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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
情に棹させば流される
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想いは巡り(2)

 モッサが待機中の気晴らしに散歩していると言い争う声が聞こえる。不穏な空気と聞き慣れた声音に走っていくと、やはりルガーがパトリックに噛み付いていた。


「お前、どういうつもりなんだよ。うちの女どもに適当に粉かけてまわりやがって」

 今にも胸ぐらに掴み掛かりかけない勢いだ。

「なにか変か? 彼女たちはあんなに魅力的なんだ。褒め称えないほうがおかしいじゃないか」

「全員狙ってるとでも言うのかよ」

「選ぶのは彼女のほうだ。オレは選ばれるよう努力を欠かさないだけさ」

 方向性はともかく、筋は通っている気がする。

「結局誰でもいいってことだろ? お前なんかに遊ばれたら不幸になるぜ」

「君ならいいってのかい? そもそもあの天使たちを『女ども』なんて呼んでいるうちは不適格だね」

「このやろう!」


 図星を指されてとうとう掴み掛かろうとする。堪らず彼は身体を割り込ませて止めた。そのとき、ルガーの肘が頬に当たる。


「つっ!」

「モッサ!? わ、悪い」

 不本意だったか、ルガーは身を引いて目を伏せる。

「これくらいはいい。でもな、暴力沙汰はやめてくれ。これ以上の悶着は遠慮したい」

「そんなん、こいつがナンパをやめりゃ俺だって」

「横恋慕は見苦しいね。悔しければ、オレ以上に好きにさせればいい。誰を守ろうとしてるんだか知らないけどね」


 ルガーが誰に惚れているかはモッサも知らない。わかれば最低限トラブルは回避できるかもしれない。


「ルガー、君は誰がパトリックに奪われるのが嫌なんだい?」

 諭すように尋ねる。

「タムなんかまだ男に遊ばれたら傷つくような年だろ?」

「彼女か。若いが、もう大人だ。恋愛は自由だろう」

「ピレニーだって身持ちの固いほうだから妙な噂になるのはマズいし、フィルフィーも根は真面目だから本気になっちまいそうで可哀想だし」

 次々と名を挙げていく。

「ルガー、君は……」

「それに、あのフローネってGPFの娘もせっかく頑張って正規隊員になったんなら、民間軍事会社(PMSC)の男なんかに引っ掛かるようだと困るんじゃないか」

「あのな……」


 要するに特定の誰かを守りたいのではなさそうだ。パトリックがタイプ的にいけ好かないのか、あるいは。


「あっはっは。つまり、モテたいってことだろう?」

 当然笑われてしまう。

「それなら、行動を改めるのは君のほうだ。彼女たちにモテるよう努力をすることだね」

「違う。ただ、外の奴に持ってかれるのは気に入らないだけだって」

「だったら、フローネは関係ないだろう? 自分を誤魔化しているようじゃ、選ばれることはないね。断言する」

 もっともなことを言われてルガーは憤慨する。

「ともかく、お前みたいなのは女の敵だ。絶対に近づけないからな」

「愚かしいことだ。磨くべきは自分であって、他人を蹴落とすことじゃない。それがわからないうちは女性陣に子供扱いされても仕方ない」

「いやいや、ルガーにも良いところはあるんだから、そこを認めてもらえばいい」


 パトリックが正しいと思っても、この場は収めなくてはならない。咄嗟のことで雑なフォローしかできなかったが。


「どうしてもっていうなら受けて立たないこともないが、オレも君と喧嘩したいわけじゃない。どちらが彼女たちに選ばれるかの勝負だったら喜んで乗るけどさ」

 パトリックが鼻で笑っている。

「くそ、苦手だとわかっててそうやって馬鹿にすんだろ? そんなとこが許せないんだよ」

「なぜだい? 最初からあきらめてればなにも起こらない。アピールして玉砕したほうがよほど建設的だと思うね」

「玉砕前提で言うんじゃねえ」

 再び気色ばむ。

「君たちはとことん性が合わなさそうだな。もう少し胸襟を開いてお互い接しられないものか?」

「どうしてオレが男なんかと?」

「なんで俺がこいつなんかと?」


 議論にもならない。双方が互いを理解できない性質をしている所為でどこまでも平行線だ。


「ルガー、君はもうパトリックのことは気にするな。どう足掻いたところで恋愛関係で敵う相手じゃない」

 無駄だと思いつつも諭す。

「冗談じゃない。モッサ、お前がこいつを止められないんなら、俺が女どもを毒牙から守るしかないじゃんか」

「もちろん彼女たちにも控えるように言っとく。でも、いい大人なんだから限界はあるだろう? それくらいは理解してくれ」

「結局、この女たらしの思うままじゃないか。お前までそんなんじゃ、どうにもなんないぞ」

 不信感は拭えないまま。

「パトリック、君もなんとかならないか?」

「オレは当然のことをしている。男として生まれたからには女性に選ばれるのが本懐だ。生物学的に問題あるなら根拠を示してもらおうか」

「そんな複雑な話をしているんじゃない。丸く収める努力をしてほしいだけなんだが通じないかな?」


(あきらめたほうがいいとルオーが言ったのが身に沁みてわかってきた。女性関係でこの男を御するのはまったくもって不可能だろう。働き掛けるのなら女性陣のほうか。納得してくれればいいが)


 モッサは頭が痛くなるのを堪えて対策を考えた。

次回『想いは巡り(3)』 「ジャストフィットぉ!」

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