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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
情に棹させば流される
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海の星で(3)

 派手な格好で派手な登場をしたのはとんでもない美男子だ。浅黒い肌に整った顔立ち。紫に染めた長髪を手で払うと流し目を寄越し、女性たちが色めき立つ。


(トラブルの予感しかしない)

 モッサ・オーラーはうんざりとする。


 彼自身、精悍な顔立ちといわれ、傭兵協会(ソルジャーズユニオン)のような刹那主義的人間の集団ではそれなりにモテてきた。ゆえに、女子陣がその男にどのような反応をするかも十分に予想できる。


「めちゃいい」

「眩しい。眩しいじゃない」

「おー」


 当の男もヘルメット片手に颯爽と降り立つと「やあ、ここは天国かい? 天使が三人もいるじゃないか」と持ち上げる。となれば、黄色い悲鳴があがりもしよう。


「オレはパトリック・ゼーガン。君たちは?」

 一人ひとり手を取ってキスを送りつつ言う。

「ピレニー・シュレンよ」

「フィルフィー・バクスター。フィルって呼んで」

「タム・コートデム」


 それぞれに自己紹介を交わしている。パトリックと名乗った美男子は彼ら男子陣に目もくれない。明らかにそういう人種だった。


(まあ、よくいう女たらしなんだろな)

 観察するまでもない。


「気持ちはわかります。ですが、あれは病気なんであきらめてください」

 気づくともう一人男がいる。


 明るい金髪は目立つが、全体に眠そうな面持ちの青年だ。パトリックと違って冴えない空気を全身から発している。それゆえに近づいてきたのがわからなかったのかもしれない。


「君は?」

 同じ苦労症の匂いがする。

「ルオー・ニックルといいます。お待たせしました、民間軍事会社(PMSC)『ライジングサン』です」

「構わないよ。まだ任務は始まっていない。GPFさんのほうが来てないから」

「みたいですね。よかった」


 ふと見ると、ルオーという青年の後ろには少女がいる。肩から提げたポーチを開け、いそいそとウサ耳を頭に着けると自信満々で腰に手を当てる。


「クゥはクーファ・ロンロンなのぉ」

 反応に困る。

「これはご丁寧に」

「挨拶は大人の基本だしぃ」

「大人?」

 舌っ足らずな感じのする甘ったるい口調で胸を張る。

「彼女は人種的特徴で身体は小さいですが立派な成人なんです」

「そうなのか。失礼」

「わかればいいのぉ。クゥは寛容ぉ」


 なんともバラエティに富んだ面々である。捉えどころの無さに非常に困惑した。


「ベースキャンプは設置中なんですね。完成して体制が整ってからの捜索になるのでしょう」

 基本の段取りは理解しているようだ。

「おそらくな。頃合いを見てGPFのアームドスキンも降ろすんだろう。なにせ、母艦を降ろさない計画なんで機体整備もベースキャンプで行うしかない」

「僕たちは船ごと降りたのでお手間を掛ける心配はないのですが、皆さんの機材管理もGPF任せですもんね」

「そっちはいつもより充実してるくらいになるはずなんだが」


 母船のある二人は整備等もいつもどおり船内で行うのだろう。他はベースキャンプに設置された星間(G)平和維(P)持軍(F)の基台で作業を行う予定だった。


「だったらルイン・ザも中に置きっぱなしでよかったのにぃ」

 クーファが航宙船(ふね)のほうを見ている。

「基本、ターゲットを発見し次第のスクランブルになるんで島に出しておかないといけません。いちいちライジングサンに移動しないと発進できないでは困るでしょう?」

「ほんとだぁ」

「なので待機もベースキャンプのお世話になる感じです。話しましたが、クゥは乗っててもいいんですよ?」

 そんな会話もあったらしい。

「仲間はずれ嫌ぁ」

「ですよね。一緒にいましょうね?」

「うん、すきぃ」


 情緒まで彼女は子供っぽいので戸惑う。パイロットでもなさそうなので、どうして連れ歩いているのか気になる。


「クーファさんはなぜ?」

 不躾とは思うが尋ねておく。

「というのも、慣れていないと思うが、傭兵(ソルジャーズ)というのは少し一般と違う部分もあるので、問題にならないよう不要な接触は避けたいんだ」

「クゥは医療担当(メディカル)なんです。広範な知識もあるので、なにかあればお役に立てるでしょう」

「なるほど」

 納得した。

「こうした、あまり人間の手が入ってない地ではどんな健康トラブルがあるかもわかりませんからね」

「クゥにお任せぇ。たちどころに改造してあげるのぉ」

「いや、改造しちゃ駄目ですよ」


 予想とは違った意味で空気がだらける。民間軍事会社(PMSC)だというから、もっとだらしなくて粗野な連中が来るものばかりと思っていたのだ。

 ところが、しっかりしているようでどこかおかしい。緊張感はまるでないし、マイペースでお構いなしに行動している。


(こんなメンツが揃ったんではどうなるかわかったもんじゃない。GPFさんがきっちり仕切ってくれないと迷走しそうだ)

 先行きが不安である。


「ああ、いらっしゃいましたね」

「あれか」


 アームドスキンが三機降下してくる。GPFカラーのオリーブドラブに彩色された機体は重力波(グラビティ)フィンをひるがえすと島の砂浜に静かに降り立った。


「みんな、挨拶するぞ」

 パトリックを囲む女子陣と、それを睨みつけて今にも食って掛かりそうだったルガーを呼び寄せる。


 ところが、GPFパイロットのほうが大股で喧嘩腰に近づいてきたのでモッサは驚いた。

次回『海の星で(4)』 「お前がルオー?」

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