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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
情に棹させば流される
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流されるも(6)

 オスルが探していると、ルオーはウサ耳の女の子と砂浜にいた。波打ち際に座り込んでいる青年は現住生物にまとわりつかれている。


「お前、なにしてんの?」

 打ち寄せる波を蹴立てて近づく。

「彼らと遊んでいただけです。珍しいですね。他の誰かが近づくと逃げ出してしまうんですが」

「このピラピラがか?」

「ええ。どうやら、その人の発する空気みたいなものを読み取っているみたいです。モッサさんはずいぶんとストレスを抱えているので避けてました。君は危害を加えるタイプじゃないと判断したようです。善人なんですね?」

 ストレートに言われると照れる。

「俺が善人だったら、世の中善人で埋め尽くされてるって」

「心根の問題です」

「そういうもんか?」


 隣に座るとヒラヒラと泳いできた固有種が触手を伸ばして触れてくる。特に気にならないので好きにさせておいた。すると、ルオーのように身体に這い上がってくるものも出てくる。


「それよりな、訊いておきたいことがあったんだよ」

 なんとなく手が動いて固有種を撫でている。

「なんです?」

「お前、ずっとクガ司令からスカウトされてんだろ? なんで受けないんだ」

「それですか」

 微笑みともため息とも取れるものをもらしている。

「そりゃ正規隊員になるとなれば面倒だ。公務官試験をパスしなきゃならない。でもな、見返りは大きいぞ。俺がドンデミル号事件で出てた会見みたいに名誉も手に入る」

「そういうことじゃないんですよ」

「じゃ、なにが欲しいんだよ」


 拒む理由が知りたいというのもある。それ以上に彼のような男が後衛(バック)にいると心強い。要は、一緒に働きたいと思ってしまうのだ。


「選択の自由です」

「そこまで縛られてないぞ?」

 色々とルールはあるが厳しい機関ではない。

「でも、どの案件に出動するかは選べないでしょう?」

「そりゃ当然な」

「そこが問題なんです」

 現住生物をあやしながら言う。

「GPFは警察機関に近い。現に罪が行われているときか、罪が行われたと明確な訴えがないと動けません。でも、民間軍事会社(PMSC)なら罪が行われるかもしれないという不安さえも依頼(オーダー)を請ければ解消できるのです」

「それは……確かにな」

「実際はそんな単純ではないと承知してます。PMSCも星間管理局の細則がありますから」


 ライジングサンのように管理局籍を持つ事業者は特に細かな規定がある。それに違反すると籍を停止されることもあり得る。


「家庭の事情でなかなかに自由のない進路選択を強いられてきました」

 打ち明け話が始まる。

「そこから解放されたとき、僕は思い切り身勝手に生きてみようと思ったんです。それなりに技能があるとわかったので軍事関連に進むのはやぶさかではない」

「それならGPFも選択肢に入ったんじゃないか?」

「はい。でも、自分の技能を活かして役に立てる相手を選べない。だったら、PMSCという自由な立場で助けたい人を助けようと思いました」

 あっけらかんと言う。

「今は選べてるのか?」

「好きにやってますよ。クガ司令も真に平和を願っている方だから助力したいと思いました。なので多少は優先させていただいてます」

「そうか。世の中にはお前みたいな男もいるんだな。やっとわかったよ」

「ただの変わり者ですよ」


 謙遜するがルオーの言わんとしているところも理解できる。身勝手を主張できるくらいの腕前が青年にはある。それならば、犯罪を未然に防げる彼みたいな存在がいるのも悪くないと思えた。


「なんだかんだと大変だろうしな」

「意外と忙しいです。こういう案件に関わらせていただけると気が休まります」

「そんな呑気にしてるから、こいつらに玩具にされるんだぞ?」

「そうですねえ」


 下半身が見えないくらいに集まっている。懐かれているというレベルではない。


(こいつからアームドスキン乗りの剣呑さが全く感じられないから、クガ司令も目が離せないのかもしれないな)


 同僚でなくとも友人になりたいと願っている自分にオスルは驚いた。


   ◇      ◇      ◇


 木陰から覗いていたパトリックは立ち去っていくGPF隊員の姿を目で追う。彼がルオーを探していると耳にしたのでトラブルにならないかと追っていたのだ。


(あいつもほだされたか。ルオーには変な魅力があるからな)

 彼も取り憑かれた一人である。この男の傍にいれば世界が広がるような気がした。

(コリトネルだっけ。肩入れしたな。密猟者どもも運の悪い連中だぜ。こいつを本気にさせちまうとはね)


 パトリックはルオーの後ろ姿に近い未来を見ていた。


   ◇      ◇      ◇


「綺麗ですね」

「プー」

「ププー」


 コリトネルたちと沈みゆく夕日を眺める。オレンジ色に染まった光球が形を歪めながら水平線と融合していく様は、なにか神々しいものを感じさせる。クーファも混ざって最後の光まで消えゆくのをただ黙って見つめていた。


(彼らには夕日を美しいと感じる情緒があるんだ。もしかしたら、コリトネルたちが文明を持つのも遙か先の未来じゃないかもしれない。だったら、まずはこの居場所(ニコルララ)を守らなきゃいけないねぇ)


「ライジングサンは君たちの明日を暗闇に閉ざしたりしない」

「プピ?」


 ルオーは胸に宿った誓いを手に乗せて海洋生物の身体を撫でた。

次回『夜明けは近く(1)』 「慎重に慎重を期して臨むべきです」

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