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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
情に棹させば流される
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流されるも(3)

 作戦方針も決まり、任務の終わりも見えてきた。その分、パトリックの争奪戦も激化している。いっそのこと、彼が誰かに決めてくれれば沈静化もあるとモッサは思うのだが、意外と煮えきらない態度で女性陣を翻弄していた。


(女性を口説き落とすのが目的じゃなくて、自分に注目を集めるのが狙いなのか。なんて厄介な男なんだ)

 ルオーに関わらないのが身のためと忠告された意味がわかる。


 こういった閉鎖環境では、自分以外の男がモテるのは我慢ならないと感じるのだろう。一人ひとり気を持たせては、付かず離れずの距離を取る。


「ピレニー? そろそろこの騒ぎを収めてくれるつもりはないか?」

 堪えきれずにストレートに切り出す。

「パットのこと? これはね、一つの遊びなの。みんな、恋の駆け引きを楽しんでいるだけなのよ。わかんないかな?」

「わからないな。好きか嫌いかだけでは終わらないのか?」

「ほんと、鈍いんだから。例えば、お互い程よく好きでいて、どっちがより熱心かで付き合ったあとの力関係は変わったりするでしょ? そういう駆け引きもあんの」

 複雑怪奇な遊びをしている。

「理解できない。そんなことしてたら疲れないか?」

「だから遊びだって言ってるの。モッサだって趣味に没頭してたらいつの間にか時間過ぎてることない?」

「あるな」

 妙な例えに当惑する。

「その間、疲れを感じたりする?」

「ないかもしれない」

「それと同じ。恋のゲームを楽しんでるうちは疲れたりしないの。逆に気晴らしになってる。あなたもストレス解消しなきゃ」


 どの口で言うと思ってしまう。彼女たちの行動そのものが彼のストレスになっているのだ。逆に楽しめと言われても困る。


「だったら、もう少しバランスを取ったらどうだ?」

 提案する。

「例えばルオーくんは? 彼だって優秀なところを見せてくれたじゃないか。魅力に感じないのか?」

「駄目だめー。あっちはもう固まってるんだもん」

「固まってる?」

 なんのことかわからない。

「クゥちゃんのこと」

「クーファ君か。兄のように慕ってるんじゃないのか?」

「ため息出る。あれは恋する乙女の目でしょ? それくらい察せられないと楽しめないから精進して」


 彼女たちもルオーのことは認めてはいるが、すでにペアができているから割り込まないようにしているという。人間関係を壊さない配慮をしているらしい。


(ああ、ぼくには理解できないゲームをしてる。ヤキモキしているのが馬鹿みたいだ)


 それでも無視はできないモッサであった。


   ◇      ◇      ◇


「どうだった?」

 ピレニーがモッサと話していたのは他の女性陣も覗き見ている。

「全然。どうすれば悩まないですむかわかんないみたい。自分がもっと積極的になれば上手にバランス取れるかもしんないのに」

「鈍感よねぇ。誠実ではあるんだけど」

「なんていうか、下手」

 フィルフィーやタムも苦い顔をする。

「もうちょっとプレッシャー掛けてあげないと駄目かな?」

「フィーったら鬼畜ぅー」

「でも、ありかも」

 意見は一致する。


 勘違いしたままでは進みも戻りもしない。自分が牽引力と包容力を発揮すれば自分たちのうち誰かを射止めるのも可能な位置にいると気づかせなければ進展はないと思える。


「どうしよ?」

「じゃ、こうしない?」


 ピレニーたちは顔を合わせて企みを講じた。


   ◇      ◇      ◇


「プー」

 水鉄砲を掛けられる。正確にいうと鼻鉄砲か。


 コリトネルは鼻から塩を噴く。海水から入ってしまう体内の過剰な塩分を鼻で抽出して放出しているのだ。それを遊びにも使う。ルオーは周囲から集中攻撃を受けていた。


「やめてくださいね。僕を塩漬けにしても美味しくはなりませんから」

 額に当たる場所をコツンと突つく。

「おや?」


 胡座をかいている上にいつの間にか貝殻の山が築かれていた。何匹ものコリトネルが代わるがわる触腕で積み上げていく。


「貝殻?」

 一つ摘み上げて考える。

「ああ、あのドローンに悪戯したのは君たちだったんですか。あははは」

「どうしたのぉ?」

「彼らには海上ドローンも遊び相手だったみたいです」


 甲殻類の甲羅を吸水口に詰められて故障していたドローン。その原因が彼らにあるとわかって愉快すぎて声を立てて笑ってしまった。


「悪戯したらメッなのぉ」

 クーファは叱っているポーズ。

「君の悪戯より可愛いものですよ」

「うっ、やぶ蛇だったぁ」

「みんなが暇しないよう別の遊びをしましょうね。準備はいいですか?」


 クーファが自慢げに自分のヘルメットを掲げる。今日は彼女もフィットスキンだった。これからコリトネルと海中で遊んでみようと準備したのだ。


「これは宇宙用ヘルメットなので内圧式になっています。保証耐圧深度は10mしかありません」

「はーい」

 良い返事だ。

「それ以上潜るのはなしですからね。もっとも、このへんの浜は遠浅なので、よほど沖に行かないかぎりは大丈夫なはずです」

「夢中にならないようにするぅ」

「不安ですね。まあ、外圧アラームを掛けておくので問題ないでしょう」


 ルオーはクーファのヘルメット装着チェックを行った。

次回『流されるも(4)』 「懲らしめて、ルオ」

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