想いは巡り(6)
密猟者のアームドスキンを追撃する星間平和維持軍の機体とパトリック機。作戦は成功したかに思えたが敵もさるもの、新たな局面を迎える。
「ソナーに映る数が急に増えた。増援か?」
若干タイムラグがあるものの、明らかに増えているとモッサは感じている。
「誘い込んだつもりなのでしょう」
「誘いだって?」
「ソナー探知を受けていたのに海上ドローンを破壊して目潰しをしなかった。それが作戦だったのです」
ルオー曰く、海底に味方をひそませておいて囮で敵を引き込む。釣られたら一斉に攻撃するという手順。
広域捜索に踏み切った星間平和維持軍を撹乱するためにまずは各個撃破を目論んだらしい。目標にされたのがたまたま第四班だった。
「わかっていたのなら……、いや、実際に起ってみないとわからないか」
当然のこと。
「いえ、予想はしてました」
「だったらどうして?」
「それくらいは跳ね返す力があるからですよ」
散発的に海中ゲリラ戦を仕掛けてくる敵機。浮上してきたところをルオーのルイン・ザは狙撃する。驚くべきは一撃たりとも外さないのだ。
(とんでもないスナイパーだ。これを知っていたからGPFの司令は彼らを頼ったのか)
改めて納得する。
首元に直撃するスナイピングビーム。粉砕され千切れ飛ぶ頭部。モッサたち傭兵のアームドスキンは大破機の掃討をするのが役目になる。
ただし、数は想定したよりも多かったようだ。海中で逃げ回る密猟者をGPF機は仕留めきれない。浮上しては彼らに攻撃してきた。
「気をつけろ」
リフレクタをかざして防戦しつつなのは変わりない。
「円形陣を張ってお互いの背中を守れ」
「やってるけど……、真下ー!」
「くっ!」
上空に位置したルイン・ザからは死角になる位置を狙われた。ピレニー機は一撃目をどうにか躱したが姿勢を崩している。二撃目を避けられない。
「ピレニー!」
リフレクタを前に突っ込む。
「モッサ!」
「大丈夫だ!」
「でも!」
ピレニー機は肩を当てて逃がせたが彼は連射を喰らう。リフレクタで防いでも反動で機体が泳いだ。至近弾が装甲を焼く音が聞こえて背筋が凍る。
「まだぁ!」
応射は海面を叩くだけで効果を示さない。別の敵機が浮いてきてタム機が狙われた。機体ごとさらうように抱きついて抜ける。右膝を撃ち抜かれ、切れたプラズマチューブが高熱を振りまいて断面が焼ける。
「こんなんじゃ……!」
「そろそろ慣れたでしょう、パット?」
次の敵機が海面を割ると同時にレモンイエローのアームドスキンも姿を現した。飛び出した機体を蹴りつけ、一閃して撃破した。
「天使ちゃんたちの危機にヒーロー登場!」
「大破機が出てからでは遅いですよ」
次々と浮上してくる敵機を迎撃している。密猟者とは比べるまでもない、高い戦闘力で圧倒した。
最後には、海中へと逃げようとする相手を腕一本で掴んで引き上げる。海面すれすれに投げつけて捲れさせ、ビームランチャーで一撃して破壊した。
「パワー、スピード、テクニック! このオレに敵うものなし!」
「君に足りないのは視野です」
後ろに浮上したアームドスキンをルオーが狙撃する。
「警戒してくださいよ」
「それはルオー、お前の仕事だ。だからこそバディに選んだんだからな」
「僕は選ばれたかったわけじゃないんですけどね」
なんだかんだ言いつつも二人は素晴らしいコンビネーションで密猟者を撃墜していく。数分後には破片となって海に沈んでいった機体と、パイロットが失神するか負傷するかして戦闘不能になったアームドスキンが浮いているだけになった。
(跳ね返す力。本当だった)
モッサは愕然とする。
民間軍事会社『ライジングサン』の二人は星間平和維持軍のアームドスキンに勝るとも劣らない働きをもって戦場を支配した。
(カシナトルドのあのパワー。イオンスリーブ搭載機を十全に使いこなしている。そうでなくては、あれほどの自信は示せないということか)
そこへルオーのスナイピングが加わるとほぼ無双状態だ。確認はまだだが、おそらく二十機以上の密猟者のアームドスキンが撃破されただろう。
「よし、ご苦労。確保と聴取は軌道班に任せる」
シュスト隊長が宣言し、降下部隊の接近が見える。
「全機撤収する。大破はモッサ、君だけか?」
「すみません」
「彼はウチたちを助けるのに撃たれたの。責めないで」
ピレニーがフォローしてくれる。
「もちろん評価は戦闘解析のあとのことだ。今は助け合って帰投してくれ。以上」
「ありがと」
「いや、当然のことだ」
片足を失ってバランスの悪い機体をフィルフィー機が支えてくれる。ピレニーとタムが前後を固めて警戒してくれていた。
(大した働きはできなかったが仲間は守れた。それで良しとしよう)
少しは自身を誇れる。
「ほら、もう怖いものはないだろう、オレの天使たち」
カシナトルドが並んでくる。
「うん、パットもめっちゃ格好良かった」
「しびれたわ。今夜は祝勝会よ」
「もちろんさ。酔った君たちも可愛いんだろうな」
戦闘中の鋭さはない。
「酔わせてなにする気だ。てめぇ、許さないぞ」
「なんもできなかったルガーは黙ってて」
「そうそう」
また元通りの面倒な状況にモッサは閉口した。
次回『流されるも(1)』 「じゃ、恨みっこなしで勝負ね」