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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
情に棹させば流される
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想いは巡り(1)

 惑星ニコルララの気候は安定している。平均気温が26℃と高めなのを除けば過ごしやすいといえよう。日中は30℃を優に超えてくるし湿度もそれなりなのだがフィットスキンを着ていれば生活に支障が出ることもない。


(環境が緩いと気も緩むものだろうか)

 モッサ・オーラーは困った光景に気を揉む。


 ライジングサンのパトリック・ゼーガンが設営されたベースキャンプのベンチに座っている。隣を占めているのはベリーショートのさっぱりとした印象の女性。やってきた当初はトラブルに興味なさげにしていた星間(G)平和維(P)持軍(F)のパイロットの三人目である。


(軍人気質なのかと思えば、普通の女性だったか)


 名前はフローネ・カレント。二十一歳というから第四班の中でもかなり若い。ただ、パトリックとルオーの二人も実は二十一だというから驚かされたのもある。


 ベンチの二人は特に艶っぽい雰囲気でもないが、親しげに話しては彼女が笑うという構図。パトリックは女性を楽しませるのを得意とするタイプなので会話が弾んでいるのだろう。

 それを物陰から戦友のフィルフィーとピレニー、タムがうらやましそうに覗き見ている。三人が機を見て割り込もうとするのを、ヤキモキしながら窺っているのはルガー・ダファムである。非常に面倒くさい人間模様が展開されていた。


(普段なら気にも掛けないんだがな。こういう少人数の班分け体制ってのが少ないから気にしないでいられた)


 数十人単位の集団であれば、大概は調整役向きのお調子者が混じっているものだ。彼らは意識もせずにグループの空気を作っている。モッサのような苦労症には不向きの役割である。


「でさ、シュー隊長が言うわけよ、『もっと周りをよく見て自分を抑えればタイミングを間違えたりしない』って。でもねえ」

 悩み相談だろうか。

「君みたいな素敵な人は別に無理しなくとも周りが放っておけないさ。必ず君を中心に進むんだから」

「無理むり。GPF(うち)なんて朴念仁の宝庫なんだから。だって、あたしの目の前で平気で上裸になるようなデリカシーのない筋肉馬鹿ばっかりだし」

「それは愚かしいことだね。人類は本当の宝というのを認識すべきだと常々思ってる。女性という人類共通の宝をね」

 名調子で続ける。

「いずれ気づくさ。素敵な君が傍にいればね」

「パットったら紳士なんだもん。一部の盛りのついた犬みたいな男どもとは違う」

「男というのはすべからく紳士であるべきなんだ。君にかしずく、さ」


 自然に肩に手を回しているがフローネは嫌がらない。これだけ持ち上げられれば悪い気はしないし、ほだされもしよう。パトリックのような美男子であればなおさら。


「ねえ、パット。夜は海上偵察ドローンも止まるし、あたしの部屋で飲まない?」

 色っぽい話になってきた。

「いいのかい?」

「話したいだけ。そんな軽い女じゃないもん」

「違うさ。その場合、君を酔わせるのは酒じゃなくオレの言葉になるからね?」


 彼女は軽く頬を赤らめて嬉しそうにしている。飲むだけで終わらないのは誰の目にも明らかだ。


「ちょっと、勝手言わないでくんない?」

 ピレニーが我慢ならないとばかりに飛び出した。

「ウチたちのほうが先に誘ったんだからこっちが優先。そうでしょ、パット?」

「困ったな。オレのこの身が一つなのが悔しくてならないよ。幾つもあれば君たち皆を幸せにしてあげられるのにさ」

「そんなの無理なんだから譲んなさい」

 フローネのほうに迫る。

「黙ってて。パットがあたしを選んだんだからあんたのほうが譲れば?」

「この……!」

「ちょっと好き勝手言い過ぎ。なになに? 傭兵(ソルジャーズ)だからってあたしたちを見下してるの? そんなん今どき許されないって知らない?」


 フィルフィーまでもが加勢していく。タムも追随して加熱していった。


「数に任せて言うこと聞かせようって? 格好悪ー。パットはあんたらみたいなの相手しないし」

 嘲笑われる。

「やっちゃう?」

「いいじゃない? 喧嘩する気満々みたい」

「いやいやいや、ちょっと待つんだ、君たち」

 さすがに放置できなくなった。

「喧嘩は良くない。私たちは今はチームだろう? 仲良く任務に励もうじゃないか」

「なによ、モッサ。それってウチが任務に私情持ち込んで失敗するって言ってるわけ? 馬鹿にしないでよ」

「もちろん、そんなことはないと思ってる。でもな、普段から親睦を図っていれば、もしものときの連携も深まるってもんだろう?」


 利のあることと説く。しかし、彼女たちはそんなので納得する状態ではない。口喧嘩は続き、時折り彼が身体を割り込ませねばならないほどだった。


(こいつはとんでもないトラブルメーカーだ)

 パトリックはさも困ったふうにしているが、楽しんでいる感じがする。

(ルオーは病気だと言っていたが、周囲に感染までさせるタイプだと手に負えない。責任もって管理してくれないと困るが……)


 ルオーはあきらめているようで、ペットのように後をついてくるウサ耳の少女を従えて砂浜を探索している。手を繋いで海を指さしている姿はまるで本当の兄妹のようだ。


(って、和んでる場合じゃない)


「ここは一つみんなでだな?」

「駄目! 決めてもらうの!」

「だったら、パトリック、君は私と飲め」

「えー、男と? 勘弁してくれよ」


 モッサは親の仇でも見るような目で美男子を見るが堪えているふうがなかった。

次回『想いは巡り(2)』 「全員狙ってるとでも言うのかよ」

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