

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